第4話 モンスター・パニック・サービスと空の火事②
「………ひどい有様ね」
崩落した遺跡は、見渡す限り無惨に砕け散り、
もはや瓦礫の山と呼ぶほかない姿へと変わっていた。
かろうじて形状を保っている建造物もある。
だが原型を見ていた者なら「無傷な部分もあります」と言われたところで、鼻で笑ったに違いない。
それほどの崩壊の後で───。
サカキとフライヤ、そしてアンジュは周囲を詮索しているのであった。
「コマはどこへ行った?」
「とっくに行動開始してるわ」
サカキの問いに、フライヤは杖で空を指し示す。
視線を辿ったサカキは、周囲でひときわ高い木の先端に目を留めた。
そこには、木の先端に直立したコマの姿があった。
不安定な足場を物ともせず、風を受けながら冷静にあたりを見渡している。
その仕事の早さに感心し、サカキは続けて問いかけた。
「この遺跡については、何かわかったか?」
「勘弁してよ………私は考古学者じゃないのよ?」
フライヤは魔法陣の眼鏡を再び展開してはいるが、周囲を観察しても特に成果はなかった模様で、タバコに火を点けながら肩を落とした。
「私にできるのは、魔法がかけられているかどうかってだけで、遺跡の歴史までは視えないわよ」
「遺跡の出自に関しては、何も分からないか」
サカキは周囲を見渡す。
建物は崩れ、痕跡は散り、手がかりすら定まらない。
調査には入ったものの、明らかに情報が足りなかった。
やる術を見失い、途方に暮れる二人。
───そこへ。
「ねぇ!見て見て!」
少し離れた所からアンジュが二人を呼びかける。
「これさ、破片についてるの………海藻っぽくない?」
「………た、確かに」
アンジュが指差したのは遺跡の残骸だった。
そこには陸地では見かける事はない枯れきった海藻や、藻のようなものがこびりついていた。
アンジュはそれをむしり取り、パリパリと指ですり潰しながら、注意深く観察を続ける。
「よく見たら貝みたいな物もくっ付いてるし、少なくともこの遺跡は、海に浸かっていた時期があるってことにならないかな?」
「………そ、そうね」
「だけど海までは相当な距離があるし、なのに海の物があるってのは、不思議だよね?」
「「…………」」
アンジュの興味深い推理に、サカキもフライヤも只々聞き入っていた。
「遺跡が浮いていた時から見てたんだけど、真下は原っぱだったよね?という事は、この遺跡は地面から浮き上がってたのではなくて、“遺跡そのもの”をここまで移動させたってことにならない?」
「「………………………」」
サカキとフライヤは、アンジュの推理に、報酬を払ってもいいとすら思っていた。
「つまりこの遺跡って、大昔は海にあって、それを浮かせてここまで移動させた………。その上で“てんそー魔法”で隠してた、とか?」
立ち上がり、髪を掻きながら、アンジュは口を尖らせ周囲を見渡す。
「ずいぶんと大掛かりなことするよね?」
「「……………………………………」」
────実に愉快だ。
サカキとフライヤは、ずっと聞いていたいと思っていた。
((この娘………出来る!!))
アンジュの推理力に二人に衝撃の稲妻が走る。
「触れるものをすっ飛ばしてまで、この遺跡を隠す理由。思ったより込み入った場所かもしれないね」
「そ、そうね」
「そ、そうだな」
スラスラと推論を述べるアンジュの言葉。
それを止める事はこの二人には出来なかった。
「とにかく空の火事の原因は遺跡の火災。まずは原因となった生物を見つけ────!?」
黙りこくったサカキとフライヤに、見つめられてた事に気がついたアンジュは焦って両手を降った。
「ゴメンなさい!邪魔したかったわけじゃ……」
「気にするな」
サカキにはそれしか言えなかった。
「そ、そう?………うーん……」
「どうかしたのか?」
「い、いや!なんでもない!」
これほどの推論を立てても未だ腑に落ちない様子のアンジュにサカキが声を掛けた。
「気にするな………見学者に物申す権利が無い筈があるまい───言ってみろ」
(腹が立つほど、白々しいわね)
シレっと聞き出そうとするサカキに、フライヤは素直に不愉快になった。
「じゃ、お言葉に甘えて───」
アンジュはしゃがみ込み、指先で地面をなぞりながら言った。
「コレさ、なんかおかしくない?」
「んん~?」
(わかんないなら、わかんないって言いなさいよ!このクソ鬼!)
アンジュの言葉に調子付いて同調しているサカキを見て、フライヤはタバコのフィルターを噛み切った。
「墜落する前の炎って、遺跡だけを燃やしてたみたいなんだ、だけど見てよこれ」
アンジュは周囲に自生していた植物に指を指す。
「この草木たち“萎れてる”けど、“燃えた跡”はないでしょ?」
植物達は遺跡の外より、僅かながらに青々しさは残してたが、くたついて横たわっている。
「火災によって萎れたのではないのか?」
「ぜったい違う」
サカキが答えるもアンジュには響いてなかった。
彼は少々傷ついた様子だったが、アンジュは気にせずに推測を続けた。
「さっき言ってた“てんそー魔法”?それに閉じ込められていた生き物達も、ずいぶんと昔に死んじゃったみたい。だから生物の気配がないのはわかるんだけど………」
周囲を見渡せば、風化した白骨が、ぽつりぽつりと散らばっている。
肉も皮もとうに失われ、命が失われてから数年、あるいはそれ以上の時が流れている。
「でも植物は違う、この間まで花が咲いていた形跡もある。なのに一斉に枯れたみたいなんだ」
火災のあった箇所にも生えている草木はあった。
だが、熱によるダメージは見受けられなかった。
遺跡の外からその異変に気がついていたアンジュの疑問は、より重要性を増していた。
「フライヤさん、これも魔法によるものなの?」
「い、いえ、植物に害を与えた魔法の様子は感じなかったわ」
フライヤが観察た限り、火災の炎は魔法によるものだった。
しかしその魔法は何かを燃やしているのではなく、遺跡にまとわりついていた様にも見て取れていた。
(………もう少し、調べた方が良いかしら?)
「ゴメン!ちょっと離れるわね!サカキ、あとよろしく!」
「───な、何ッ!?」
サカキは、心細さからか思わず声を上げてしまう。
状況を整理する前に、フライヤが離れていった。
「そ、それで………どう思う?」
「うーん」
二人きりになったサカキは額に汗を垂らしながら、チラリとアンジュに視線を送り、おずおずと声をかける。
だが、彼女は気にすることもなく、熱心に周囲を観察し続けていた。
「何か………この場所で、遺跡が燃える以外の何かが、起こったんじゃないかな?それが、空にヒビが入った事に繋がるのかも」
「………な、なるほど」
その熱心な姿勢に、否定できない推測。
サカキは、関心せざるを得ず、言葉を飲み込む。
すると───唐突にアンジュが立ち上がった。
「なんか………凄いなーーー!!」
「なんだ急に!どうした!?」
急に大声をあげて自身の高揚を見せたアンジュに、サカキが驚く。
「ワタシも火の鳥を探して各地を巡ってきたけど───こうやって現地まで辿り着けたのは、ほとんど初めてでさ!!」
先程まで、自身の素性を隠そうと警戒してたとは思えないほどに、
アンジュは、無邪気に笑っていた。
「あんた達っていつも、こんなことをしているの?」
「ま、まぁ………時と場合にもよるが」
「ワタシは、自分の目的だけでここまで来たけど、こうやって謎と向き合っていくって、なんかこう………うまく言えないケド」
自らの感情が整理できないのか、両手を握り興奮で体を震わせ、言葉を探していた彼女、パッと顔を上げ───。
「すっっごくワクワクするね!」
目を輝かせ、思ったまま、嬉しそうに叫んだ。
「………そうか」
その表情にサカキは、一瞬だけ言葉を失った。
だが、そのまま彼は瓦礫に腰を下ろし、目線をアンジュに合わせる。
「だがこの仕事は決して楽しい事ばかりではない。未知なる存在の謎を追うことは、時に人に仇なす生物と、相対する事もある」
サカキの言葉にアンジュは黙って話を聞く。
「その命を討る、その時となれば我々とて、命を差し出す覚悟を持って臨む」
「…………うん」
サカキは、決して否定で言っているのではなかった。
アンジュが、これからも火の鳥を探す旅を続けていくのなら。
その先にある一端だけでも、伝えておきたかった。
その想いが、アンジュにも伝わっていた。
だからこそ彼女は、素直に、正直に、その意見を聞き入れた。
「………だが」
サカキの表情が無意識に緩み、そして───。
「未知なるものに好奇心を抱くのもまた、《《知るために》》必要な衝動だな」
サカキが、笑みを向ける。
その笑顔には、鬼である彼の凶暴な顔つきを、補って余りある柔らかさがあった。
それが通じたのか、アンジュも同じように、ニッと笑い返した。
───その頃。
フライヤは火災の原因となった魔法の痕跡を探していたが、既に魔術も魔法も、全ては完全に消滅し、痕跡一つ残っていなかった。
彼女は、自分の解除精度の高さを、今だけは呪った。
だが、今の彼女が気にしていたのは、それだけではない。
「………余計なこと、言わないでよ」
ぽつりと呟いた声は、風に紛れて誰にも届かなかった。
* * *
すっかり待機状態になっていたサカキとアンジュ。
気まずさはないが、ふとサカキがおもむろに口を開く。
「アンジュ、君は───なぜ、その火の鳥を追っている?」
「え?そ、それは」
突然の質問に、アンジュは再び警戒心を露わにし、うつむいた。
「訳があって言えないなら、無理に話さなくてもいい、質問を変えよう」
サカキは、静かながらも鋭い目でアンジュを見据えた。
「───“サラ”という女性を知っているか?」
その名を口にした瞬間───。
ビクッと怯えた反応をするアンジュ。
その反応にサカキは言葉を続けるか悩む、その時────。
「おい!」
その空気を断ち切るように、上空から声が響いた。
二人は咄嗟に声の方向へ顔を見上げる。
声の主はコマだった。
「見つけたぞ」
木の上に立つコマは、アンジュたちではなく、遠くの何かを見下ろしていた。
サカキはゆっくりと立ち上がる。
そして───。
「……この話は、次の機会にだな」
それ以上は、踏み込まなかった。
* * *
コマが見つけた“対象”の元に一同は集まった。
「───生きているのか?」
「知らん」
サカキの質問にコマは素っ気なく返事をした。
四人が目前にしていたのは───。
瓦礫に埋もれていた、巨大な“龍”だった。
その巨体は蛇のように長く、優に百メートルを超えていた。
瓦礫の中からでもわかるほど、純白の表皮が全身を包んでいる。
龍は大きく口を開け、白目をむいてその場に横たわっていた。
コマは、サカキ達が合流するよりも前に、龍の調査を一通り終えていた。
「全身ズタズダだ、死んでいてもおかしくはない」
コマの言う通り龍の全身は、おびただしい量の生傷がついていた。
その有様は“傷”と呼べる、そのすべてを負っているかのような、痛々しい姿だった。
「やっぱり、遺跡が崩れた時の巻き添えに?」
「いや、違うわね」
診察をするかの様に、龍の周囲を見て回っていたフライヤが、アンジュの推測を遮る。
「傷の経過から見て、遺跡の崩落前からついていたものね。このコは最初から傷だらけで、ここに落ちてきたのよ」
龍の体の上に乗っていたコマが、頭部付近まで移動する。
龍の頭部は上顎の付け根から刃の様なツノが放射状に複数本生えており、首の後ろ側を守る様に、まるで盾にも見える甲羅状の殻が三枚、鎧の様に重なっている。
「額の傷が特に酷い。コイツは転送魔法の壁に頭から突っ込んで強引に壁をこじ開けたんだろう」
その重厚な頭部を、コマはじっと見つめた。
「バカな、転送魔法の壁を物理的に破る事など………」
「まぁ………デタラメな力だな」
サカキの言葉にコマは、ぶっきらぼうに共感し、そして短く吐き捨てるように言った。
「フライヤ、どうだ?」
「“牧場”から借りている記録には、いない種ね」
杖の先端の水晶から、魔法によって様々な生物の記録や資料を映像化させ、それらを高速で確認するフライヤ。
しかし、目前の龍と一致する情報は、得られなかった模様である。
早々に確認を終えたフライヤは映像をしまい、タバコに火を点け、煙をふかす。
「転送魔法を相殺するなんて、相当の技量ね。魔法生物だとしてもそんな技めいたことができる龍なんて、見た事も聞いた事もないわ」
「───“新種”か?」
「まだ判断できないけど可能性はあるわね、それにしても………」
フライヤの眉間にしわが寄る。
「ここまで、魔法の痕跡を残さないなんて………」
彼女の言葉に、サカキは龍に視線を移す。
「町で聞いた『森に何かが落ちた』っていう噂は、このコが壁に突っ込んだ光景ね」
「それで空いた穴から漏れた遺跡の炎から、上がった煙が“空の火事”に繋がった、という訳だな」
「原因なんざ、分かってしまえばシンプルだ」
先程まで、賑やかにも頼りなく見えていた三人の切替えの速さと、迅速な対応にアンジュは呆気に取られ、声を出せずにいた。
「な、なぁ………コイツどうするの?」
おずおずと、三人の誰にでもなくアンジュは声をかける。
「本来なら、応急処置をして保護したいところだが」
「この状態ではね………残念だけど、もう手遅れだと思うわ」
「…………そっか」
本職に徹している彼らの判断。
決して邪魔をしないと約束したアンジュにはこれ以上、状況を追求する提案はできなかった。
事態は、あまりにもあっけなく収束へと傾いた。
「火事の原因は龍の事故で、この場所は当局に引き渡して終わりだな。俺らにできる事はもうねぇ、さっさと引き上げようぜ?」
「………そうだな」
締めに入ったコマに、サカキも同意しする───が。
「ちょぉーーーっと待った!」
唐突にフライヤが二人の肩を、ガシィっと掴む。
「遺跡が、今日の今日まで人の目に触れることの無かったって事は………」
サカキとコマを呼び止め、ゆっくりと二人の顔を撫でまわしながらフライヤは────。
「金目の物があるかもしれないわよ?」
その目を紫外線の様に妖しく輝かせ、そして卑しく笑った。
((………始まった))
その金欲に呆れつつも、決して刺激してはいけないと判断し、二人は黙り込んだ。
「バレない程度に拝借すればバレないし!あなた達だって早く稼ぐもん稼いで、バギーを取りかえしたいでしょう?」
止めたら倍暴れる。
諭そうとすれば三倍騒ぐ。
欲まみれの魔法使い相手に「やめろ」は最も効かない呪文だった。
サカキはその経験から、それを唱えずに済む“最適の呪文”を口にした。
「好きにしておいで」
「ヒィヤッホウ!」
諭すでも、止めるでもなく、ただ“最適解”としてそう告げるサカキ。
そして目を爛々と輝かせ、フライヤは火の粉の様に、飛び跳ねた。
「《《あそこ》》に引力を感じてしょうがないのよね!」
ズビシィ!とフライヤが指を指した方向には、崩落を免れた遺跡の中でも、特にしっかりと残っている建物があった。
息を荒げ、獣の様にその建物を標的に絞ったフライヤにアンジュが後ろから声をかける。
「フライヤさん!ワタシも一緒に行ってもいい?」
「アンジュちゃん………まさか横奪る気じゃ?」
アンジュの要望に、フライヤは殺意のこもった表情で振り返る。
「ち、違う!違う!違う!ちょっと中に興味があるだけで…」
両手を振って必死に誤解を解こうとするアンジュにフライヤはニチャアと笑う。
「ヤダもう、冗談よ!行きましょ行きましょ!遺跡デートしましょ!!」
(………別人みたい)
あまりの豹変ぶりに引き気味のアンジュの襟を、がっちりと掴んだフライヤは、「フライヤダーッシュ!」と叫ぶ。
「うわぁあああーーー!?」
そしてアンジュを引っ張りながら、遺跡へ向かって一直線に駆けていくのだった。
「………長くなりそうだな」
「………飯でも食べながら待つか」
二人を見送ったサカキとコマは、休憩をとることにした。
* * *
「ありれ?ありれ、ありれ、ありれェ〜〜〜?」
目をギラつかせながら、フライヤは金属反応でも探しているのか、何かを探知する奇怪な呪文を繰り返していた。
遺跡の内部入るなり、彼女は金の一片でも逃すまいと、シャカシャカシャカシャカと音を立てながら、壁を這いずりまわる虫のような動きで当たりを索敵していた。
「………た、楽しそうだね」
「なんもない、なんもない、なんもない、なんもない」
異様な光景に、これ以上話しかけてはいけないと察知したアンジュは、自分も遺跡を散策し始めた。
「それにしても………」
建物内を軽く見回しただけでもこの場所は、他の建物よりも明らかな差異があった。
「ここだけ、凄く───白い、あの龍よりも」
眩暈が起きそうな程の白さを放つ建物の内部は、汚れも、影も、時間すら感じさせないその白さを放ち、まるで聖域とでも思わんばかりの神秘的な感情をアンジュに与え続けていた。
それ以外は、フライヤの言う通り目立つものは特になかった。
だがどこか落ち着かない、綺麗すぎるのに、居心地が悪い。
しばらくの間、周囲をウロついていたアンジュは、やがて行き止まりに突き当たる。
「あれは───」
行き止まりかと思って思わず顔を上げた。
アンジュの目に止まったのは、一画の壁画だった。
専門家でもないアンジュには、その壁画の意図は全く分からなかった。
だが一部分だけ、見覚えのある形状の絵が描かれていた。
(………ネックレス───数珠?いや、見たことがある………どこで?)
その絵には玉状の紋章が七つ、数珠状に繋がっていた。
確かにこの形を、記憶のどこかで見た気がする。
それ以上の事は何もわかならなかったアンジュだが、その絵に何故か惹き込まれていた。
「ねぇフライヤさん、アレって───」
「だらあっしゃあアアアアーーー!」
フライヤに意見を求めようと思ったアンジュだが、金目の物が一切見つからなかったフライヤは癇癪に全てを委ね、遺跡の破片を蹴り壊していた。
「何よ、この場所!何にもないじゃない!隠すために隠してたんなら、金品や財宝の一つでも添えときなさいよね!」
「………は、ははは」
辛辣に無機物に八つ当たりをするフライヤに、アンジュは乾いた笑いを漏らしながらも、その視線は───再び壁画へと戻っていた。
* * *
フライヤとアンジュが遺跡探索に精を出している頃、サカキとコマは持参した食料を広げ、バクバクと喰らっていた。
「………なぁ、大将」
「………どうした?」
食料を口に含みながら、コマがサカキに話しかける。
サカキも頬を食料で膨らませながら返事をする。
「あの龍を見つけた時なんだが………死臭をまったく感じなかった」
「そうか」
コマの報告にサカキはさほど驚く様子もなく、次々と飯を口に運び続ける。
「私にも気になることがあってな、龍を見つけた時に、僅かだが我々に対する殺気を感じた」
「そうか」
次いだサカキの報告にコマも同様に驚くことなく食事を続けていた。
「そしてその殺気が、明らかに強くなっている」
「そうだな、さすがに気づく」
一通りの食事を終えて一息つく二人。
その背後で───。
瓦礫が、内側から押し上げられるように崩れた。
中に埋もれ、既に息絶えたと思われていた龍が、ゆっくりと巨体を持ち上げていく。
天を仰ぐ様にその体を立ち上げ、口元からは鋭い牙を光らせながら唸り声を上げる。
龍の巨体で二人の姿には影がかかる。
そして、威嚇をするようにギロリと、二人を睨みつけた。
「アンジュがいるときは言わなかったな、怖がらせない為の気遣いか?」
「黙れ」
未だ落ち着いた様子の二人は、ゆっくりと立ち上がり龍に対峙した。
サカキの表情は至って冷静だが、元来持っている彼の迫力が凄みを増し、文字通り仁王立ちとなる。
一方のコマのからは、人間とは思えない唸り声が喉から漏れ、瞳孔が開き、牙が剥く。
「“未知なる存在への好奇心”………か」
両手で骨を鳴らしながら、サカキはアンジュとの会話を思い出す。
「さて………食後の運動といこう」




