二十五話 誕生日パーティー
パーティー当日。
やっと終わったと、大急ぎで王城の自室に駆け込むと礼服の上着を脱ぎ棄てた。
隣国の王太子らの挨拶だが滞りなく、予定通りにお開きとなった。
これは上々、間に合うぞ。
姿見に引っ掛けていた紺のジャケットを素早く手に取り袖を通す。
目立たないようにと黒の外套をその上に羽織り、鏡で確かめる。
よし、これなら王子が街中にいるとは思われまい。
城の外に出てみると、涼やかな風が吹いていた。日もだいぶ傾き、着こんでいても蒸される暑さはない。
誰に呼び止められることなく橋を渡り、街の外れに出た。
林の道の整備された石畳の地面を駆けながら、フェルディマンド家の屋敷を目指す。
待っていてマリアンナ、今行くよ。
パーティーはまだ始まったばかりのはずで、今から向かっても間に合う見立てだ。
マリアンナには今日、僕が来ることは伝えていない。夫妻が招待状を渡したことも知らないはず。ちょっとしたサプライズにはなろう。
訪れないギルバートの代わりに僕が現れれば、彼女はどう思うだろうか。驚く彼女の様子を想像し顔がにやける。
早く彼女に会いたい。はやる気持ちを抑えながら、林の道を駆け抜けた。
フェルディマンド家の門番をしていた使用人の男は僕が現れるなり、首を落ちそうな程傾げた。庭師も兼任している彼は長年公爵家に仕えており、僕とも面識はあった。
「殿下? どうしてこちらに」
「ああ、言っていなかったよね。実は公爵夫妻から招待されているんだ。ここに招待状もある」
マリアンナに内緒にするがために、夫妻しか僕が来ることは知らない。
外套の内ポケットから招待状を出せば、驚きつつも中を確かめ入る許可をくれた。
「マリアンナの誕生日パーティーに駆け付けないなんて、そんな勿体ない事できるわけないだろう。門番の務め、ご苦労様」
「本日はご公務もおありだったはず……、よく間に合いましたな」
「長引かなかっただけだよ。マリアンナは?」
「お嬢様ならロビーにいらっしゃるかと」
「そうか。行ってみようかな」
どんな反応をしてくれるだろうか。想像しては浮足立つ。
公爵邸の玄関扉を開けて入れば、二十名程だろうか、四隅を囲うように置かれたテーブルの周りに人々がそれぞれ集まっていた。音楽はないが話し声が静かに玄関ロビーに響く。
各テーブルには肉料理や季節のフルーツを使ったデザートが並べられ、香辛料と甘い香りが優しく鼻から入り込んでいった。
「あ、あれは、もしかして! げ、やば!」
「どうしたミリエラ。急に振り向いて……セオドールか?」
聞き覚えのある声が近くから聞こえて来た。視線を向ければ、ミリエラがフレデリクの背中に隠れる姿が見える。
彼女は「あれ?」と呟くと、フレデリクの背中からひょっこりと顔を出した。その拍子に、彼女が耳に付けている真珠の飾りが揺れる。
「え、セオドール様の方……? びっくりしたぁ……あっちかと思った」
「フレデリクたちももう来ていたんだね、ミリエラ嬢も。そういえば君、ギルバートの誘いを断ったんだっけ」
「そうなんです! お城に行くなんてとんでもない! マリアンナ様との約束の方が大事ですから!」
えっへんとなぜか誇らしげな彼女。
「よく間に合ったな……王太子達はもう帰ったのか。お前ひとりか?」
「挨拶だけしたらすぐにね。ああ、僕一人で来たよ。ギルバートは見送りとかもあるし置いて来た。で、フレデリク。マリアンナがどこにいるか知らない?」
「いや俺は……数十分前まではここにいたんだがな」
「あ、マリアンナ様ならさっき旧友の方が来たからって席を外しちゃって」
「旧友? 誰が……はッ」
「セオドール?」
まさか、マクシミリアンか!
マリアンナが席を外すような相手なんて、奴しかいない。




