十九話 知らない誘い
マリアンナがこれを持ってギルバートの前に現れれば、鞄を盗んだと責められるだけ。
「僕は部屋にこれを持っていかないと。では、また後で? 授業の途中、どこかで会える事を願っているよ」
引き下がってくれたマリアンナに頷きながら鞄を前に抱える。
それにしても誰があんな場所に隠したんだか。
昨日突き止めた噂の犯人といい、まるで誰かがマリアンナを貶めようとしているかのよう。ミリエラの名前が出てきているあたり、二人まとめて……。
目的は彼女達じゃなくてギルバートか?
マリアンナとミリエラに共通するのはあの愚兄だ。
つまりギルバートの側にいられると都合の悪い誰かの仕業ということか。
マリアンナはまだ婚約者、そしてミリエラはギルバートが目を付けている女子生徒。
ミリエラによればこの世界はゲームで、マリアンナと主人公『ミリエラ』の和解ルートはないらしい。
マリアンナの追放は絶対に起こるそうだ。
ミリエラとの対立がなくなるとマリアンナが消えず、この世界にとっては都合が悪いのか?
僕を生まれ変わらせておいて、運命の神というのは想定外の事態に弱いらしい。
「……マリアンナ、君は戻らないのかい?」
「ええ、もう少し」
どうやらマリアンナはまだ庭を周るようだ。
名残惜しいが別れを告げ、僕は寮へと戻った。
前世のような、マリアンナの追放とフェルディマンド家の没落だけは避けなければ。
……僕が公爵家に入れば、いくらギルバートでも潰せまい。
王子が公爵家に入るということは、その家の潔白が保証される。
別れ際、朝日で瞳が潤んだ彼女は天使のように輝き、まるで一日の訪れを祝福するような光に包まれていた。
◇◇◇
昼休み、図書室の片隅にミリエラを呼び出した。移動授業の教室に向かう途中で彼女を見かけ、歴史書コーナーに来いと言ったのだ。目が合ったミリエラは初めはポカンとしていたが、鞄の肩紐を下げる仕草と親指を立てるジェスチャーをしたら伝わったらしい。
近くに誰もいないことを確かめると、今朝見つけたギルバートの鞄を差し出した。
「ええッ、セオドール様、見つけてくださったんですか!」
「そうだよ。はい、これ」
小声で驚く彼女に早く持って行くよう伝える。
「ありがとうございます……! おかげで首がつながりましたぁ……」
「使わないならさっさとギルバートに返してきな。また失くす前にね」
「そうします……私もずっと探してたのに、セオドール様はどこで見つけてきたんですか」
「…………」
どこで、か。
庭園のガゼボの上にあったと聞いたらどんな反応をするだろうか。
まさか自分が標的にされているとは思うまい。全てがうまく行くはずの主人公だと認識しているミリエラだ。
「庭園にあったとだけ。ほら、早く行きなって。君と二人きりでいるところなんて見られたら、とんでもない」
「あ、そうだった。マリアンナ様と午後一緒に行くって約束してたんだった」
「マリアンナと?」
「はい! 午後の呪文学の授業、一緒に行きましょうって」
「はあ?」
花が咲いたような笑みのミリエラに、ぎゅっと眉間に皺を寄せた。
ずるい。
「くそ、だから何で僕だけクラスが違うんだよ」
「えへへ、羨ましいですかぁ?」
「やめてくれる? その勝ち誇ったみたいな顔」
どうやってギルバートを撒いてマリアンナとの約束と取り付けているのだか。
「それに、来月の誕生日会に招待されちゃいました。何をお渡ししたら喜んで下さるかなぁ!」
「誕生日会の招待? 行くんだ、君もそういうところに。フレデリクからは聞いてないけど」
「断るわけないじゃないですかぁ。だってマリアンナ様からのお誘いですよ!」
「……マリアンナの? 待て、ミリエラ嬢。来月の誕生日会ってまさか」
「あれ? セオドール様……知らないんですか?」
脳天から雷に打たれたような衝撃が走る。
今月末、マリアンナの誕生日がある。つまりミリエラが言っている誕生日会とは。
「……僕、誘われてないんだけど」
「まさかの!?」
フェルディマンド家で開催される、マリアンナのバースデーパーティーだ。




