弊害
5
「いっただっきまーす!」
昼飯を抜いていたアタシは、皿に顔をうずめる勢いで夕飯にがっついた。ナポリタンとからあげ二個とコーンスープ。夕飯は三食の中で一番豪華なのだ。量は少ないけど。
「もう、ネっちゃんったら、お行儀悪いよ、ねえ、ヤっちゃん?」
「品がない。まるで野良犬」
「んだと~!」
二人に挟まれる形でアタシは非難を浴びる。いただきます、と手を合わせてからコーヌはパスタを器用に巻き始め、ゆっくりお椀を傾けたヤウリィは濡れた唇をなめている。アタシはもぐもぐしながら言う。
「でも、改めてありがとね、二人とも。……どれかあげようか?」
ミストとの逢瀬のために、二人は十分すぎるほど協力してくれた。アタシは手を広げ、食いかけの皿の上を二人に晒す。ハハハ、気持ちだけ見せておけばいいのだ、がっついたアタシの残りなんて二人とも手を付けないだろう。
「ありがとう!」「遠慮はしない」
コーヌがからあげをつまんで躊躇なく口に運び、ヤウリィもコーンスープのお椀をひったくって残りを一気に喉に流し込んだ。
「え……」
「見つかったらボクたちも怒られるんだからねっ!」
「同意。ヤリ看は臭う」
ああ、アタシの貴重な夕飯が……。
アタシは二人が食べ終わるまで、周囲の飯を眺めることにした。うう、お腹すいた。
……と、離れたテーブルで、蝶の入れ墨のカラフル坊主頭が動いた。ボス猿の手下だ。コーンスープを向かいの女にぶっかけたようだった。かけられたのは、レズ軍団の下っ端の娘だった。眼鏡をかけ、黒髪をお下げにしている。濡れた顔を袖で拭っている。近くにいた囚人たちが離れていく。
「うわ、最悪だ」
大丈夫かな、と言おうとしたとき、隣でバン、と大きな音がして驚く。見ると、ヤウリィが机に手を叩きつけて立ち上がっていた。そのまま歩き出していく。
「ヤウリィ?」
呼び止めようとするが、ヤウリィは止まる気配がない。
「ちょっと行ってくる」
コーヌに言い残し、アタシはヤウリィを追いかける。小走りになりながら、お下げちゃんから離れたところにいる青髪の女——レズ軍団頭のアンシュだ——を見る。普段はお下げちゃんとも食事しているが、今日は違うらしい。
「謝りなさい」
ヤウリィが坊主頭に高圧的に言い、黒髪お下げ娘の肩に手を置く。アタシはそこで追いつく。
「ヤウリィ、関わらない方が——」
声をかけると、突然、ヤウリィの肩が押され、後ろの椅子に突き飛ばされた。体勢を崩したヤウリィが、後頭部をテーブルの上にぶつけそうになる。アタシはのけ反った背中と頭を受け止めた。
「ヤウリィ! 大丈夫?」
「ええ」
アタシは舌打ちし、手を出した坊主を思いきり睨みつけた。
「おい。なにすんだ」
「あ? 事情も知らねえくせに他人が口出ししてくんじゃねえよ」
イキり顔の坊主頭がへっ、と笑った表情を見て、一気に頭に血が上る。
「殺す」
斧で脳天を叩き割る絵がちらつく。アタシはテーブルに飛び乗り、胸倉をつかみ、ピアスだらけのムカつく顔面に全力で拳を叩き込ん——「よせ」
腕を掴まれ、振り向くと、看守帽から赤い髪を伸ばした女の顔があった。看守長だった。アタシは奥歯に力を込め、怒りを内側に抑え込む。
落ち着け。ここでクソ坊主を殴っても、何の解決にもならない。懲罰房には、もう行きたくない、そうでしょ。自分に言い聞かせる。冷静になれ。手下を殴られたボス猿が報復と称して、ヤウリィやコーヌにまで危害を加えてくるかもしれない。
坊主を睨みつけながらも、アタシは腕から力を抜き、テーブルを降りる。意識して一度呼吸をし、看守長に軽く頭を下げる。
「ありがと、看守長」
礼を言い、その場を離れようとすると、背後から震えの混じった強がりが聞こえてきた。
「どうした、やんねえのか?」
とことん小物だな。アタシは無視する。
「やめておけ。お前が敵う相手ではない」
代わりに、看守長が冷たい声音で言った。お下げちゃんの背を押して歩くヤウリィに並び、怪我してない? と声をかける。
「今度首突っ込んできたら、た、ただじゃすまさねえからな!」
ヤウリィとお下げちゃんがシャワーの許可を得て先に食堂を出た後、アタシとコーヌも房に戻るべく食堂を後にする。
夜の自由時間。房の入り口にシーツをかけ、ベッドの上で仰向けになったアタシは、コーヌに指を入れられて気持ちよくなっている。上から唇を塞がれ、熱く動くコーヌのものが、口内をめちゃくちゃにしてくる。上と下で攻められ、アタシはすぐに絶頂に達し、体を跳ねさせる。
「ネネ、可愛いよ」
とろんとした顔のコーヌが頭を撫でてきて、アタシの心は幸せに包まれる。こうされると、コーヌが年上だということを思い出し、なんだかくすぐったくなって、妹のように甘えてしまう。しばらくそれを味わった後、アタシはコーヌにキスをして、そのまま押し倒す。やっぱりいじめたくなってきた。攻守交代。
喘ぐコーヌが可愛くて、愛おしい。そう思いながら攻め続けていると、ふと、白く細い首に触れたくなる。手を伸ばし、触れる。温かい。こそばゆかったようで、笑ったコーヌはアタシの手を挟むように顔を傾けてくるが、そのときアタシは、その顔が苦痛に歪んだらヤバいな、と妄想していた。今、この首に力を込めて折ったら、どんなに気持ちいいんだろう……。
「ネっちゃん、くすぐったいってばっ!」
体をよじるコーヌの嬌声を聞き、はっと我に返る。アタシは、今、なんてことを考えてた……。
「ネっちゃん?」
コーヌが胡乱気な瞳を向けてきたので、アタシは怖い想像を、頭を振って追い出した。
「なんでもないよ」




