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第十九話 ディランの嗜み

 ——場面は医療室。

 シプタが端末を操作し、何かを調べている。

 表示された画面を読み込んだ時、シプタの眉間がピクリと動いた。男へ気取られぬよう、ディランへ目配せする。

 彼女は大きく息をつくと、

「グランさん、お話したいことがあります」

「は、はい。何でしょうか……?」

「これから、寄港できないとなった以上、アクエッタまでこの子の延命措置を行います」

「そ、それは、危険ではないのですか?」

「あります。なので了承をいただきたいのです。グランさんも退出願えますか……」

「なっ……ここにはいられないのですか!?」

「はい。施術はそちらの方、ディランさんに手伝っていただきます。なので、グランさんが部屋にいると支障が出ます」

「そんな……」

「依然、感染の危険もあるのです……これまで例外として認めてしまったのは、私の未熟さ故……施術を成功させるための、これは医師としての要請です」

 毅然としたシプタの態度に、その男、グランが大きな背中をたたんでいる。

(私にはあれだけ威圧的であったのに……まぁ確かに、自分たちのために乗客にまで掛け合ってくれる船医など、なかなかいないものな……)

 ディランはそんなことを考えながら、すっかり小さくなった男をしげしげと見ていた。

「シプタ様、あの。この男が、ああいや、この方がデキシという薬物の影響ではないかと……」

 男の言葉に、ディランは無精ひげをいじっていた手をすっと下ろし、姿勢を正す。

「混乱させるようなことを言ってすまない。船医とも話したが、違うようだ」

「ほ、本当か……それならよかったです……ああいや、原因が分かったほうがいいのでしょうが……」

 診立てを誤ったというのに、安堵している男。思っていたよりも咎めがなく、ディランは拍子抜けの面持ちである。そして、男からの地位が向上したのか、先ほどより言いようが一気に丁寧になっている。


 二人のやり取りに割り入り、シプタがグランを諭すように口を開いた。

「では……」

「し、しかし……」

「わかります。ずっと二人で旅をされてきたのですものね……」

 シプタののその何気ない一言がまた、男の表情を一変させた。一瞬、ほんの一瞬だが、彼女をにらんだような、そんな表情の変化があった。

(なんともわかりやすい。詮索をするつもりもないが、このままでは……)

 あくまでも少年から離れる気がない男。ディランがそれなら隅に立ってもらうのはなどと提案しようとしたその時——


 ——少年が口を開いた。


「グラン……せ、船医の言うことを……聞くのだ。部屋に……戻っていろ」

「そんな、傍におります!」

「……あまり困ら、せるな……」

 そう言い終わるとまた咳込む。何とか持ち直し、気道を鳴らしながら話始める。

「お前も、疲れて……いるだろう。いざとなれば……お前しかいないのだ」

 男が肩を震わせながら、口を結んでいる。少年が続けた。

「頼む、グラン……」

 その言葉に男はすぐさま立ち上がり、

「廊下で待っております! くれぐれも、よろしくお願いします!」

 と、頭を下げた。男が出口を見たのを合図にディランが壁際に張り付いてスペースを作る。男はすれ違いざまディランを一瞥していったが、彼の目は、うるんでいるように見えた。


 グランが退出したのを確認すると、シプタが重々しく口を開いた。

「ディランさん、やはり、あなたの見立て通りでし……」

「ちょっと待ってくれ……」

 話しだそうとする彼女に、ディランは伸ばした手のひらと神妙な顔もちで遮る。

 その様子を見た少年は少し微笑むと、

「案ずるな……我は何も聞かないし、言わない」

 といった。

 ディランは少し頷くと、

「では、そうさせてもらおう。私たちも無用な詮索はしない」

 と、目に力を入れて少年の瞳に誓った。

「ありがたい……すまんな。このように悪化するまで診せずに。私の失態だ……」

 そういって少年は目を再び閉じる。胸を上下させ、咳をいくつか吐き出した。


ディランが目線をシプタに向けなおした。

「いい演技だった。では、続きを」

「ええ……デキシ症肺炎症。症例は古いですが、システム上でも合致と出ました。今、遠隔医師にも確認中です」

「残念ながら返答を待っている時間は無い。炎症と麻痺の合併症。この幼い体に体力が残っているうちに肺洗浄しなければ」

「ですが、待ってください! ……有効性のある薬を積んでいないのです……すいません、私が備えてさえいれば……」

 シプタが唇をかみしめる——その大きな瞳から一筋の涙が流れ落ちた。

「肺洗浄をしたとしても……」

声が、震え、途切れる。


 ディランはそんな彼女を横目に、少しがらんとした医療室の隅にそっと置かれていた小荷物を手に取った。ここに来るとき、ディランが部屋から持ち込んだバッグだ。

「それは……?」

 シプタが怪訝そうに問う。

「これか? これはまぁ……私の嗜みのようなものだ」

 と、答えにもならないことを言いながら、彼はそのバッグから包みを取り出した。

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