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恋と死刑と無期刑囚  作者: 畑中雷造の墓場
第二章 恋と死刑の日々
18/49

弊害

      5


「いっただっきまーす!」

 昼飯を抜いていたアタシは、皿に顔をうずめる勢いで夕飯にがっついた。ナポリタンとからあげ二個とコーンスープ。夕飯は三食の中で一番豪華なのだ。量は少ないけど。

「もう、ネっちゃんったら、お行儀悪いよ、ねえ、ヤっちゃん?」

「品がない。まるで野良犬」

「んだと~!」

 二人に挟まれる形でアタシは非難を浴びる。いただきます、と手を合わせてからコーヌはパスタを器用に巻き始め、ゆっくりお椀を傾けたヤウリィは濡れた唇をなめている。アタシはもぐもぐしながら言う。

「でも、改めてありがとね、二人とも。……どれかあげようか?」

 ミストとの逢瀬のために、二人は十分すぎるほど協力してくれた。アタシは手を広げ、食いかけの皿の上を二人に晒す。ハハハ、気持ちだけ見せておけばいいのだ、がっついたアタシの残りなんて二人とも手を付けないだろう。

「ありがとう!」「遠慮はしない」

 コーヌがからあげをつまんで躊躇なく口に運び、ヤウリィもコーンスープのお椀をひったくって残りを一気に喉に流し込んだ。

「え……」

「見つかったらボクたちも怒られるんだからねっ!」

「同意。ヤリ看は臭う」

 ああ、アタシの貴重な夕飯が……。

 アタシは二人が食べ終わるまで、周囲の飯を眺めることにした。うう、お腹すいた。

 ……と、離れたテーブルで、蝶の入れ墨のカラフル坊主頭が動いた。ボス猿の手下だ。コーンスープを向かいの女にぶっかけたようだった。かけられたのは、レズ軍団の下っ端の娘だった。眼鏡をかけ、黒髪をお下げにしている。濡れた顔を袖で拭っている。近くにいた囚人たちが離れていく。

「うわ、最悪だ」

 大丈夫かな、と言おうとしたとき、隣でバン、と大きな音がして驚く。見ると、ヤウリィが机に手を叩きつけて立ち上がっていた。そのまま歩き出していく。

「ヤウリィ?」

 呼び止めようとするが、ヤウリィは止まる気配がない。

「ちょっと行ってくる」

 コーヌに言い残し、アタシはヤウリィを追いかける。小走りになりながら、お下げちゃんから離れたところにいる青髪の女——レズ軍団頭のアンシュだ——を見る。普段はお下げちゃんとも食事しているが、今日は違うらしい。

「謝りなさい」

 ヤウリィが坊主頭に高圧的に言い、黒髪お下げ娘の肩に手を置く。アタシはそこで追いつく。

「ヤウリィ、関わらない方が——」

 声をかけると、突然、ヤウリィの肩が押され、後ろの椅子に突き飛ばされた。体勢を崩したヤウリィが、後頭部をテーブルの上にぶつけそうになる。アタシはのけ反った背中と頭を受け止めた。

「ヤウリィ! 大丈夫?」

「ええ」

 アタシは舌打ちし、手を出した坊主を思いきり睨みつけた。

「おい。なにすんだ」

「あ? 事情も知らねえくせに他人が口出ししてくんじゃねえよ」

 イキり顔の坊主頭がへっ、と笑った表情を見て、一気に頭に血が上る。

「殺す」

 斧で脳天を叩き割る絵がちらつく。アタシはテーブルに飛び乗り、胸倉をつかみ、ピアスだらけのムカつく顔面に全力で拳を叩き込ん——「よせ」

 腕を掴まれ、振り向くと、看守帽から赤い髪を伸ばした女の顔があった。看守長だった。アタシは奥歯に力を込め、怒りを内側に抑え込む。

 落ち着け。ここでクソ坊主を殴っても、何の解決にもならない。懲罰房には、もう行きたくない、そうでしょ。自分に言い聞かせる。冷静になれ。手下を殴られたボス猿が報復と称して、ヤウリィやコーヌにまで危害を加えてくるかもしれない。

 坊主を睨みつけながらも、アタシは腕から力を抜き、テーブルを降りる。意識して一度呼吸をし、看守長に軽く頭を下げる。

「ありがと、看守長」

礼を言い、その場を離れようとすると、背後から震えの混じった強がりが聞こえてきた。

「どうした、やんねえのか?」

 とことん小物だな。アタシは無視する。

「やめておけ。お前が敵う相手ではない」

 代わりに、看守長が冷たい声音で言った。お下げちゃんの背を押して歩くヤウリィに並び、怪我してない? と声をかける。

「今度首突っ込んできたら、た、ただじゃすまさねえからな!」

 ヤウリィとお下げちゃんがシャワーの許可を得て先に食堂を出た後、アタシとコーヌも房に戻るべく食堂を後にする。


 夜の自由時間。房の入り口にシーツをかけ、ベッドの上で仰向けになったアタシは、コーヌに指を入れられて気持ちよくなっている。上から唇を塞がれ、熱く動くコーヌのものが、口内をめちゃくちゃにしてくる。上と下で攻められ、アタシはすぐに絶頂に達し、体を跳ねさせる。

「ネネ、可愛いよ」

 とろんとした顔のコーヌが頭を撫でてきて、アタシの心は幸せに包まれる。こうされると、コーヌが年上だということを思い出し、なんだかくすぐったくなって、妹のように甘えてしまう。しばらくそれを味わった後、アタシはコーヌにキスをして、そのまま押し倒す。やっぱりいじめたくなってきた。攻守交代。

 喘ぐコーヌが可愛くて、愛おしい。そう思いながら攻め続けていると、ふと、白く細い首に触れたくなる。手を伸ばし、触れる。温かい。こそばゆかったようで、笑ったコーヌはアタシの手を挟むように顔を傾けてくるが、そのときアタシは、その顔が苦痛に歪んだらヤバいな、と妄想していた。今、この首に力を込めて折ったら、どんなに気持ちいいんだろう……。

「ネっちゃん、くすぐったいってばっ!」

 体をよじるコーヌの嬌声を聞き、はっと我に返る。アタシは、今、なんてことを考えてた……。

「ネっちゃん?」

 コーヌが胡乱気な瞳を向けてきたので、アタシは怖い想像を、頭を振って追い出した。

「なんでもないよ」

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