あーんして
「え、どうなってるの?」
「まあ、いいのいいの。とにかく、二人きりになれたでしょ」
不思議そうな顔をするミストの手を引き、奥に行く。重ねた肥料の上にブルーシートを敷いて、その上に座っていたらしい。アタシはミストのすぐ隣に座る。さきほどからいい匂いがすると思っていたが、その正体はなんと、お弁当だった。
「え! ミスト、もしかしてこれ……!」
ミストの席には、二人分のお弁当箱と、ミニクロワッサンが詰まった袋があった。片方のお弁当箱はもうミストがほとんど食べてしまっていた。
「ごめん、先に食べちゃって。——ネネ、お腹空くだろうと思って。はいこれ」
久々のお弁当箱を手渡され、アタシは感動する。めちゃくちゃ嬉しい! それに、レンジ(休憩室にあるのかな?)でチンしてきたのか、ほの温かい。クロワッサンの袋も手渡される。
「これ、本当に食べていいの……?」
「うん、いいよ。……内緒だよ」
アタシは蓋を開け、中を見る。ミニトマトにブロッコリー(マヨネーズかかってる!)、卵焼き! たこさんウインナー! ポテトサラダ! えー! 待って待って、ホントに嬉しい!
監獄の食事からすると、これは紛れもないご馳走だ。
アタシは箸で卵焼きをつまみ、半分かじってみる。
「うわあっ、美味しい!」
ミストを見ると、だろ? と誇らしげに笑っている。アタシは次々と食べ進めていく。
「ミスト、全部美味しいよ、本当にありがとう!」
アタシはもはや泣きそうになっていた。感動で胸がいっぱいだった。あっという間に空になった弁当箱を返し、つぎはミニクロワッサンの袋を開けてみる。バターのいい香りがする。一個手に取り、丸々口に入れてみる。
「あ……幸せっ」
サクサクとした食感と、舌の上で溶けていくバターの濃厚さが、たまらない。はあぁ、と口から幸せが漏れ出てくる。
でも、と、アタシは首を振る。そうだ、今は昼休憩の貴重な時間だ、せっかくの話すチャンスだ。頭を切り替えなきゃ。
と、ふとミストがここにいることが不自然なことに今さらに気づく。看守たちは、ふつう看守休憩室で食事をとるのではないか。だとしたら、他の看守たちは、ミストが昼休憩時にいなくなっている状況を、どう思っているのか。怪しまれないはずがない。
「ミスト、この時間、休憩室にいないのって変に思われないの? たとえば誰かが探しに来たり……」
「ああ、大丈夫だよ。外の空気を吸いながら食事するのが好きって言ってあるから。実際、いつも適当な場所で風に当たりながら食べてるんだ」
「そ、そうなんだ、なぁんだ、心配しちゃった」
「安心していいよ、今だけは二人きりだから」
ふふ。嬉しい言葉を言ってくれる。えいっ。アタシは思い切って股の間に座ってみる。うおっ、とミストは驚いた声を出したが、避けようとはせず、
「大胆なんだね、ネネは」
と照れたように笑った。
椅子の背もたれに体重を預けるように、背中を軽く倒す。人肌の体温を感じる。
前に医務室で質問したときの答えもしっかり覚えているよ、というアピールをしておく。
「アタシ、ミストのこともっと知りたいな。えっと確か、好きなものはホラー映画で、休日は映画見たり、サイクリングしたりするんだよね。で、一生懸命なにかを頑張っている子がタイプだったよね」
「よく覚えてるね」
アタシは背中でミストの温もりを感じながら、すこし考え、質問した。
「じゃあ、子どもの頃は、どんなだったの?」
「うーん……」
子どもの頃の自分を思い出しているのか、振り返ると、ミストは宙を見ていた。間近で見るとさらにかっこいい。顔が熱くなる。
「……えいっ」
医務室で触れたゴツゴツした手にまた触れたくなり、アタシは手を取り、自分のおなかに回してみる。
「え……、さすがに照れるなこれは……」
と言いながらも、ミストは手を回しておなかの前で組んでくれる。密着状態。まるで本物のラブラブカップルみたいだ。
それからミストは語ってくれた。子どもの頃のミストの話を聞きながら、アタシは想像力を働かせてミスト少年の元気に走り回る姿や、おもしろ可愛い物語を脳内で楽しんだ。
「これ、うまく食べられないんだけどさ、ミスト、食べさせてくれない?」
「うん? ハハッ、ミニクロワッサンがかい? ……しょうがないな」
ミニクロワッサンの袋を差し出すと、ミストは一つ手に取ってくれた。
「あーんして?」
好きピに後ろから腕を回され、密着した状態であーんしてもらう。こんなことは、人生初めてだった。ミストの顔が驚くほど近い。ミニクロワッサンをパクっと食べ、ついでにミストの指も舐める。
あ、ヤバい。暗いのも相まって、ムラムラしてきた。
指を舐めたり吸ったりする音が、倉庫内に響く。ミストも嫌がってはいない。アタシの目をじっと見つめている。このまま押し倒したい。
あーでも、もう昼休憩終わっちゃう、短いな、もっといたいな——。
ミストが腕時計を確認して言った。
「もっとこうしてたいけど、戻らなくちゃね」
そうだね、と答えたアタシはしぶしぶ立ち上がり、ミストの手を引き、倉庫を出た。
「じゃあね」
鍵を開けておいた窓からこっそりと作業場に戻った。手を振ると、ミストも手を振り返してくれる。
「ああ、またね」




