十三話 転生・乙女げえむ
テンセイシャ……転生者。
前世との違いで、ミリエラにその可能性があることは承知している。
言い切った彼女の顔からは滲み出ている自信の色。だがなぜ僕がそうだと決めつける?
「ミリエラ嬢、ちょっと良いかな?」
「はい! ……ん、えええ」
礼儀がどうとか気にしている余裕はない。彼女の腕を掴んだ。庭師にいろいろと聞かれる前に、この場を離れなければ。
「こっち。キャンベルさん、僕達は失礼しますね」
「おお、おお。向こうの方、足元が濡れてるかもしれん。気をつけてくだされ。お嬢さんも探し物が見つかると良いな」
「あ、ありがとうございます!」
「ご忠告、痛み入ります。……行くよ、着いてこい」
ぐいっと引っ張れば、簡単にミリエラはついて来る。握っている彼女の腕は、鍛えられておらず柔らかく細い。
庭の奥へと進み、赤と白の薔薇の海の道を歩く。庭園の隅まで行けば人はいないだろう。
突き当たりの鉄格子の手前、花や植木が途絶えた場所まで来ると立ち止まり彼女を解放する。
「あの、セオドール殿下……」
「君、よく他の人間がいる前で転生者だとか言えるよね」
「えっと……」
僕に握られていた場所をさすりながら、ミリエラは目を地面に泳がせる。
「す、すみません……う、迂闊でした」
「わかれば良い」
「えっと、セオドール様も……私と同じってことで良いんですよね?」
「それはどうかな」
「え、違うんですか!」
ミリエラが半歩後ずさる。
転生者かと問われれば否定はしない。だが、彼女が思っているのとは異なるはずだ。
「君は僕がなんだと思ってる? 君と同じだとでも?」
「そうだと思ってるんですけど……だって、マリアンナ様のことを守ってますよね。多分、私から」
「……へえ、わかってたんだ」
「わ、わかりますよ! だって、私に注意とかしてくれるのってお兄様を除いたらマリアンナ様か、セオドール様だけだから」
他の人間は干渉してこないか、それか全てミリエラの都合がいいように動いていると彼女は言い切った。
そして物事の殆どが、マリアンナとミリエラが対立し、ミリエラ側が有利に働くように天秤が傾いているのだと。
「それは私がこの世界で主人公だから。セオドール様ならわかってくれると思います。この世界、変なんだって」
主人公か。
下唇を噛み、不安そうな面持ちで見上げて来るミリエラ。彼女の話が突拍子なくどこかずれている気がするのは、僕の前世と彼女の前世に違いがあるからだろう。
「この世界でマリアンナ様を好きになる人は現れない。私、それはわかるんです。みんな『ミリエラ』のことしか考えないから。そんな中で、セオドール様は異質なんです」
言い方的に、『魅了の呪い』の力に関してはまだ知らないらしい。だがミリエラが感じている違和感は正しかった。
「私は、この世界をゲーム……物語として認識してるんです。『氷の王国、心溶かして〜ドキドキ・スクール編〜』、魔法と学園物の恋愛ゲームです」
なんか頭が痛くなるような題名が聞こえた。アイスキングダム……まあ冬はかなり寒いからアイスキングダムでいいのか、ここは。
「マリアンナ様はどのルートでもミリエラに厳しく当たるキャラクターでした。でも厳しくて当然なんです! だってぽっと出の転校生が王子とかいろんな貴族の人にチヤホヤされてるんですよ! ちゃんと礼儀をわきまえなさいって、ガツンと言われて当然なんです! でもゲームの中で、マリアンナ様の味方はいませんでした。あの人を救いたいと思う人は、どのルートにも現れなかったんです」
仕事帰りに事故に遭い、気づけばこの世界にいたとミリエラは付け足す。転生したきっかけの説明が一番短かいのだが、すっ飛ばして良いのだろうか。
「私の前世なんてどうでも良いんです。薄給サラリーマンだった私のことなんて……それより、セオドール様のことですよ!」
「僕?」
「はい! 転生者、ですよね? この前は確かめられなかったですけど」
むんっと力んで言う彼女を静かに見つめ返す。
「どこの誰なんですか!」
「……君の期待に応えられなくて残念だけど。僕は生まれてこの方、記憶している限り、この世界のことしか知らないよ」
「そんなはずは」
「『君の持つ力は泉の女神より澄んでいる。君が正しき聖女だ』……例えばこんな言葉も、君なら知っているのかな? 物語を知り尽くした君なら」
「それ台詞、殿下ルートの……え」
「これでわかったかい」
僕の正体に勘付いたか。
「……セオドール様。貴方、殿下ルートを、相当やり込んでますね?」
なんで。
僕はこの世界しか知らないって言ったばかりだろ。




