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恋と死刑と無期刑囚  作者: 畑中雷造の墓場
第一章 恋と死刑の出会い
2/49

腐るように死んでいくだけ

     1


『あんたなにしとったんこの一年⁉』

 アタシは今、休日の夜のみ解放される談話室で、テレビを眺めていた。ドラマの再放送のようだった。

 周囲にはアタシと同じく白黒の囚人服を着た女が大勢いる。パイプ椅子に座って大人しく画面を見ている。娯楽の少ない監獄内では、テレビ視聴はかなり人気なのだ。

 アタシはなんとなく、今のセリフを自分にも問うていた。この一年、いや、獄入りしてからの五年間、何をしていたのか。

「……」

 記憶を探り、脳内に呼び起こす。

 飯。刑務作業。たまにセックス。

 あとは……。あれ?

 アタシは戦慄した。たった、それだけだった。

 脳内で五年分の記憶を呼び起こすと、たった数秒で終わってしまった。肌が粟立つ。アタシは腕をさすり、ゾワゾワする鳥肌を収めようとする。

「ネっちゃん?」

 トントン、と肩を叩かれ、アタシは我に返った。見ると、周りの女たちがぞろぞろと歩いて部屋から出て行くところだった。テレビはもう消えていた。

「ネっちゃん、ほら、帰るよ!」

 隣のコーヌが、立ち上がってアタシの腕を「んーっ」と引っ張り上げた。小柄で、力も弱い。ボーイッシュな灰色の髪の下に童顔が赤らんでいる。子供みたいなその行動につい笑ってしまう。

「ごめんごめん」

 アタシは立ち上がり、コーヌの灰髪を撫でてやる。動かす手に抵抗してくるこのゴワゴワした毛の感触が好きだ。

 談話室を出ると、無機質な廊下が現れる。アタシたちはこれから、一般房棟に戻るのだ。

 一般房棟には、一般囚と無期刑囚が収容されている。無期刑囚とは死ぬまで監獄で過ごす刑を受けた囚人のことだ。アタシもそう。

 横を歩くコーヌがアタシの肩に頬をぴたりとくっつけ、腕を絡ませてくる。可愛いな、と思って見下ろすと、子犬みたいな濡れた黒い瞳で見上げ返してくる。

「で、ネっちゃんっ、テレビは生き甲斐になりそう?」

「うーん。……どうかな?」

「そっか~。まあっ、急には見つからないよねっ!」

「うん。まあ、ゆっくり探すよ」

 アタシが生き甲斐を探しているのは、数日前に同房の無期刑囚の婆ちゃんが死んだからだ。『ネネ、あんたは生き甲斐を見つけるんだよ』と後悔するように最期にそう言った。

 その時アタシは恐怖を覚えた。……そうだ、アタシも、いつかこんな風に死んじゃうんだ。何もせず、ただ、寿命が尽きていくだけ。この狭い、退屈な世界で。

 婆ちゃんの言った通り、せめてなにか楽しいこと——生き甲斐——を見つけなければ、腐るように死んでいくだけだ。婆ちゃんの後悔の顔を思い出すたび、アタシのその気持ちは強くなっていった。

 一般房棟に入ると、開けた空間がアタシたちの前に広がる。囚人たちの話し声や笑い声がいつも通り聞こえてくる。背後で看守が檻を閉める音がした。

 檻のついた狭い房が、左右に十五個ずつ並んでいる。一階は左右合わせて六十人、空きのある二階には四十人ほどが収容されている。

 アタシもコーヌも自分の房は左側の二階にあるので、出入口の脇にある階段を昇っていく。二階の通路に出ると、アタシは手すり側を歩く。万が一にもコーヌが落ちたら困るからだ。

 三つ隣の房に住むコーヌを送り届け、アタシは自分の房に戻った。

「ただいま」

 婆ちゃんはもういないのに、一人だと寂しくて言ってしまう。

 アタシは洗面台の前に立ち、鏡の中の自分を見ながら歯を磨き始める。

 艶のあるピンクの髪の毛は両サイドの高めの位置で縛っており、肩の数センチ上の毛先は癖で外側に跳ねている。顔のパーツも整っており、自分で見ても結構可愛いと思う。肌の手入れなんて一切していないのに、若々しくて綺麗だ。十九歳だから当然か。

 ……でも、これがなあ。

 歯磨きする手を止め、首の入れ墨を見やる。『1082』と、濃い青字で彫られている。囚人は全て、首に囚人番号を入れられるのだ。一般囚は黒字で書かれ、釈放時には綺麗に消えるようになっているらしいが、無期刑囚は違う。一生外に出ることはないので、消えない入れ墨でくっきりと刻みつけられてしまっている。

 アタシはただ、襲ってきた強盗を返り討ちにしただけなのに。

 殺人に厳しいこの国では、正当防衛で人を殺した少女でさえも無期刑囚にされてしまうのだ。

 歯磨きと洗顔を終えたアタシは、婆ちゃんが前まで使っていた下段のベッドに寝転がった。なんとなく首の入れ墨をなぞりながら、

「生き甲斐なんて、こんなとこにあるの? 婆ちゃん」

 そう呟いて、閉房点検を待った。

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