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恋と死刑と無期刑囚  作者: 畑中雷造の墓場
第二章 恋と死刑の日々
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あーんして

「え、どうなってるの?」

「まあ、いいのいいの。とにかく、二人きりになれたでしょ」

 不思議そうな顔をするミストの手を引き、奥に行く。重ねた肥料の上にブルーシートを敷いて、その上に座っていたらしい。アタシはミストのすぐ隣に座る。さきほどからいい匂いがすると思っていたが、その正体はなんと、お弁当だった。

「え! ミスト、もしかしてこれ……!」

 ミストの席には、二人分のお弁当箱と、ミニクロワッサンが詰まった袋があった。片方のお弁当箱はもうミストがほとんど食べてしまっていた。

「ごめん、先に食べちゃって。——ネネ、お腹空くだろうと思って。はいこれ」

 久々のお弁当箱を手渡され、アタシは感動する。めちゃくちゃ嬉しい! それに、レンジ(休憩室にあるのかな?)でチンしてきたのか、ほの温かい。クロワッサンの袋も手渡される。

「これ、本当に食べていいの……?」

「うん、いいよ。……内緒だよ」

 アタシは蓋を開け、中を見る。ミニトマトにブロッコリー(マヨネーズかかってる!)、卵焼き! たこさんウインナー! ポテトサラダ! えー! 待って待って、ホントに嬉しい!

 監獄の食事からすると、これは紛れもないご馳走だ。

 アタシは箸で卵焼きをつまみ、半分かじってみる。

「うわあっ、美味しい!」

 ミストを見ると、だろ? と誇らしげに笑っている。アタシは次々と食べ進めていく。

「ミスト、全部美味しいよ、本当にありがとう!」

 アタシはもはや泣きそうになっていた。感動で胸がいっぱいだった。あっという間に空になった弁当箱を返し、つぎはミニクロワッサンの袋を開けてみる。バターのいい香りがする。一個手に取り、丸々口に入れてみる。

「あ……幸せっ」

 サクサクとした食感と、舌の上で溶けていくバターの濃厚さが、たまらない。はあぁ、と口から幸せが漏れ出てくる。

 でも、と、アタシは首を振る。そうだ、今は昼休憩の貴重な時間だ、せっかくの話すチャンスだ。頭を切り替えなきゃ。

 と、ふとミストがここにいることが不自然なことに今さらに気づく。看守たちは、ふつう看守休憩室で食事をとるのではないか。だとしたら、他の看守たちは、ミストが昼休憩時にいなくなっている状況を、どう思っているのか。怪しまれないはずがない。

「ミスト、この時間、休憩室にいないのって変に思われないの? たとえば誰かが探しに来たり……」

「ああ、大丈夫だよ。外の空気を吸いながら食事するのが好きって言ってあるから。実際、いつも適当な場所で風に当たりながら食べてるんだ」

「そ、そうなんだ、なぁんだ、心配しちゃった」

「安心していいよ、今だけは二人きりだから」

 ふふ。嬉しい言葉を言ってくれる。えいっ。アタシは思い切って股の間に座ってみる。うおっ、とミストは驚いた声を出したが、避けようとはせず、

「大胆なんだね、ネネは」

 と照れたように笑った。

 椅子の背もたれに体重を預けるように、背中を軽く倒す。人肌の体温を感じる。

 前に医務室で質問したときの答えもしっかり覚えているよ、というアピールをしておく。

「アタシ、ミストのこともっと知りたいな。えっと確か、好きなものはホラー映画で、休日は映画見たり、サイクリングしたりするんだよね。で、一生懸命なにかを頑張っている子がタイプだったよね」

「よく覚えてるね」

 アタシは背中でミストの温もりを感じながら、すこし考え、質問した。

「じゃあ、子どもの頃は、どんなだったの?」

「うーん……」

 子どもの頃の自分を思い出しているのか、振り返ると、ミストは宙を見ていた。間近で見るとさらにかっこいい。顔が熱くなる。

「……えいっ」

 医務室で触れたゴツゴツした手にまた触れたくなり、アタシは手を取り、自分のおなかに回してみる。

「え……、さすがに照れるなこれは……」

 と言いながらも、ミストは手を回しておなかの前で組んでくれる。密着状態。まるで本物のラブラブカップルみたいだ。

 それからミストは語ってくれた。子どもの頃のミストの話を聞きながら、アタシは想像力を働かせてミスト少年の元気に走り回る姿や、おもしろ可愛い物語を脳内で楽しんだ。

「これ、うまく食べられないんだけどさ、ミスト、食べさせてくれない?」

「うん? ハハッ、ミニクロワッサンがかい? ……しょうがないな」

 ミニクロワッサンの袋を差し出すと、ミストは一つ手に取ってくれた。

「あーんして?」

 好きピに後ろから腕を回され、密着した状態であーんしてもらう。こんなことは、人生初めてだった。ミストの顔が驚くほど近い。ミニクロワッサンをパクっと食べ、ついでにミストの指も舐める。

 あ、ヤバい。暗いのも相まって、ムラムラしてきた。

指を舐めたり吸ったりする音が、倉庫内に響く。ミストも嫌がってはいない。アタシの目をじっと見つめている。このまま押し倒したい。

 あーでも、もう昼休憩終わっちゃう、短いな、もっといたいな——。

 ミストが腕時計を確認して言った。

「もっとこうしてたいけど、戻らなくちゃね」

 そうだね、と答えたアタシはしぶしぶ立ち上がり、ミストの手を引き、倉庫を出た。

「じゃあね」

 鍵を開けておいた窓からこっそりと作業場に戻った。手を振ると、ミストも手を振り返してくれる。

「ああ、またね」

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