↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
12/33

十二話 旧知、過去

 すっかり怯え切ってしまった彼女達は、三人とも俯いてしまった。

 僕は君たちが噂を流した犯人だなんて一言も言っていないのに。



 

 カフェを後にする。

 廊下を歩き、突き当たりの扉から外に出た。食堂のすぐそばには庭園があり、なんとなく散策することにした。

 草花に水を撒く、口髭を蓄えた庭師の脇を通り過ぎる。四十代の見た目をした男は、僕が知る限りでも学園に長く勤めており、時々城の庭の手入れにも来てくれていた。


「やや、セオドール殿下。お一人ですかな」


 おっと、話しかけられた。

 庭師は水をやっていた手を止めると、僕に会釈をする。

 邪魔をするつもりではなかったんだが。


「すまない、手を止めさせてしまって。お久しぶりですね、キャンベルさん」

「ふふん、私は何度もお見かけしておりますぞ」


 おや、気付いていなかったのは僕だけか。


「今日はご友人は一緒ではないのですかな」

「フレデリクのことですか? ああ……彼なら今頃寮にいるはずですよ」

「そうですか。殿下に親しい友人が出来て、嬉しく思いますぞ」


 ホッホッホと、老人じみた笑い方をする庭師のキャンベル。幼少の頃の僕を知る彼だが、まだそんな歳でもないだろうに。


 不意に僕たちがいる方に駆けて来る足音が聞こえた。だばだばと慌ただしい足取り。耳を澄まさずともわかる音の発生源は、校舎側から。


「わ、やばいよやばいよー! ない……! ギルバート様から預かってた荷物が!」


 庭の低木達の影から現れたのは、汗を流しながら走って来るミリエラの姿。

 ギルバートの荷物を無くした? 何をしているんだか。

 呆れていると、僕の存在に気がついた彼女は「ぎゃっ」と悲鳴を上げた。令嬢としてあるまじき振る舞いだ。


「はあ……」

「や! あ、あの、……あ、良かった、セオドール様だ……いや、全然良くない! セオドール様でも!」

「だろうね。何、兄上の荷物を無くしたって?」

「うわあああん、セオドール様ぁ! 助けてくれませんかぁ!」


 泣きついてくる彼女をサッと避ける。


「おやおやお嬢さん、君は……?」

「キャンベルさん、彼女はミリエラです。オストナー伯爵令嬢……フレデリクのとこの養女です」

「ああ、この間の転入生か。何やら大ごとのようだのう……」


 ミリエラは青ざめた顔で僕に迫った。近い。


「セ、セオドール様ッ!」

「近寄らないでくれる?」

「ハッ!? パーソナルスペースが広いんですね! では」


 意味のわからない単語を言って一歩下がった。パー、ソナル……何?


「あの、聞いてください。私、ギルバート様から鞄を預かってたんです! これくらいの革製のヤツを!」


 ミリエラが体の前で、手で箱のような形を空中に描く。皮の鞄だとすると、ギルバートが学業用ではなく、個人的に使用している物か。城から持ってきた趣味で使うような雑貨類を詰め込んだヤツ。


「この世界、見たことない鳥とか生き物が多くて。面白いですねって言ったら、鞄ごといろいろお借りしたんです……。部屋に置いてたんですけど、失くなってて! 昨日借りたばかりなのに!」

「あーあ、やっちゃったねミリエラ嬢。王族の私物なんて、今頃質屋にでも入れられてるんじゃない?」

「えええ!? み、見捨てないでください!」


 見捨てるも何も、紛失したくらいで君に夢中なギルバートはすんなり許してくれそうだが。


「そういえばゲームにもこんな展開あったかも……ああもう、なんで忘れてたんだろう……」

「ミリエラ嬢、心当たりのある場所は当たった?」

「はい! もう、全部!」


 行動が早い。

 相変わらず意味不明な言葉を繰り返す彼女を、僕は腕を組みながら見下ろした。

 そういえば、うっすらと前世の記憶の中で、ミリエラに貸した荷物がなくなったような……。


「一緒に探してくれませんか……」

「嫌だよ。君が失くしたんだ、責任もって探すことだね」

「でも、早く見つけないと! マリアンナ様が先に見つけたら、誤解されちゃうんですよ!」

「誤解? 誰、に……ッ!」


 そうだ、ギルバートだ!

 記憶を振り返ってみれば、マリアンナが持っていたではないか。当時の僕は彼女がどこかで見つけて来たという説明も聞かず、すぐさま盗人だと決めつけた。ミリエラが失くすはずないだろうと。

 

「……チッ、まずいな。ギルバートに気付かれる前に発見しないと。場所はどこだ……マリアンナはどこで見つけたって言ってた……?」

「あれ? セオドール様、ご存じなんですか?」

「ご存じ? 知ってるも何も、実際に見て……」


 慌てて口を閉じる。

 僕が『ギルバート』だったことは知られていない。こんな様子がおかしいミリエラに知られれば、面白がられるだけだ。

 ミリエラはキョトンとした顔で僕を見つめてくる。


「やっぱり」


 やっぱり?

 眉間に皺を寄せ見つめ返す。


「セオドール様も、転生者ってやつですよね!」


 は、はあ……?


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。