七話 前世との違い、戸惑い
「何を寝ぼけたことを。彼女は兄上の婚約者だよ」
「知ってます!」
知っていてギルバートに付き纏うのか。図太い女だ。つい眉間に力が入り、睨むようになってしまう。
「セオドール様って、フレデリクお兄様と同じで私に優しくないんですね」
「……優しく無くて悪かったね。用はそれだけ?」
「いいえ、違います! それで、好きなんですよね、マリアンナ様のことが」
「だから何」
話が読めない。
戸惑う僕とは反対に、ミリエラの表情は真剣だ。
「あの、お願いがあるんです! 私、本当はギルバート様とお話ししたかったんじゃなくて、マリアンナ様に会いたくて。でも、なぜかマリアンナ様に会おうとすると、他の人が出てくるというか、全然上手くいかないというか」
「いきなりべらべら喋らないでくれる? マリアンナに会いたい? どの口が言ってるんだ」
二人の仲を引き裂いている原因になっていることがわからないのか。
前世でのミリエラの行いを思い出し、頭痛がしてきた。『貴方を理解してあげたい』、そんな泥のように甘い言葉を囁かれた記憶が蘇ってくる。
(あんなに『俺』に執着していたくせに。まるで別人じゃないか、今回のミリエラは)
様子が違う。記憶の中では、彼女は『ギルバート』の側を離れたがらなかった。常に都合のいい言葉を吐き続け、『ギルバート』とマリアンナと決裂させた。
「私も、マリアンナ様が大好きなんです!」
「はあ……?」
「し、信じてませんね!? 本当ですから! 私、マリアンナ様が没落ルートしかないなんて許せなくて。どんどん悪い方向に行っちゃうし、だったら攻略しちゃおうかなって。協力してくれませんか!」
ミリエラのおしゃべりは止まる事を知らない。興奮した様子の彼女は、僕を見ながら力強く何度も頷いてくる。
「これは絶対隠しルートなんです! だってセオドール様がいるし! ギルバート様に弟がいるなんて知らなかったです!」
国に王子が何人いるかも把握してなかったのか。
呆れて言葉も出ないが、気になる言葉があった。
「ルート……それ、さっき授業の前にも言ってたけどどういう意味」
合同授業の前、マリアンナのルート開拓が何とかと言っていたはずだ。
今回のミリエラはどこか違う。思えば合同授業ではギルバートとのペアを解消しようとしていた。王子の妻という座を狙っていた、前世の彼女ならありえない行為。
「その……、えっと、この世界は乙女ゲームの、!」
目を泳がせている彼女を、壁際に追い込む。ダンっと音が鳴るほど強く壁に肘を付き見下ろした。
「ヒィッ! ハッ! これって、第一章殿下ルートのスチルと一緒! でも顔が怖い! 全然違う!」
「第一章でん……何が」
また意味の分からないことを口走り始めた。どう反応してよいのかわからず、ヒクヒクと頬の筋肉がひきつる。
「私は決してギルバート様をたぶらかそうなんて思ってないんです! だから、お願いします!」
両手を胸の前で合わせ、ミリエラが懇願する。
「ギルバート様の気を引いてくれませんか! 気が付いたらいるんです、あの人! 全然私、そんな気ないんです! み、見た目は、かっこいいなって思いますけど……でも、そもそも私、殿下とマリアンナ様の二人が好きで! 特にマリアンナ様! 一目見た時から美人で可愛いなって、推しになって! でもまともなストーリー展開がなくって……。せっかく推しがいる世界に来れたのに私、学園に来ても全然お話しもできなくて」
「……何を、言っている」
目の前で話された内容は殆ど頭に入らなかった。はらわたがふつふつと煮えたぎる感覚がする。記憶の中のお前とまるきり違う、違いすぎる。
「セオドール様も、マリアンナ様には幸せになって欲しいですよね! だから、マリアンナ様のお側にいるんですよね! ギルバート様と兄弟なら昔からマリアンナ様とも会ってると思いますし。だから助けてください、マリアンナ様幸せ化計画を! 私もマリアンナ様が好きなんです! あわよくばギルマリが見たいんです!」
「断る」
「なんでぇ!」
ギルマリが何かは知らないが。
阻止しなければならないことなのだけはわかった。




