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前世還しのカーヴァンクル  作者: 稲葉めと
3章 呪いの竜姫は還さない
23/23

22 炭色少女と自己紹介

「あ、あの……!」

「なんだ!?」

「なんじゃ!?」

「コケっ!?」

「ひゃっ!? ご、ごめんなさい!」



 俺とコッコがアオメの攻撃を必死に避ける中掛けられた声、反射的に力強く答えてしまう俺たち。

 その結果は勇気を出して声をかけてくれた女の子の怯えるような視線だった。

 というかちょっと泣いてるねこれは、ごめん。



「お、おぉ目が覚めたのか。よかったよかった」

「ふむ、その怯えよう、よほどあの魔獣が恐ろしかったと見える」



 したり顔で頷いているが、恐ろしかったのはアオメだと思うぞ。

 ここでツッコミを入れたら話が進まないので今回は黙っておくが。

 

 しかし女の子は気丈にも震える指をアオメへと向けた。



「あ、いえ怖かったのは、その」

「……妾?」

「はい……」



 さすがのアオメも全力で怯えられながら、こうもしっかりと伝えられてはいつものノリで怒鳴れなかったようだ。

 肩を落とし、イルカのひれのような特徴的な耳も垂れている。

 さっきまで尻尾で暴れていたとはいえ、ちょっとかわいそうになってきたな。



「そうしょげるなよアオメ、声かけてくれたって事はそこまで怖がられてないって」

「そ、そうかのう?」

「おう、だよな! えーと、そういや名前聞いてないな」



 いけないいけない、自己紹介はコミュニケーションの基本だ。言葉の通じない相手ならまだしも、通じる相手にしないのは礼儀に反する。

 まずはこちらからと口を開こうとしたところへ、女の子がぽつりと漏らした。



「カーヴァンクルがしゃべってる……」

「なに?」

「絶滅したんじゃ……」

「その話KU・WA・SHI・KU!!」

「きゃあああ!?」



 情報源! 俺の種族に対する情報源だ!

 いまのところこの身体に不都合はないのだけれど、自分の出自不明というのはなんとも浮遊感というか、足がつかない不安な感覚があったのだ。

 そこへ俺の種族名を知っている人物の登場、これは詳しくO・HA・NA・SHIするしかない!



「落ち着かんかたわけ!」

「あいたっ!?」



 尻尾の一振りで壁に打ち付けられた俺は、一瞬で頭を冷やしたのだった。

 本来なら生きているだけでも奇跡なので、大分手加減してくれたのだろう。



「あ、ありがとうアオメ、落ち着いた」

「よいのじゃよ、わりといつもの事じゃし」



 いや、そんなにツッコまれるようなことは......わりとしてる気がする。さっきも尻尾で襲われたばかりだし。



「こほん、失礼、怖がらせて悪かった。俺はヒエン、ご推察の通りカーヴァンクルだ」

「やっぱり......ほ、本物なんですか?」

「そう聞かれると実は自信がないんだが、俺自身はそうだと信じてる」

「じしんだけにですか?」

「......なんて?」

「ごめんなさい、なんでもないです」



 この娘、怯えまくってたわりに肝が太いな。この状況でオヤジギャグとは。



「妾はアオメ、リザードマンじゃ」

「......え? どこが」

「リザードマンと人のハーフみたいなものじゃ」

「や、リザードマンと人は子供できな」

「じゃあなんじゃと言うんじゃ? ん?」

「リザードマンですね! はい!」



 アオメのやつ、また強引に押しきったな。だんだん持ちネタみたいになってきている。

 女の子の方は納得したというよりはアオメのうねる尻尾に怯えて言葉を引っ込めた感じだ。処世術としてはまぁ、ありだろう。俺だってそうする、怖いし。



「それで、きみの名前は? なんであんなとこに?」

「あ、はい! 私の名前はしゃ......」



 言いかけて、目を泳がせるしゃなんとかちゃん。なんだ、名乗るとまずいのか?



「しゃ?」

「しゃ、シャリエです」

「偽名か」

「偽名じゃな」



 目を細める俺とアオメに慌てて両手を顔の前でぶんぶんとふるシャリエ(仮)。



「偽名じゃないです、それは本当です! ただその、フルネームは長いので愛称というかなんというか」



 顔を伏せて指をつんつんするシャリエ(愛称)。なるほど、その仕草はかわいい。


 実のところ名前を伏せられて困ることはない。むしろ俺たちのほうが細かくつっこまれると怪しい身なので、後ろめたいことがありこちらを詮索する余裕のない相手の方がやりやすかったりもする。


 俺とアオメは目を合わせ頷きあう。


「じゃあそういうことにしておこう」

「じゃの」

「あ、ありがとうございます! あ、そうだ、お礼! お礼をしてません! 先程はありがとうございました! アオメさんが助けてくれたんですよね?」

「うむ、妾の力がなければ危ないところじゃったぞ、ヒエンは役にたたんし」

「悪かったな......」

「本当にありがとうございました!」



 床に座り込んでいた態勢から立ち上がり、綺麗なお辞儀を披露するシャリエ。その所作だけできちんとした教育を受けてきただろう事がわかる。

 砦の街の住民は言わずもがな、前世でもここまで綺麗な動きが出来る相手は中々いなかった。



「ふむ」

「ほお?」

「えと、なんでしょう?」



 俺たちは揃って感嘆の声を漏らす。

 一方シャリエはよくわかっていないらしい。偽名、いや愛称か、それを名乗りながら異常に綺麗な動き、これだけでわけありのいいとこのお嬢様という情報を俺たちに伝えてしまっているのだが。



「助けたのが俺たちで良かったなぁ」

「じゃのう、ただでさえ愛らしいというに、これでは拐ってくれと言っておるようなものじゃ」

「さらっ!?」

「しないしない」



 その動作に改めて顔を見合わせる俺とアオメ。お互いの表情から同じことを考えていることを理解し薄く笑う。


 即ち、楽しい遊び相手が増えたと。

 遊び相手である、おもちゃではない、念のため。



「それで、結局なぜあんなところに居たのじゃ?」

「あ、はい。実はお仕事で近くの村へ向かっていたところで」

「仕事?行商人、じゃないよな、荷物もないし」

「はい、街の文官みたいなものなんですけど。その村が......竜に襲われたと報告がありまして」


 りゅう!?



「それ、どっちだ。龍か、ドラゴンか?」

「ドラゴンの方です」

「そうか」



 少しほっとする。

 アオメのようなやつが出てきたら、いまの俺たちじゃ勝ち目がない。アオメをもとに戻したら姉上さまの呪いで屋敷に強制帰還するかもしれないらしいし。



「安心するのは早いぞヒエン。そのドラゴン、歳はどれほどじゃ?」

「それが、報告にきた村人さんは錯乱状態で"竜がでた"としか……」



 なんでもドラゴンというのは歳を経るほど強くなるらしい。

 しかも成長しても老化はせず延々と強くなるのだとか。なんだそのチート生物は。

 反面、歳を重ねる以外の努力などでは技術は向上しても地力はあがらないらしく、人間風の鍛錬などが意味をなさないらしい。つまり年齢=強さといっても過言ではないとのこと。

 ちなみに、基本的には高齢なほど巨大化するので大した知識のない一般人でも大まかな年齢がわかるのだとか。



「しかしドラゴンほどの存在が村など襲うかの……」

「あ~、もしかしてもしかする?」

「行って見ねば分からぬし、空振りかも知れぬが」

「他にヒントもないしなぁ。行く価値はあるか」

「え、え?」



 勝手に話を進める俺たちにシャリエが困惑している。

 まぁ無理もないか、思いっきり怪しいしな。


「着いてきて、くれるんですか?」

「乗りかかった船だし、村への道中でカーヴァンクルについて色々聞きたいしな」

「わぁ! ありがとうございます!」



 ……だめだ、この娘本当にチョロい。俺たちで守らねば。

【BADENDぱたーん】

声をかけられても気がつかなかったアオメの尻尾がシャリエにダイレクトアタック!

残念、シャリエの冒険はここで終わってしまった!

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