疑問
13
キャッジとの楽しい死刑の後、三回ほど死刑を執行したが、あのときの快感に勝るものはなかった。あれはどうやったらまた手に入るんだろう、と考えながら、アタシは今、草をむしっている。
今日は休日で、刑務作業がない。昼食後、一時間の外休憩時間に、アタシたちは広場にいた。外広場は四方を高いフェンスで囲まれていて、囚人たちが芝を踏んで好きに動いている。バスケットコートで守備を抜いてシュートする女や、芝の上で大の字になって日光浴している女や、じゃれてキャッキャと追いかけっこしている女たちもいる。でもまあ、アタシらのように芝に座って駄弁っている女たちが大多数だ。頭上から太陽の熱が降り注いできて、額に汗がじんわり浮かんでくる。
「でさー、最近、死刑が本当に好きなのか疑問なんだよね。婆ちゃんが教えてくれた生き甲斐、みたいなものがこの先、死刑で得られるのかなってさ」
ここ数回は快感よりも、死に際の死刑囚からの呪詛のほうが頭に残っている。そろそろ夢にまで出てきそうだ。
「だからもう、ミストとの恋一筋でいいのかもなってちょっと考え始めてる。どう思う? ヤウリィ先生」
「私は、セックスするときは妻子持ちのほうが興奮する」
「は?」
興奮を抑えたエロい表情のヤウリィが、顔を傾けてくる。会話が噛み合ってない気がする。
「その質問は、難しい。人それぞれ、好きなものは違うから。ネネの感覚は私には分からないけれど、私はセックスするときは妻子持ちのほうが興奮する」
「いや、だから意味わかんないよそれ。ったく、セックスマシーンだなぁ」
「人生はセックス」
嫣然とほほ笑む白髪の美女は、そう断言する。コーヌにどう思う? と目で問うと、ニパァ、と無邪気な笑顔が返ってきた。なんだそれ。アタシはため息を吐き、
「……まあいいや」
自分で考えよう、と折り合いをつけた。
「最近は快感を高めるために焦らしセックスしてる」
「ん? なにそれなにそれっ!」
研究熱心なヤウリィの言葉に、コーヌが興味を示した。
「初日は手を繋ぐまで、つぎはキスするまで、とか肝心の行為をお預けにして、決めた日にちに溜まった欲望を解放する。とても、いい」
「へえ、そんなやり方あるんだね、ボクはネっちゃんを前にしたら我慢できないけどなあ」
「言うねえ」
あざといコーヌのセリフにアタシは笑い、コーヌの灰髪を抱き寄せてガシガシと撫でてやった。
「そういえばさ、つぎの作業場、どこになるのかな?」
コーヌが顔を上げて言った。アタシたちが作業していた場所は、もう完成してしまったからだ。女子専用看守休憩室になった。今ごろはもうロッカーや机、椅子などが運び込まれているはずだ。
「どこでもいいけど、ミストと同じがいいな。……まあそうなっても、ボス猿が邪魔してくるだろうけどね」
離れた場所にいるロッドが目に入る。ロッドの視線の先には、目立つ青い髪をふぁさっ、とかき上げるアンシュの姿があった。広場の端と端に陣取っているから、争いに発展することはないだろう。前に両者が揉めた後、どちらの陣営もしばらく懲罰房にぶち込まれたおかげで、最近は言い争っているところすら見ない。坊主頭を楽しんで処刑したことはロッドも知らないから、アタシに突っかかってくることもなかった。
「アタシもミストに聞けたら聞くけど、一応ヤウリィも作業場の割り当てを探っておいてほしいんだけど、頼める?」
「わかった。——を味わうためなら、なんだってやる」
——って。相変わらず情熱がすごい、ヤウリィは。
「ありがと。ちなみにもう標的は決めてるの?」
今後セックスする男看守に狙いはつけているのか、という意味だ。
「候補は何人もいるけれど、まだ声はかけてない。ネネがミストとセックス成功させてからでも遅くはない。ヤリ看はポケットに一応入れておくけれど、もっと新鮮で若いオスのほうがいいから」
「メスの吸血鬼か」
ヤウリィの綺麗な白髪頭をパスっ、と叩くと、ヤウリィは嫣然と口元に弧を描く。コーヌも「ネっちゃんすごい! ボクにもツッコんで!」と頭を差し出してくる。
「コーヌには別のものを突っ込んであげるよ、ぐっへっへ」
「へんた~い!」
きゃー、と胸を押さえて後ずさるコーヌを見て、アタシは笑う。死刑の快感のことなんか、このときだけはすっかり忘れていた。




