21 コッコの災難
砦の町から旅立って早一週間。
道中獣に襲われたりなんだりとあったのだが、コカトリスのコッコさんが一息でみんな石にしてくれた。
おかげで俺とアオメはとても楽ができたのだが、そこら中に獣の石像が放置されてしまっている。
どっかで変な噂にならなければいいのだが。
一週間も移動すれば目に映る景色も変わり、地面からは草木が減って岩肌や土の露出が増えてきた。
出発前に聞いた話によればこの先にあるのは様々な物が行き交う交易都市だという。その中には当然情報も含まれる。
魔族の塵を探している俺たちに行かないという手はない。
「とはいえ暑いなぁ」
「何をほざいておるんじゃ、この獣っ娘は」
「娘ってつけるなよ俺は男だぞ、この姿じゃメスだけど」
「そういう台詞は妾のローブから出てから言わんか」
この辺りは日差しがキツイ。
俺たちの服は魔法のかかった特別製で、多少は熱への耐性もあるけれど、それで涼しくなるわけじゃない。
そこで俺は閃いた。
幸いこの辺りは湿度が低いので、移動中はずっとカーヴァンクル姿で日の当たる面積を減らし、さらにアオメのローブに入れてもらえば快適なのではないかと!
結果はすぐに出た、アオメの体温が低いということもあって外に比べてとても快適である。
「お主、こういうのはセクハラというのではないかの」
「大丈夫大丈夫、この姿の俺メスだし! というか、そういう単語はどこで覚えたんだ」
「姉上様がよく言っておったぞ、他にもドキュンがどーのとかケモナーがどーのとか」
「……本当に転生者なんだなぁ姉上様」
アオメの育ての親であり姉でもあり、俺の転生前の恩人ではないかとの疑いがある姉上様。
こういう台詞がぽんぽん出ていたということは、俺と同じ世界からの転生者なのは間違いないだろう。
……セクハラやドキュンが全異世界共通語だったらどうしよう。
「まぁあと半日くらいで目的地にはつくだろうし、許してくれよ」
「あと半日でつくのじゃから出るという選択肢は」
「ないな」
「はぁ……」
呆れられてもしかたない、涼しさ優先だ。
それにこの姿だとアオメに抱かれててもドキドキしないしな、安心感とかはすごいあるけど。
お陰で美少女との2人旅でありがちなトラブルはない、というかあってもお互いに気にならない。
前世の人間体だと全盛期の若い肉体になり、心のほうもそれにひっぱられてしまうので、必要な時以外はこの緑のもふもふ姿でいるのが安定なのだ。
そう俺が心の中で自己弁護していると、急にコッコが動きを止めた。
鳥特有の首の動きでキョロキョロとしたあと、ある方向をじーっと見つめている。
「なんだ? なにかあったか?」
カーヴァンクルの長い耳をピクピクさせて周囲を探ると、とても小さく馬のいななきが聞こえた。
まさかと思ったがアンドリューのものとは少し違うな、あいつはもっと勇ましい。
これはちょっとなさけないというか、悲鳴のような。
「馬のいななき?」
「ん?」
「いや、なんか馬の悲鳴みたいなのが聞こえて」
「ほう、妾には聞こえなんだが。それと関係あるかは分からぬが、あちらに強い魔力を感じるな」
「お? 塵か?」
聞きながら鼻をヒクヒクと動かして魔力感知をしてみる。
たしかにうっすらだが魔力を感じる。
いかんいかん、ここ一週間使ってこなかったからまだ自然と使いこなすまではいけてないな。ずっと口呼吸をしていたせいで匂いを嗅ぐのに慣れてないとか、そんな感じだ。
「あー塵っぽくはないか。ちょっと遠くてよくわからないけど、アオメより強そう?」
「馬鹿を申せ、と言いたいところじゃがこの姿ではほとんど魔力もないからのう。とは言え、仮にあれが魔法使いや魔獣の類であれば魔石があれば倒せる程度じゃな」
懐から魔石を取り出して不適に微笑むアオメ。
「じゃあ、気軽に見に行っても」
「うむ、何事にも絶対ということはないが、危険は少ないじゃろうな」
俺たちは頷きあうと、コッコに指示を出してその方向へと進むことにした。
幸い俺たちの実力をその身で知り、自身も力のあるコッコは怯えることもなく走り出す。
急いで行きたいということも理解してくれたのか、魔力を使って脚力を強化したコッコの速度は時速にして40kmは出ているだろう。
1分とたたない内に感知した魔力の主を見つける。
「げ、なんか襲われてるぞ! アオメ!」
「あの程度お主がやればよかろうに」
「俺じゃ間に合わない!」
だって俺、相手に触れないと前世還しできないし、他にできることといったら魔石に魔力をこめることくらいなんだもんな?
改めてなにかしら戦う手段を身に着けなければと思う。
「仕方ないのうまったく。すまぬコッコ、少し痛いぞ」
「コ?」
そういうとアオメは走るコッコの背中で立ち上がり魔法を発動した。
足元に水の塊を作り出し、それを下へ向けて射出することで推進力とし一気に魔獣へと接敵する。
「ゴゲエエエエエエエエエエ!?」
アオメの足元、そしてその下とはつまりコッコの背中である。
背後でコッコの悲鳴が聞こえた。
「え、えげつない事を」
「なに、人命には変えられまい」
たしかにそうなのだが、コッコには後で謝ったほうが良いと思うのは俺だけだろうか。
「さて、とっとと終いにするとしよう」
その後はいつも通りだ。
女の子に飛び掛る魔獣をアオメが水の触手で捕らえてばらす、たったこれだけ。
「ふむ、ちとやりすぎたかの?」
えげつないことを、もう一度そう言おうとしたところで女の子がこちらを振り返り、そのまま倒れた。
「む、どこぞ怪我でもしておるか? もしや間に合わなんだか?」
「いや、お前見て気絶したんだろ、気持ちはわかる」
俺は背負っている鏡をアオメの前に差し出す。
そこには魔獣の返り血でべったりと塗れたアオメの姿が写っている。
「おぉ、これはひどい」
即座に水で自分の顔をふきふきするアオメ。
水の形状が触手だから少しエロいな。
いくらエロくとも身体はメスだから反応しないのだが、胸はきゅんきゅんする。
「あとその触手で肉片を弄ぶ癖どうにかしろって」
「これか? これは妾の意思で半自動的に動くようにしておるからな。そうでなければこんなにたくさん操れんよ」
まぁやめろというなら止めるが。そう言って触手を消すアオメ。
そして周辺に落ちる肉片。
それはなにか? 本能的に倒した獲物で遊んでいるということなのかと思ったが、冷静に考えたら怖そうなのでその思考は意識の隅へと追いやった。
「地面に倒れたままじゃかわいそうだろ、起こしてやってくれ」
「そこまで気が回るのなら、自分でやればよかろうに。龍使いの粗いやつじゃな」
「いま俺が人間になると全裸なんだよ!」
「大丈夫じゃろ、妾とコッコしかみておらんし」
コッコ、いつのまにか追いついてきてたのか。無事そうでなによりだ。
いやいやそこじゃない。前世になったら心も若返る、そうなると全裸で美少女を抱き起こしながらそれを美少女にガン見されるという状況になってしまう。当然若い肉体なら反応もしてしまうだろう、事案確定だ。
「……やっぱり頼む、俺はまだ社会的に死にたくない」
「仕方ないのう」
呆れながらもアオメは女の子を抱えおこし。もとい、触手でつまみあげる。
こ、こいつ貴重な魔石の魔力を使って何をしてるんだ、女の子にする扱いじゃないだろう。
その後、ここでは休まるものも休まらないと、近くに見えた洞窟へと移動することにした。
入り口には無残な馬の死骸があったが、傷口を見るにさっきの魔獣にやられたんだと思う。
コッコがそれを啄ばもうとしたけれど、この馬、この女の子のものじゃなかろうか?
この暑さの中ろくな装備もなしに徒歩とは考えにくいし、もしそうならこの子が目覚めた時コッコが馬を食べているのは非常に心象が悪い。
そう言い聞かせるとあっさり理解してくれたコッコ。理解ついでに穴をほってもらい馬を埋めてもらった。
魔力強化された脚でこちらもあっさり終了。
血の臭いが残ってると他の獣が寄ってくるかもしれないし、これくらいなら女の子も許してくれるだろう。
そう、改めてになるが俺たちが助けたのはかわいい女の子だった。
「珍しい肌の色だな。いや、この辺だと普通なのか?」
「灰色の肌に銀の髪。髪のほうはたしかにこの辺りの人種の特徴じゃが、肌のほうは珍しいの。褐色や、黒ならそこそこおるが、灰色とはのう」
「ふーん?」
気になるな。
見慣れない肌の色の女の子が、たった一人でこんな場所を歩いていた?
馬に乗っていたとしても、安全な場所ではないだろう、現に馬はあの様だった。
なにかありそうな気がして俺が寝ている女の子を無遠慮にながめていると、アオメがこちらを座った目で睨んでくる。
こいつがジト目なのはいつものことだが、いつもより圧があるような?
「ん? どうした?」
「いやなに、随分とそのおなごを気に掛けるのじゃなぁと思うてな」
「まぁ、率直に言えば怪しいなって。みたところ武器も持ってないし、魔獣がでるような危険地帯になんでいたんだろうって」
「本当かのう」
「……何が言いたいんだよ?」
「浮気はだめじゃぞ?」
一瞬、俺とアオメは別にそういう関係じゃないだろう、とツッコミそうになったが、やめる。
俺たちはふたりっきりで旅をしている身だ、そういう関係じゃなくても、相棒が他の誰かに気を取られたら軽い嫉妬くらいするかもしれない。
そう考えて俺は口をひら
「お主にはもうアンドリューという相方がおるじゃろうに」
「何いってんの!?」
にんまりと笑うアオメに怒鳴る俺。
前言撤回、こいつ、俺をからかう隙を見つけて喜んでいただけだ。
「本当かのう。ほれ、お主メスじゃし、獣同士なにかこうたぎるものがあったのかとな? よく一緒に遊んでおったし」
「身体は獣のメスでも心は人間の男なんだよ!?」
「ふむ、ということはやはりそのおなごに欲情したのか」
「だけどいまは人間じゃないのでそういう事もないよ!?」
ふと、アオメの尻尾が垂れているのに気がつく。
こいつと旅をしている内に気がついたことだが、こういう時こいつは落ち込んでいるようなことが多い。
それに気がついてしまった以上俺はアオメを責める気がしなくなり。
「なんですかアオメさん、嫉妬ですか、やめてくださいよ恥ずかしい」
「う゛ぁ!? おぬ、お主何を言っておるんじゃ突然!」
「いやだって尻尾垂れてるじゃないですかー他の女みないでよーな感じでちょっと寂しかったり」
「そんなわけあるまいこのたわけ! たわけが!」
「そんなわけないなら尻尾ぶんぶん振り回すなよ危ないだろうが! それどれだけ危険だとおも」
「ごげええええええええ!?」
「あぁコッコが吹っ飛ばされたああああああああ!?」
そんな風に俺たちはしばらくじゃれあっていた。
暴れる尻尾、砕ける洞窟の壁、俺とコッコの悲鳴、その音で女の子が目を覚ましたことにも気がつかずに。
「……な、なんなんですかこれ」
女の子の震える声も、今の俺たちには届かないのだった。
砦の街からずっとこのノリで旅をしている一同でした。




