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恋と死刑と無期刑囚  作者: 畑中雷造の墓場
第二章 恋と死刑の日々
27/49

     14


 アタシは斧を振りかぶって、眼前の死刑囚の脳天をかち割ろうとしていた。灰色のコンクリートで固められたここは、紛れもなく死刑部屋だ。元電流椅子に固定されているのは、しかし、ジンと呼ばれる処刑したはずの男だった。脳天から脳漿が飛び出ている。

「妹に会えなかったのはお前のせいだ! この快楽殺人鬼が!」

 海藻のような黒く長い髪を揺らし、男は唾を飛ばしてくる。目隠しは外されていて、怖いくらいに目を見開いている。アタシの呼吸は乱れ、心臓は常軌を逸したようにバクバクしている。

 瞬きすると、男は消え、今度はおばさん死刑囚——ジェニーだ——が現れた。ひじ掛けの先から指がぼとりと落ち、アタシの足元に転がってくる。ジェニーはアタシを喰い殺さんばかりの目で睨みつけていた。

「あんたは、絶対にわたしが地獄に堕とす……!」

 過呼吸になりそうなくらい呼吸が荒くなり、アタシは苦しくなってくる。再び瞬きすると、今度はくすんだブロンドの少女、チェルニマールが姿を現した。鼻がぐちゃぐちゃに潰れている。口を開くと割れた歯がボロボロと落下する。

「死ね、このクソ女! 死ね死ね死ね死ね!」

 憎悪のこもった眼差しがアタシを刺し殺そうとしてくる。たまらず斧を振り下ろそうとするが、突然、椅子が傾き、横に倒れていった。床でバウンドしたのは、レイプ魔の頭だった。それが首から離れてゴロゴロと転がり、壁にぶつかって止まる。深い穴のような黒目で、アタシをじっと瞬きせずに見続けている。一瞬にして、破裂しそうな勢いで心臓が跳ねる。全身の汗腺が開き、一気に汗が噴き出してくる感覚。

「俺はお前をぜってえ許さねえぞ! 俺たちをいたぶって殺したてめえを、呪いつづけてやる——!」

 すぐ後ろから喉が焼き切れそうな大声がして、はっと振り向くと、十字架に固定された坊主頭のキャッジの顔が目の前にあった。アタシは後ずさり、その姿を見る。腹にいくつもナイフが刺さっている。アタシを見るつり目の淵から、ドロッとした絵の具のような赤が溢れ出てきた。それは鼻からも口からも耳からも腹の穴からもとめどなく溢れ出てくる。

 アタシはとうとう叫んでいた。斧を振り下ろそうとするが、しかし、動かない。なんで、なんでだ——、と必死に腕に力を込めるが、頭上の斧はびくともしない。

「ネネ、お願いだ、殺さないでくれ! 俺はお前のことが大好きなんだよ!」

 血まみれのキャッジがいつの間にかミストに変わっており、看守服を着たまま泣き叫んでいた。その姿を見ると、なぜか頭上の斧は呪縛が解けたように動き出し、

「やめろ! やめろぉ、ネネ——!」


「——っ!」

 アタシはそこで飛び起きた。暗闇の中、手元のシーツの白さがうっすらと見える。目玉が痙攣しているのか、景色が揺れ、焦点が定まらない。荒い息とバクバクする心臓と大量の汗、という自分の状態に気づく。

「夢……」

 呟き、最後に感じたあの感触を確かめるように手のひらを見る。夢のはずなのに、脳天をかち割った感触が残っている気がする。つばを飲み込もうとすると喉の奥にトゲが刺さったような痛みが走る。アタシは水を欲して、ベッドから出る。

「怖い夢でも見た? お姉さんが抱きしめてあげようか」

 起こしてしまったのか、二段ベッドの上からヤウリィが顔だけ出してからかってくる。余裕がないため、うるせぇ、とかすれた声が出る。暗闇の中、手探りで蛇口をひねり、水を出す。火照った体を冷やすため、水をすくって飲む。洗面台に手を突いて鏡を見つめる。アタシは今、どんな顔をしているのだろう。暗くてよく見えない。

 食道から胃へ、そして全身に染みわたっていく冷えた水の感覚が、ようやくアタシを落ち着かせた。深く息を吸い、長く吐きだす。

 今見た夢の意味を、考えてみる。たぶん、あれは、ずっと奥底に押し込めていた自分の心だ。だとすると……。

そうか、アタシは——。

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