二十一話 薄れる呪い
どうやって自然な流れで招待状を手に入れるか考えていると、気付けば夜になっていた。
パーティーまでとっくに一月を切っている。そして迫り来るマリアンナの誕生日。
何かプレゼントを用意せねば。誰とも被らないような物を……。
寮の廊下でギルバートを見つける。シャワーを終えたばかりなのか髪はふわりと流れ、近寄れば石鹸の香りが漂ってきた。
「や! 兄上」
「セオ……」
少しそっけない表情をした兄は、腕を組むと僕を振り向いた。
近くの部屋からは、人の笑い声が聞こえてくる。ボードゲームでもしているのだろう、駒の名前がいくつか耳に入った。
「兄上、もう湯浴みを済ませてきたんだ。いつもならまだ外にいる時間じゃなかった?」
「……今日は気分が乗らなくてな」
「ふうん、それはまたどうして?」
「……マリアンナと会った」
「あ、そうなんだ」
兄は深々と息を吐く。
「珍しい、兄上がため息なんて」
「……なあ、セオ。最近、頭が重いんだ。なんだかモヤがかかっているようで」
眉間を揉みながら言う兄に、ぴくりと指先が跳ねる。
これは、もしやミリエラの呪いが薄れている?
「不思議なんだ。マリアンナを見ると……なぜか不快な感覚に襲われる。それに彼女を見ると、いつも怒っているような気がして……そんなことは無いはずなのにな。最近のマリアンナは、常に周囲に当たり散らしているような……目に余ると言うか。いや、俺がそう思い込んでいるだけのような……」
「疲れてるんじゃない?」
「そうか……?」
これはまずい。背筋を冷や汗が伝う。
ミリエラがギルバートを放っておくせいで、呪いが効かなくなっている!
「そうだよ。明日にでもミリエラ嬢と何処か見てきたら? 彼女といる兄上は……気が晴々としてる気がするし」
「ミリー、か……」
そうだ、あの女のところに行け。
マリアンナと添い遂げるには、お前の婚約者という肩書きが邪魔なんだ。
「あ、そうそう、兄上。今度マリアンナの家でパーティーがあるそうなんだけど呼ばれた?」
「ああ、誕生祝いのだな。ついさっきな」
「行くの? 招待状は?」
「貰ったが……いや」
ギルバートが返したのは否定の言葉。
行くわけがない。公務に加えて、いくら呪いが薄れていようが心はミリエラに傾いているのだから。
「サウスフォード夫妻が来る日だもんね。僕らが優先するべきは来客のもてなしだ」
「そうだ。この王国に恥じぬよう、出迎えに行かなければ」
恥じぬように? ……婚約者を捨てようとしているくせに。
誘ったのなら、マリアンナはきっとギルバートが来ることを望んでいる。だがギルバートは行けないし、行くつもりもないようだ。
僕はほくそ笑む。兄がマリアンナのパーティーに行かないのなら都合がいい。
「予定があるんじゃ仕方ないよね。マリアンナの誕生日の後には、すぐに学園祭もある。今回は残念だけど……楽しみだねえ、兄上」
「ああ……そうだな」
答えた兄の声は平坦だった。
ミリエラの呪いが解けぬよう、二人の仲を進展させなければ。
「学園祭の日が待ち遠しいよ」
「そんなに好きだったか? いつもめんどくさいとか言ってただろう、社交パーティー。いくら学園主催でも、面子が少し違うだけでやることは同じだ」
「それでも楽しみなんだ、僕はね」
その日のためにこの世界を生きてきたと言っても過言ではないのだから。




