十一話 摘むべき芽
◇◇◇
学園の食堂の隅にはちょっとしたカフェスペースがある。王都で有名なパティスリーが経営する有名菓子店の分店で、令嬢たち御用達。
食堂のよく磨かれた石膏の床が、途中から茶色の床板に変わる箇所がカフェのスペースだ。僕は長椅子とテーブルを避けながらそこに向かう。
壁は唐草模様の壁紙が使われ、ガラリと印象を変えている。
店内には、いかにも令嬢たちが好みそうなレースの装飾を施した、柔らかなソファー席がいくつか。
ケーキやらマフィンやらが陳列されたショーケースから一番離れた席、四人席にそれぞれ頭に違う色のリボンをつけた少女らを見つけた。
僕は静かに彼女らに歩み寄る。
「やあ、君たち。少しいいかな?」
「……あら、ええと、セ、セオドール殿下ですか?」
青、緑、オレンジのリボンを付けたうちの、青リボンの子が振り返る。頭の高い位置でひとつ結びにしたブロンドヘアは少しクセがあり、毛先がくるりと巻いている。少々そばかすが目立つ彼女は、僕を見て表情をこわばらせた。
「うん、セオドールの方で合っているよ。今、時間はどう? ほんの数分でいいんだけど」
「は、はい……」
「なんで、殿下が……」
ヒソヒソと、彼女たちは顔を見合わせる。
明らかに警戒している様子。確かに、普段声を掛けられない存在から急に近づいてきたのだから、何事かを疑って当然だ。
「フェルディマンド嬢についてね……確かめたいことがあって。彼女は僕の兄の婚約者だろう? ちょっと変な話を聞いてしまってね……」
「公爵令嬢様ですか」
「シレイネ、あれよ、あの話よ」
オレンジリボンが青リボンの子に囁いたのが聞こえた。青リボンはシレイネというのか。シレイネで青だと……伯爵家のシレイネ・マクミランか。マクミランと言えば、前世でもマリアンナの取り巻きにいた気がする。
「クラスメイトの君たちなら、もっと詳しい話を知っていないかと思ってね。尋ねてきたんだけど」
「で、殿下。マリアンナ様の噂話を耳にされたのですか?」
恐る恐ると言った様子で、マクミラン嬢はが尋ねてくる。
「そうなんだ。皆んながゴシップとか好きなのはわかるよ? でも、フェルディマンド嬢にその噂話が付き纏うとなると、王家としてはちょっと見過ごせなくてさ……ほら、ギルバートも困ってしまうだろう?」
婚約者に悪い噂があるなんて、と。
「僕は噂の真相を確かめたいんだ。君たちはどうやって知ったのかな?」
「転入生の彼女ではありませんか? だってあの方が言っていたって、聞いてますもの」
「本当にそうかな?」
「……な、なんですの」
またミリエラ。
あいつの擁護などしたくはないが、ミリエラの素行はフレデリクにも関わってくること。品行方正なアイツに、とばっちりがいくのを見過ごすのは性分に合わない。
「オストナー伯爵令嬢が本当に言っていたのかい? ずっと学園にいたのに、街にいるマリアンナなんて……フェルディマンド嬢なんて見かけるはずがないんじゃないかな」
「っ、それは……」
「君、いつもフェルディマンド嬢の側にいたよね。そう言えば……ああ思い出したよ。マクミラン家が取り仕切っている漁港で、あの地域の検閲を厳しくさせたのがフェルディマンド家だったね」
家同士の中が良くないのに、娘同士が仲良くするとは思えない。
目の前でマクミラン嬢がぎゅっと身を縮こませるのを見た。
「最近だったよね、それ。……そのせいで収益が落ちてしまったんだっけ。でも最近あの港町で薬の密売とかが多かったから仕方ないよね。君の家も大変な目にあってるのに、まだ彼女と仲良くしてくれているのかい」
「……」
何も答えられないか。
シレイネ・マクミランが噂話に関与している事は間違いないだろう。
話の出どころについて女子達に聞き回る予定だったが、こんなすぐに見つかるとは。
制裁を下すべきだろうが、今の僕らはただの学生同士。
「マクミラン嬢は優しいね……君たちも、もし他におかしな噂があったら、僕に教えてくれない?」
次はない。
人差し指を立て、口元に添える。
「……ああ、そうそう。ギルバートには言う必要はないよ? 僕だけに教えてくれれば良いから」
クスリと微笑えむと、三人はぎこちなく頷く。
僕は、冷ややかに彼女達を見下ろした。




