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Ep.2-6 入江でバカンス

魔力切れの影響が抜けきらないユリウスは、まだ少しだるそうにしていた。


「どうする?ユリウスは家で休んでる?」


「いえ、せっかくですし私も行きます。終わったら案内するって約束しましたしね。でも海に入るのはやめておきますよ。浜辺でゆっくり本でも読んでることにします」


「そっか。昨日は大活躍だったし休まないとね」


街の騒ぎようを思い出してちょっと含み笑い気味なエレナに対しても、ユリウスは特に反応しなかった。


「そうします。海は嫌いじゃないですし」


ローワンだけがその反応をちょっと意外そうに見ていた。


――――――――


案内された入り江は、街の喧騒から少し離れた、波の穏やかな浜だった。小舟用の粗末な桟橋が海に突き出し、遠くでは地元の子供たちが歓声を上げながら裸で泳いでいる。この南の土地では、こうした光景に誰も気を留めないらしい。


しかしローワンとエレナはさすがに裸というわけにもいかないので、ローワンは軽いショートパンツ、エレナはショートパンツに合わせて上にはサラシを巻いていた。


「わー、海だー!」


エレナは真っ先に浅瀬へ駆け出していったが、そのまま戻ってきて浜辺から海に入った。


「あはっ、冷たくてきもちいい!」


エレナはそのまま浜辺でパシャパシャと水を弄ぶ。ローワンも久々の泳ぎを楽しんでいた。


その後、ローワンが少し沖まで泳いで戻ってきても、彼女はいつまでも膝が浸かる程度の場所から動こうとしなかった。


「エレナ、もっと深いとこ行かないの?」


「べ、別に、ここが気に入ってるだけだし」


不自然に目を逸らすエレナに、ローワンはピンときたように目を細めた。


「……もしかして、エレナって泳げない……?」


「そ、そんなことない、と思う……」


歯切れの悪い返事に、ローワンは確信を深めたようだった。


「じゃあ、泳いでみてよ」


「う……い、いいよ、見てなさいよ!」


意地になったエレナが、勢いよく水に飛び込む。だが、そこから繰り出されたのは、犬かきとも古式泳法ともつかない、奇妙な動きだった。手足をばたつかせ、顔を水面すれすれに保ちながら、なんとかぎりぎり前に進んではいるものの、優雅さの欠片もない。


「ちょ、笑わないでよ! これしか知らないんだって!」


必死の形相で振り返るエレナに、ローワンは堪えきれず噴き出してしまった。


「ご、ごめん、でも本当に独特な泳ぎ方だね、それ」


「うるさいなー! 誰かに教わったことなんてないもん!」


「じゃあ、僕が教えるよ。平泳ぎなら、そんなに難しくないから」


浅瀬に立ったローワンが、実演を交えて手足の動かし方を示していく。最初はぎこちなかったエレナも、何度か繰り返すうちに、少しずつ様になっていった。


「お、なんかそれっぽくなってきたかも!」


「うん、筋はいいと思うよ。もともと体の使い方は上手いから」


素直な称賛に、エレナは照れくさそうに笑った。しばらく二人で泳ぎの練習を続けていたが、ふとローワンが思い出したように尋ねた。


「そういえば、ユーリは泳がないの?」


浜辺で休んでいたユリウスに声をかけると、彼はあっさりと答えた。


「私は泳げませんよ」


「……え、そうなんだ」


「私がこちらに越してきてからは、ほとんどずっと勉強してましたから。海で遊んだ記憶もほとんどありません」


あっさりとしたユリウスの物言いに、ローワンは一瞬、何と返せばいいか分からなくなった。


「じゃあ今日が最初の海で遊んだ思い出だね!」


エレナのまっすぐな一言に、ユリウスは一瞬言葉に詰まった。


「……そうですね」


照れくさそうに頷くその横顔に、エレナは満足げに笑った。


「あれ? もしかして、泳ぎが一番得意なの僕……?」


「そうかもしれませんね」


「……なんか、ちょっと得意げになっちゃう自分がいる」


素直な自己申告に、エレナが水を跳ね上げながら笑った。


「ローワン、今日だけは先輩風吹かせていいよ!」


「い、いや、そんな大したことじゃ……」


言いつつも、まんざらでもなさそうなローワンの顔に、エレナはますます楽しそうに笑い続けた。


日が傾くまで、三人は入り江でのんびりと過ごした。討伐の緊張も、噂に振り回された数日間の疲れも、寄せては返す波の音が、少しずつ洗い流してくれるようだった。


――――――――


数日の滞在を終え、三人は王都への帰路についた。見送りに出たテオドールとエルサは、名残惜しそうに何度も手を振っていた。


馬車に揺られながら、エレナがふと呟いた。


「ユーリ、みんなに愛されてたね」


「……そのようです」


以前のような、あからさまな照れ隠しはなかった。少し落ち着いた声で、素直にそれを受け止めているらしいユリウスの横顔に、エレナも満足げに頷いた。


しばらく揺られていると、不意にローワンが声を上げた。


「あ、しまった」


「えっ、なに? 忘れ物?」


「ユーリが書いた手紙の実物、見せてもらうの忘れてた……」


「大変……! 戻らなきゃ……!」


身を乗り出しかけるエレナに、ユリウスが即座に叫んだ。


「戻りません!!」


その勢いのある一喝に、エレナとローワンは顔を見合わせ、揃って噴き出した。

最後までお読みいただきありがとうございます!


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