↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
14/33

十四話 異世界転生、主人公

「さっきの僕の話聞いてた?」

「す、すみません……死ぬ前にストレスで病んで、それからずっと物覚えが悪くて、えへへ」

「ああ、そう」


 君の前世はどんな環境だったのやら。


「とりあえず、君がミリエラの体を乗っ取ってるってことでいい?」

「た、たぶん……です。半年くらい前に、気付いたので」

「半年前……オストナー家に迎え入れられたばかりの頃か」


 ミリエラがこの世界のことを認識したのは割と最近らしい。

 マリアンナが好きだと言っていたが。だとしても僕の計画を邪魔されるわけにはいかない。


「ミリエラ嬢」

「はい?」

「君は、ギルバートの事は好きなんだろう?」

「マリアンナ様が最推しです。トップ・オブ・推し」

「トッ……好きか嫌いかなら?」

「す、好きですけど……それはビジュがいいからで」

「なら良し。僕はマリアンナが好きだ、君はギルバートが好き。ちょうどいいだろう、わかるね? 必要なさそうだけど、僕が君とギルバートの仲を取り持ってあげるからマリアンナからは手を引け」

「え、えええ! だ、だめだめだめ! だめですって! 婚約者の略奪ですかぁ!?」

「うーん……そうなるね?」

「絶対だめですよ! 悪役令嬢じゃなくて、悪役王子になっちゃいますって!」

「何のことかわからないけど、僕は構わないよ?」

「えええ!」


 ミリエラは後ろ歩きで、ズザザッと地面が抉れる勢いで下がった。早いな。

 だが足元が見えていない彼女は、踵に大きな石に当たり後ろ向きに倒れていく。


「うわぁ!」


 頭を打ちつける前に彼女の手を掴んで引いた。

 引き寄せられたミリエラは、くりくりとした目を丸くして僕を見つめ返してくる。

 ざわりと周囲の木々が揺れ、葉が一片舞い落ちた。


「……あ」

「さあ、ミリエラ嬢。僕と取引をしよう? 吞んでくれたら、ギルバートの鞄は僕が何とかしないこともない」


 僕は口の端だけで笑う。

 君のことは、利用させてもらうよ。


「今度の学園祭、君はギルバートと踊れ。どうせ兄はマリアンナを誘わない。君はただ誘いに乗って、アイツと踊ればいい。それに、それが君が知るゲームとやらのシナリオだろう?」

「え……」


 そうだ。ミリエラはただ僕が知る記憶通りに動いてくれればいい。


「王太子妃なんて玉の輿、そんな機会いくら君でも見逃せないだろう? オストナー家も喜ぶ」

「そ、それはお義父様達は喜ぶかもですけど……わ、わたしの推しカプは!?」

「僕とギルバートは同じなんだからいいだろ、別に」

「見た目だけじゃないですか!」


 中身も、なんだけどな。

 ミリエラが僕の正体に気付くことはあるんだろうか。




◇◇◇




 夜、寮のロビーのソファーで、フレデリクと教科書を広げる。二人で明日のテスト対策をしようと話し合っていた。

 寮はの割り振りは基本的に相部屋。だがある程度身分の高い者は個室を与えられている。僕も勿論個室だが、フレデリクを呼べる程部屋のデスクは大きさに余裕はない。だからこうしてよくロビーの談話コーナーを借りていた。


 向かいに座っているフレデリクが、思い出したように教科書から目を離し顔を上げる。


「そうだ、セオドール。夕方に妹からお前に脅されたと苦情があった」

「苦情? ミリエラ嬢からかい? 何のことだろう」


 とぼけながら、テスト範囲はどこだったけと教科書のページを探す。


「まあ、妹の勘違いだとは思うんだが」

「脅したよ」

「そうだよな。お前が妹に絡むなんて……は?」


 ちらっと顔を見てみれば、珍しくフレデリクがぽかんとした表情を浮かべて固まっている。


「昼間、彼女と会ってね。何、ちょっと困ってたから助けてあげようと思っただけだよ。脅したって? ミリエラ嬢ってば、そんなこと言うなんて人聞きが悪いなぁ」

「セオドール、ミリエラに関わるなんて……どういう風の吹きまわしだ?」

「……ちょっとした気分? で、ミリエラ嬢は僕のことをなんて言ってた」

「『マリアンナ様が獲られちゃう』と」

「いや、マリアンナはあいつのじゃないんだけど」


 つるりと指先が滑り、開いていたページを閉じてしまった。


「セオドール、ギルバート殿下のことだが。フェルディマンド嬢との関係悪化がささやかれている。妹のこともそうなんだが……本当に、第一王子はフェルディマンド嬢との関係を切るつもりなのか」

「おや、もうそこまで話が進んでるのかい?」

「知らないのか? 弟のお前が」

「いいや……僕は特には。でも、それならそれでいいんじゃないかな」


 そう言いながら教科書を開きなおす。どこだっけ……と、探しているとフレデリクの顔が迫ってきた。テーブルに片手を付きながら、詰め寄っている。その目は鋭く真剣だ。


「……近いなぁ、もう」

「セオドール、軽く流していい話じゃないだろ」


 フレデリクは周囲に人がいないのを確かめると、小声で話し始めた。


「いいのか? 公爵家の令嬢が、王子から婚約破棄されたとなればフェルディマンド嬢は悪い意味で注目を浴びることになるんだぞ。お二人の付き合いは長いと聞いている。あまりにも一方的な婚約破棄は王家の信用問題にも関わるだろう。放っておいていいのか」

「それは……いただけないね?」

「だろう。ミリエラをギルバート殿下から引き離すべきだ」

「それは無理だよ、フレデリク」

「なぜだ」


 ミリエラを引き離したところで、今のギルバートの心の中にマリアンナはいない。

 それも『魅了の呪い』のせい。あれで洗脳されている限り、ギルバートがマリアンナを選ぶことはない。


「それは、この世界の摂理だから。僕がどうしようが、兄はお前の妹を選ぶよ」

「セオドール!」

「それに、僕にとってもマリアンナがフリーになるのは都合が良い」


 ぺらりとページを一枚めくった。フレデリクから目を逸らし文章を辿る。だが文字が滑り、中身は一切頭には入って来ない。


「セオドール、どうしてそんなにフェルディマンド嬢が欲しい?」

「欲しい……? く、ははは」


 マリアンナは前世では僕のものだったのに、それを取り戻そうとして何が悪い?


「セオドール……」

「フレデリクってさ、案外おせっかい焼きなんだね。他家の事情に首を突っ込もうとするなんて。黙っていればオストナー家は王家の恩恵を受けられるかもしれないのに。マリアンナの将来なら大丈夫だよ。僕が迎えに行くだけさ。マリアンナも、アイツの右頬でもさっさと引っぱ叩いて捨ててくれればいいのに」


 すぱーんと一発。ギルバートに婚約破棄される前に、マリアンナからしてしまえばいい。

 フレデリクの深い色の瞳を見据える。


「僕もね、考えがないわけじゃない。国王の座は兄が譲り受けることになる。だから僕にできる事とすれば……」

「なんだ……」


 フレデリクがごくりと喉を鳴らし、僕の言葉の続きを待つ様子を眺める。

 僕はそっと後ろにのけぞり、ソファーの柔らかい背もたれが当たる感触を捉えながら教科書を脇に置くと足を組んだ。

 自信満々にフレデリクを見つめ返し告げる。


「公爵家に、僕が嫁げばいい。そうすれば、娘が第一王子に振られても、フェルディマンド公爵も文句はないだろう?」


 第二王子の身分は必要ない。

 僕はマリアンナといられるならばそれでいい。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。