刺しちまった
10
自分の房の前の手すりから、アタシは一階の様子を見ていた。隣のコーヌとヤウリィ、その他の囚人たちも同じように、階下の成り行きに注目していた。
一階の中央にある房の前で、ボス猿連合四人とレズ軍団三人が睨み合っていた。レズ軍団が房の中を守るように檻の前に立っている。坊主頭が青髪のアンシュに向かって威勢よく吠えた。
「だから、俺が謝る筋合いはねえっつってんの! そっちが謝れよ! 早く出てこいよ!」
「わたくしの愛するしもべを深く傷つけたのは貴様だろうが。貴様が頭を垂れろ」
尊大に腕を組んだレズ軍団頭は、上から見下ろす格好で言った。
「肩ぶつけてきたのはあの地味な女だ、てめえには関係ねえよ!」
「……おつむが弱いな、坊主。ロッド、どう落とし前つけるつもりだ?」
どうやら、また小競り合いがあったらしい。食堂での一件の続きだろうか。黒髪お下げちゃんは房の中に匿われている。
んだとっ! と挑発に乗って襲い掛かろうとする坊主頭の腕を、ロッドが捕まえて抑える。
「どうもこうもない、あたしはそっちが悪いと思ってるからね。なあ?」
部下二人が頷く。
「先に仕掛けてきたのはそっちの地味子ちゃんだろう。なのに頭の一つも下げてねえ。どころか房からも出てこない。そっちこそ、どうケジメをつけるんだ? あ?」
にらみ合いが続く。やがてロッドが動いた。
「てめえらとの小競り合いももう飽きた。片をつける。入るぞ」
ボス猿連合が、レズ軍団に肩をぶつけて突破しようとする。そこで、ビンタが飛んだ。
「やっちまった……」
アタシは呟いた。先に手を出したのは、レズ軍団頭のアンシュだった。ロッドが自身の頬に手を当ててさする。
「ってーなぁ」
それが、喧嘩の幕開けだった。
ロッドがアンシュを殴り返し、取り巻きたちも殴り合いを始めた。髪を掴み合い、醜く罵り合い、殴り、蹴り、押し倒し……。一般房棟に隣接している看守室から、看守が飛び出てきた。
房の中に坊主頭が侵入するのが見えた。それ以上は二段ベッドと房の前で争う女たちにさえぎられて見えなかった。
二人の男看守が到着し、喧嘩を収め、そこで一件落着か、とアタシは思った。だがある一点に視線が固定された。白いシーツが赤く染まっていたからだった。壁にへたり込んでへなへなと座り込む坊主頭と、ベッド脇に転がった黒髪おさげ娘。房に入り、うつ伏せになった黒髪娘の肩を揺すった看守が、「おい! 医務室に連絡しろ!」と叫んだ。
「ネっちゃん、あれ……」
「ああ、なんかで刺しちまったのか……。ヤバいぞ、あのお下げ娘」
横にいたヤウリィが息を乱し、「クロ……!」と知らない名前を口にして、通路を走り出していた。




