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Limitless  作者: 神 賢一
第十章 Till The End

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153/166

第153話 Limitless

 ― 人類個体識別番号 281474976710655、転生てんしょうを開始します。 ―



 それから剛は、何度も転生して約5年半の人生を繰り返していた。

 それと同時に希美も、何度も転生して約1年半の人生を繰り返す。

 翔や恵に転生の事を気付かれてしまった事から、希美に会いに行くのは転生した日では無く翌日の日曜日にしており、希美が転生してきた吉祥寺の災禍の翌日は直前の前世での記憶の照らし合わせと現世でのこれまでの経緯の伝達を行い、より疑われないように慎重になっていった。

 天道は吉祥寺でただ捕らえただけでは異形に変ずることは無く、何れかの四肢の欠損などが起こった場合に悍ましい異形になる事が分かった。


 剛と希美、この二人がトーフに通うと言う事が妖魔出現の際に出現数が増大したり、過去に出現していなかった日に出現するようになると言う事は、ほぼ間違いない事実である事も何度も転生する事で分かった。

 トーフにおいて2年生の段階で特技士になる事も、3年生になった段階で対妖魔特別警報発令時は剛達4人が最初に出動する事も、剛が希美と共に戦う事を再開した時をほぼ踏襲する形となる。

 剛と希美は何度も転生を繰り返す事で戦闘経験を重ね、より鋭くより強く――と言いたい所であるが、転生において肉体はその当時のものとなるため、経験を元により磨きを掛けた訓練を課す事で、徐々にではあるが一つ前の前世と比較して少しずつ強くなっていく。

 だが、それでも天道に対して最後の一撃が届かず――届いても相打ちが精一杯の状況が何度も続く。



(またか……また、届かなかったのか……)



 ― 人類個体識別番号 281474976710655、転生てんしょうを開始します。 ―


 既に250回以上聞いたであろう、同じアナウンスであった。


 ― 記憶領域を increment します……オーバーフロー、失敗しました。 ―


(えっ?!待ってくれ、失敗って……いや、これは、一度有ったな……)


 ― carry over flag が on になりました。記憶領域を unsigned char から signed short に変換します……成功しました。 ―


(……成功してくれたか。だが、何が起こっているのか相変わらずさっぱりだ……)


 ― 記憶領域を increment します……成功しました。 ―


 ― initialize を実行します……history の reload を開始します……成功しました。 ―


(何だ?……history……歴史?どういうことだ……)


 ― 転生準備完了。人類個体識別番号 281474976710655、出生名『神野剛』の転生を実行します。 ―



 ― 出生名『神野剛』の転生に成功しました。転生を終了します。 ―


 その瞬間、剛は不思議な感覚に包まれる。これまでの転生では得られなかった、何かが体に染み込んでくる感覚――まるで、個性を得た時と同じような感覚で体が満たされる。

 体感する気温は肌寒い――つまり冬であり、転生した時期が変わった訳では無さそうだと思い目を開ける。

 剛の瞳に飛び込んできたのは想定通り、母校である小金井市立第五小学校の校舎と、その上空を覆う冬の分厚い雲。

 そして記憶に久しい、身長140cm程の翔の姿。

 だが、剛は自分の変化を理解する。


(個性が……全ての個性が……ある?!)

 その瞬間、剛は翔を見る。何故か分からない。だが、翔が必要だと感じた。そして――誰よりも会わなくてはならない人がいる。

「翔……悪い、行くぞ。一緒に来てくれ」

 剛は翔の手首を握って走り始める。翔にとってはさっぱり理由が分からない。

「おい、剛!どこに行くんだ?!」

 剛は翔の手を引いて小金井五小の校門を抜けながら、軽く振り向いて応える。

「後で説明する!ついて来てくれ!!」


 剛と翔はJR武蔵小金井駅に到着すると、剛が言うように荻窪駅までの切符を購入して改札を抜けてJR中央線快速に乗り、暫しの間電車の乗客となる。

「……剛……俺そんな小遣いねぇぞ」

 その言葉に剛は苦笑いを浮かべる。

「悪い。足りない分は俺が出すよ」

 その表情を見て、今までに見た事が無かった事を感じて翔は剛から顔を背ける。

「その顔はキライだ」

 剛は口の端を上げて先程とは違う苦笑いを浮かべる。

「この顔しか無いよ」



「ここは……?」

 東京メトロ中野坂上で降りて、歩いて8分程の場所……普通の、この辺りだと当たり前の3階建ての民家の前に辿り着いた翔は、同行している剛に意図を尋ねる。

 その翔の質問を聞きながらも剛はその家のインターフォンを押す。

 10秒程の間が空いて、インターフォンから息を飲む声が聞こえ、剛は訝し気ながらも声を繋ぐ。

「星野希美さん、ですよね。俺、神野剛と言います」

 剛がインターフォンに応える間もなく――恐らく応えを聞かずに、その人は玄関のドアを開けて現れた。


「剛……剛なのね?!……翔?翔も一緒なの?」

 剛は驚愕する。これまでの希美は会った事が無い相手で剛を剛と理解する訳が無かった。ましてや、翔はトーフに入るまで会う事すらなかった相手である。

「希美……分かるのか?!」

 希美は後ろで結んだポニーテールを揺らして頷いて、剛に向けて手を差し伸べる。

「話したい事は剛も、私も山ほどだと思うわ。さあ、上がって」


「悪ぃ、さっぱり分からねえや。どう言う事だよ、剛」

 翔の抗議はもっともである。剛と、希美は前世の事を理解しているが、翔は前世の記憶など全く無いのである。

「そうだな……一番最初から話するか」

 剛が何もできずに天道に殺された事から、翔に向けて話を始めて行った。


「あー……えーっと……悪い……全然分からん……」

 それはそうであろう。高校生とかの年齢ならまだ色々経験してきて、転生――翔に分かる言葉で言えば死に戻りが起きた事を、剛と希美に起きていると言う事を、納得しなくても理解はできたかも知れない。

 だが今目の前に居る翔は小学4年生――10年しか生きていない。剛や、希美みたいに転生して何百年も生きてきた訳では無い。

 その翔に対し、剛はこれまでの自分の転生歴を――途中からは希美を含めた転生の有様ありさまを伝える。

 その内容は翔からしたら眩暈するような理解しろと言われても無理な内容以外、現世の常識で表せる事はどこにも無かった。


「剛……そんな、アニメの中の話……何を信じろと……」

 混乱しか無い中で翔が言葉を絞り出す。それに対して、剛は掌を広げて――親指に緑、人差し指に白、中指に赤、薬指に青――そして小指に黒の渦を巻き起こす。

 それを見た時、翔より希美の方が驚愕する。5色――この世で誰も到達していなかった高み。それを、希美の目の前で、剛が披露したのである。

「これって?!」

 その言葉に翔が目線を上げると確かに剛の手の上に存在する5色の法力――翔が知る限り無個性の剛が、1色どころでは無く全ての色を手にしている事に、呆然として思考が停止する。

「翔……これでも、俺の転生の話を疑うか?」

 翔は溢れ出る涙を押し留める事も出来ずに、親友である剛がこれまで翔が分かり得ない世界で経験してきた苦難――そして、天道によってもたらされた死と言う現象を、覚束ない想像力を駆使するものの、全くもって理解の範疇外である事を思い知らされるのであった。


「翔」

 希美が優しく声を掛ける。その顔は、10歳と言う年齢に似合わず菩薩のような慈悲に満たされた顔であった。

「私達が諦めなければ、天道を倒す、その力をどれだけでも自分の物にできるんです」

 その言葉は、後にも先にも翔にとって、剛と希美が何を覚悟して100回以上命を落としても戦い続けようとしているのか、それを頭で理解では無く、心で納得した、その瞬間であった。

第153話 『Limitless』 Bon Jovi

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