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Limitless  作者: 神 賢一
第九章 Dearest

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第150話 怪物

 戸山公園箱根山地区での特務実習後も、剛達は毎日のように模擬戦や特技訓練を行っていた。

 そして剛達の特技の威力を目の当たりにした特技科生徒の内、製作者が入間であると言う事を知った者が改装やメンテナンスを依頼に殺到し、大半が断られるも一部の者だけは改装やメンテナンスを行ってもらい、その武具としての素の能力や特技発動の増幅量の向上に驚愕を禁じ得なかった。

「……神野くん達の戦いを見て、最初から入間さんに特装の製作をお願いすればよかったな」

 改装して貰った特装器を手に、桂が第4格技室でボヤいていた。剛から発動方法を教えてもらった神の(divine)光弾(bullets)を試し打ちしたところ想像を遥かに上回る威力を発揮しており、この特技とこの特装器が以前からあればもっと楽に戦えた事を実感していた。



 7月に入ったその日に発生した杉並区大宮――和田濠公園の近くにおける特務実習と、それを陽動作戦として行われた令和島収容所襲撃に伴う天道光の脱走は剛と希美にとっては予定調和でしか無かったが、他の特技科生徒――引いてはSUADに震撼をもたらした。

 今回の襲撃は地上だけでもランクB妖魔のサイクロプスやケルベロスを含む500体以上の妖魔が出現し、更には10体を超えるワイバーンが上空からも収容所に襲い掛かり、流石のSUAD本隊でも一個小隊50名では手に負える規模では無かった。

 その結果、軽症者15名、重傷者17名、そして死者13名――その中には剛達は直接面識は無かったが昨年トーイチを卒業した隊員が2名含まれており、その事もトーイチ内に衝撃を齎す事となった。

 そして、同規模の妖魔が出現しても無傷で事も無げに殲滅する剛や希美への畏敬の思いも広まっていく事となる。



 そして剛達4人の実力は7月中旬の新宿御苑、8月上旬の東京大学駒場キャンパスでの特務実習で遺憾なく発揮される。

 どちらも対妖魔特別警報が発令された事により、剛達4人が搭乗した装甲輸送車が先発して現地での妖魔討伐を開始した事により、他のトーイチ特技科生徒が到着した頃には既に焦土と化して殆ど妖魔の姿が見当たらない状況となっていた。

 特に東京大学駒場キャンパスでの特務実習では現場に近いトーニから出動した特技科生徒にとって防衛線を維持する事が精一杯な状況下で、次々と発動される特技の轟音、爆音が徐々に近付いて来ると言うのは目の前の妖魔よりも遥かに恐怖心を煽られる事となった。


 「トーイチのバケモノ(・・・・)」はトーイチ内よりもトーニの方に深く浸透していく。

 そしてその評判を聞く度に、トーニに通う恵にとっては心を握り潰されるようなにがく苦しい想いになる。

(剛も希美ちゃんも、翔も……あなた達はどこに行こうとしてるの……)

 コミュ障気味でアニメやラノベが好きでぶっきら棒な弟も、言葉遣いはやや乱暴ながら周りをよく見て気遣いができる弟の親友も、透き通った優しい目をした背筋が伸びた目を奪うような弟のガールフレンドも……2年くらい前まで恵が知っていた人達は、最早違う生き物――バケモノ(・・・・)になって、人類の敵である妖魔を狩り続けている。

 入間のように直接手助けする事も叶わず、それどころか彼らに守られるしかできない己の無力さに恵は苛まれるのであった――



 2027年8月24日――

 火曜日であるその日も剛は希美、翔、奈緒と4人で第5格技室に入り、模擬戦を実施していた。

 最初の1戦は剛と希美、翔と奈緒と言ういつもの組合せで実施し、その後は翌日の三校合同特別講習に向けて仕上げを行おうと励む3年Aクラスの生徒を中心に翔と奈緒は1対2、剛と希美は1対3で模擬戦を実施していた。

「皆さん気合が入っていますね」

「ああ……それで一人でも多く生き残ってくれたら」

 二人が話しているところを模擬戦を終わらせた翔が目敏く目撃しており、二人に近付いて来る。


「……明日、なのか……?」

 声を掛けられて剛と希美は一度お互いを見詰め合い、翔に向かって無言で頷く。

 その無言の答えに翔は眉根を寄せて苦い顔と言うらしくない表情を浮かべる。

「翔、あまり気にするなよ。なるようにしかならないんだし」

「そのために私も剛もトーフ入学前から鍛えてきましたし、翔も剛に付き合わされてたんですよね?」

 3年以上一緒に過ごして来た間柄だが、16歳になり美しさに磨きが掛かった希美に笑顔を向けられ、流石の翔もドキッとして視線を背ける。

「……ま、俺はあの問題児の世話に徹するよ」

 その翔の視線の先には、巨大なハンマーをどっかんどっかん振り下ろしている奈緒の姿があった。



 翌日――

 剛は普段通りにJR中央線快速で荻窪駅に向かい、東京メトロ丸の内線に乗り換えて西新宿で下車し、地下通路を通ってトーイチ格技棟の地下まで来ると通路からトーイチ地下駐車場に入るとエレベーターで1年Aクラスがあるフロアで上がり、教室に入って自分の席に背負っていたカバンを置く。

 そのまま第1格技室に向かおうとしたタイミングで入口から教室に希美が姿を現し、剛は方向を変えて希美に向かって歩いて行く。

「おはよう希美」

 声を掛けられて直ぐに相手が剛である事に気付き、希美は柔らかな笑みを浮かべて軽く頭を下げる。

「おはようございます、剛」


 不思議と二人に気負いなど無かった。

 天道との決戦の日――敗れれば即ち死を意味する戦いにこの後数時間で挑むと言うのにも拘わらず、普段と何ら変わらない心境でその時を待っている。

 それは何度も転生を繰り返してきた事により、生と死を超越した二人の絆――共に在る事を誓い合った剛と希美の互いへの想いが、雲一つ無い晴天のような心境へと導いていた。


 三校合同特別講習が開始され、最初の座学講座が終了した後、剛達4人を含む三校の特技科生徒は第1格技室に集合していた。

 トーイチに入学した剛達4人は今年からは普通に模擬戦に、と考えていたのだが、最早この4人では真面まともな勝負になる特技科生徒はどこにも見当たらないため、最後に模範演習と言う形で剛と希美、翔と奈緒の組合せで模擬戦を行う事となった。

 それは奇しくも初めてトーイチに進学した転生の時と同じ形式で、違うのは翔と奈緒も模擬戦を行うと言う事であった。

 剛達4人は気になる模擬戦を観戦し、時折感想を述べ合いながら自分達の出番を待つ。

 全ての生徒間の模擬戦が終了すると、剛と希美、翔と奈緒に分かれて第1格技室の中央付近に進むと、三校の特技科生徒は二組を囲むように楕円に――まるで陸上競技のトラックのように並んで空間を作り出す。


「始め!!」

 掛け声と同時に剛と希美は踏み込んで斬り付けを打ち合わせると互いに後ろに跳躍して間合いを取るとすかさず希美が駆け寄って突きを放ち、剛は左に躱しながら石突近くの柄で胴への殴り付けを見せると希美は剣で弾き、弾かれた反動で剛は斧頭の斬り付けを見せると受け流した希美は袈裟斬りを見舞い、ハルバードの突起で受けた剛は捻り返そうとするが素早く剣を引いた希美が突きを放ち、掬い上げるように剛は弾き返す。

 誰もが固唾を呑むような、トーニ生やトーサン生では最早何が起きているのかすら分からない素早く激しい斬撃や突きの応酬を繰り広げる剛と希美は、4分程経ったところで間合いが開いたタイミングにお互い大きく踏み込み、剛は突きを、希美は逆袈裟を繰り出し、希美の喉元にハルバードの穂先が、剛の首筋に長剣の切っ先が突き付けられて二人は制止する。

 その姿はミケランジェロの彫刻のように躍動感と美しさに満ちており、誰しも物音すら上げる事ができずに二人を凝視する他できなかった――その時。


 ≪対妖魔特別警報発令!!対妖魔特別警報発令!!妖魔出現場所は新宿区西新宿!推定妖魔出現数は15,000から20,000体!!東京第一高校の特技科生徒は特装具を着用、特装器所持の上、第1格技室に再集合せよ!!繰り返す!対妖魔特別警報発令!!対妖魔特別警報発令!!妖魔出現場所は新宿区西新宿!――≫

第150話 『怪物』 YOASOBI

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