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第二十七話 豚の尾かじり

 ディランとカンサの邂逅から何日か後、軍艦には例の八人組の首長が訪れていた。

 応接室に通されたその男は入り口手前の椅子に足を組んで座り、いらだちもあらわに足をゆすりながら眉間にしわを寄せる。

 無理もないことだった。あのエンジン不調の知らせ以降、乗客へは追加のアナウンスがない。ただただ、滞留だけが続いている。


 しばらくして、カンサと側近たちが入室してくる。

 カンサは奥の椅子にドカッと座り、首長に向けて昏い視線を送る。側近たちは入り口付近に立ち並んだ。男がそっと足を直しながら、不安げに周囲を見回す。

 その様子を見て、カンサがにやつきながら言う。

「心配するな。同胞だ」

 すると男は、少し笑みを浮かべて返す。

「何だ、そうだったのか……では」

 男は膝に肘を乗せ、前かがみの態勢で囁く。

「連絡が遅すぎだ。こんなに待たせやがって……何かあれば全体の計画に支障が出るぞ……」

「ふむ……?」

「まぁいい。私を呼んだということは、何か解決策が見つかったのだな?」

「ん? 解決策?」 

「おい、違うのか……? 軍に顔が利くんだろう? なんとか出来ないのか?」

「ほう……」

 カンサはそう言うと、男から顔を遠ざける様に椅子に背もたれた。そして少し、男の背後の立ち並んだ兵たちに目配せする。その後、居住まいを直し、男の目を見返した。

「なんとかと言われても……お前がどうして欲しいのか、それを言ってもらわないことには」

「のんびり構えている場合か。事態を甘く見すぎだぞ……本隊にばれたらやばいんだろう?」

「いや、だから……このカンサ様にどうして欲しいのか言ってくれ」

「……我々とあの荷物を、どこか顔の効く港まで運んでほしい。輸送機のチャーターも頼む。アクエッタに入る時にまた、融通をきかせてくれればいい」

「ふむ、お前たちと荷物か。どの荷物だ?」

「確認していないのか?」

「まともな調査などしているわけがないだろう。あの急な要請があって、大急ぎで検査を申し出たのだ。どれだけ大変だったと思っている?」

「それには感謝している……なぜ怪しまれたのかわからないのだ。なにも抜かりはなかったはずだが……あの船長、何かに感づいた可能性がある。口封じを……まぁ、そのつもりで動いてくれていたんだろうが」

「ぺ、ペラペラといらんことを言うなっ。どの荷物かさっさと言え!」

「……ああ。ヴェスフォ積み込アクエッタ行きの黒いコンテナだ。あそこにブツが入っている。他の荷物は偽装のための工芸品が入っているが……それはもう、そっちで好きにして良い。これ以上はリスクになる」

「黒いコンテナ……おい、聞いたな?」

 カンサはそう言うと、目線を側近に向けた。

 側近は頷き、

「よし、確保しろ!」

 と号令を発する。と同時に周囲の兵たちが勢いよく男にとびかかり、腕をひねって床へと組み伏せた。

「痛い! なっ! 何の真似だっ! おい、カンサ! 裏切るのか!?」

「う、裏切る…!? ばっ、馬鹿め。最初からだましていたのだ。まんまとしっぽを出しおって」

「馬鹿はお前だ! こんな事をして何になる!? 自分だけ助かろうったって無理だぞ!?」

「おっ、おい! こ、こいつを黙らせろ!」

 カンサの命を受け、兵が男の腕をきつく締めあげる。男は「イタタタッ! 分かった分かった!」と悲鳴を上げた。

「さっさと房へ連れていけ!」

 カンサはわめきながら腕を払いのけるように動かし、とにかく男の移動を急がせる。

 男を連れた兵たちが退出していくと、

「お前たち分かっているな! 悪人のたわごとに惑わされるなよ!」

 と、居残った兵たちに向けて声を張り上げた。


 ーー一方その頃、交易船内でも動きがあった。


 八人組の居室前には、武装した兵たち。その戸が開くと同時に殺到し、

「手を上げろ! 動くな!」

 と、小銃を構える。

 室内にいた男たちは一様に驚いた表情を浮かべて、言われるまま手を上げた。そのうち、年長と思われる男が余裕の表情で兵へ話しかける。

「お迎え、ということか? あいにく、まだ、我々は何も聞いていないのだが……なぁ、お前ら?」

 男は仲間を見回し、兵に不満げな表情を向けて続けた。

「全く。普通に連れて行ってくれればいいだろ。そんなに怖い顔するな、兄弟」

 その言葉に男たちの失笑が漏れる。彼らから緊張の気配が失せ、口元が緩みはじめた。

「こんなに騒がしくする必要がどこにあるんだ? お月さまの兵たちは優秀じゃなかったのか? やれやれ……」

 と、男たちが手が下げようとしたその瞬間、兵たちは目を見合わせた。それに呼応するように、

「確保!」

 と、兵長の号令が上がった。

 兵たちが一斉に、男たちに飛びかかる。男たちが次々と床に叩きつけられていく。

 身が反り返るほどにきつく拘束されると、彼らはようやく、兵たちが自分たちを本気で捕縛しようとしていること認識したようだ。


「こちら交易船内、全七名確保! 負傷者なし! 艦まで連行します!」

 兵長が無線に報告を入れている。


 その様子を見た男たち、

「これは何だ!? 兵団はグルじゃないのか!?」

「おい、放せ! 痛い痛い!」

「どうなっても知らんぞ!?」

「ボスはどうした!?」 

 などと、思い思いの怒声を上げた。


 この突然の騒動に、船員や乗客が部屋前に人だかりを作っていった。

「これは一体……?」

 その中には船内の状況を確認しようと見に来たシプタもいる。

「邪魔だ!」

 部屋から男たちを連れ出していく兵たち。人だかりを切り開きながら、来た道を帰っていく。

 連行されていく一味。それはまさに、シプタが思い描いていた光景であった。今、その、もう叶わないのかと諦めかけていた、真実の暴露。こうなると逆に、先日のあの調査報告は何だったのかと、彼女の思考は混乱した。


 そしてその人だかりの後方には、あの少年とグランの姿もあった。

「シェルマン様、これは……」と、戸惑いの声を漏らすグラン。

 その横で少年は「ふふふ……」と呟くのであった。

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