第149話 Get Wild
2027年4月8日――
剛達4人は無事に国立東京第一高等学校――通称トーイチ――に進学した。
当然ながら剛も希美も翔も奈緒も1年Aクラス所属であり、桂達6人もAクラス所属であった。
年明けからトーイチに進学する間の期間も剛達は毎日のように模擬戦や特技訓練を行っており、トーイチ生やトーフ3年Aクラスの生徒も巻き込んで実施した事で、新年度のトーイチ生のレベルはこれまでになく高いと評価を受けていた。
トーイチ入学後も剛達4人は土曜日も格技棟に集まり、模擬戦や特技訓練で腕を磨き続ける事2か月――
6月第2土曜日であるその日も剛達4人はトーイチ格技棟に集まり、3年生を相手に模擬戦を実施していた。
(何度も経験してるから間違いないだろう……今日、だな。警報なのか、特別警報なのか……)
相手を変えながら何度も1対2の模擬戦を実施する事約1時間が経過した頃、御魂が格技室内に居る剛や希美の姿を見止めると駆け寄って来た。
「ここにいたのですね、神野くん、星野さん」
普段とは違う厳しい顔をした御魂に対して希美が向き直る。
「先生がここに来たと言う事は、特別警報、ですね?」
御魂は希美の言葉に頷くと、身を翻して室内に居る全員に向けて、流石はSUAD大隊長と言うべき良く通る声を張り上げる。
「全員特装を準備してください!特務実習で出動します!」
装甲輸送車に同乗したのは剛、希美、翔、奈緒の他、1年Aクラスの生徒は3人――第8格技室に居合わせた桂と第10格技室に居たウォーハンマー遣いの松本、それに普段は同乗しない寺島と言う両手剣遣いで、残りの3人は1年Bクラスの生徒であった。
桂と松本は剛達と何度も妖魔の大群の渦中に身を置いた経験があるが、それ以外の4人はトーフ組とは言え本格的な特務実習参加は2回目であり、その2回目が特別警報である事にガチガチに緊張しきっているのが傍から見て痛いように分かった。
「桂くん、松本くん、残りの4人をお願いします」
その言葉に桂は少し驚いたような顔をするが、直ぐに表情を不敵な笑みに戻す。
「分かりました。星野さん達は止めたところで真っ先に突っ込んで行くんでしょうからね」
箱根山の真北当たりまで来ると既に路上にまでゴブリンやコボルドが溢れ出しており、装甲輸送車は十数体の小型妖魔を跳ね飛ばして停車し、後部ハッチを開けて全員が飛び降りる。
「翔と奈緒は北へ!桂は5人を率いて討ち漏らしを頼む!絶対無理はするな!」
一番無茶をする人から無理をするな、ですか――と桂は思うのだが、すぐさま5人に対してフォーメーションと役割の確認を行う。
既に翔と奈緒は花の広場に向けて駆け出しており、剛と希美も箱根山に向けて走りながら特装器を振るう。
〈溶岩弾!!〉
〈細氷!!〉
二人は遠距離範囲殲滅型の特技を素早く発動させると夫々が100体近くの妖魔を灰に氷塵にと化して行く。
小型妖魔を討伐しながら先へ進むと、箱根山の山頂付近に人影のような物が視界に入る。
「剛!あれを!」
「……あいつか!」
剛は剛力斬で近場の妖魔を纏めて弾き飛ばすと特装器を掲げて法力を込める。
〈隕石群!!〉
入学式の日に入間に改装して貰い威力が向上した特装器により、箱根山の上空に無数の黒い点――100個を超える隕石が発生して瞬く間に赤く熱を放ち、音を超える速度で落下し始める。
すると山頂に居る妖魔と思しき存在は真っ直ぐ腕を上げて掌を上空に向けると、その1m程上に半径10m程の黒い円盤を生み出す。
落下してきた隕石はその黒い円盤に衝突するが、激しい衝撃波を放つも突き抜ける事が出来ずに、円盤の外に落ちた隕石だけが地面を坩堝に変えていく。
既にそれは剛にとって想定通りであり、再び特装器を掲げて箱根山頂を指すと緑の法力を込める。
〈土剣山!!〉
箱根山頂に半径10m、長さ8mの土の針が無数に発生すると、隕石群の猛熱でマグマのように超高温で湧き立つ周囲に囲まれた妖魔、そして修羅は逃げ場など何処にも無く、瞬く間に塵に変えていった。
その間希美は8mを超える長さを誇る炎刃でトロルを含む近場の妖魔を一掃し、剛の顔に視線を送ると剛は黙って頷き、アイコンタクトで剛は右から、希美は左から箱根山の麓に屯う妖魔の討伐に駆けて行く。
「……ホント異次元だよな、神野くんと星野さんは……」
そうボヤきながらも桂は5人を従えて散り散りになった妖魔を討伐して行く。
「おーいるいるー♪じゃあ翔んるん、援護よろ~~~♪」
そう言うと奈緒は巨大なハンマーを両手で掲げると赤の法力を込め始める。
(アレ使う気か……まあ、この場所なら一番手っ取り早いな……)
飛翔斬や空気矢で近寄って来る妖魔を討ち減らしながら、翔はその熱と衝撃に備える。
〈爆裂!!〉
奈緒がハンマーを振り下ろすと多目的運動広場とアスレチック広場の境目にある木々の上空5m程に赤い光が発生し、次の瞬間には半径30mが爆炎に包まれ、その5倍の範囲を猛烈な爆風が吹き荒れ、翔は爆風に飛ばされないように自分と奈緒の前に石壁を発生させる。
100体を超える妖魔――中には数体のサイクロプスやケルベロスも含まれていた集団は爆炎により直ちに蒸発し、同数程の妖魔は爆熱により発火炎上して灰となり、200体を超える妖魔が爆風で木に、構造物に、近場の妖魔に激しく衝突して塵となって行った。
(特装器のアップグレードで威力が増してるとは言え、こいつは洒落にならねぇ威力だな……)
昨年の小金井公園で発動させた時を大きく凌ぐ威力を目の当たりにして、翔は奈緒の手綱を引く役割にげんなりしていた……
その間も次々と装甲輸送車が現着しており、トーイチの特技科生徒が公園に集団を組んで駆け込んでくるが、剛と奈緒が500体以上、希美が400体程、翔が200体程、そして桂達6人も50体程の妖魔を討伐しており、2,000体を超えて戸山公園箱根山地区に出現した妖魔は既に400体以下にまで討ち減らされていた。
その中でも特に最初に到着して北を目指していたトーイチ3年Aクラスの生徒達は、意識していないタイミングで奈緒が発動した爆裂による爆風の直撃を受けて吹き飛ばされるように転倒しており、何があったのかと呆然とその場にへたり込んでいた。
「バ……バケモノじゃねえか……」
そんな風に思われているとも知らず、奈緒は爆裂の余波が残る公園でふんすーと鼻息荒くドヤ顔をして翔に軽くチョップを喰らっているのであった。
既に視界内には妖魔の姿が見当たらず、破壊音も聞こえなくなった頃合いに、スズカケの森方面の妖魔を討伐し終えた剛と、さくら広場に屯っていた妖魔を討伐し終えた希美は、箱根山のすぐ南にある幼稚園付近で合流していた。
「終わったかしら?」
「ああ、そっちも終わったみたいだね」
爆風こそ届かなかったものの奈緒の爆裂の轟音を耳にしていた二人は、北側の広場の方も一掃されているであろう事を理解しており、警戒を続けながらも箱根山の麓の遊歩道を登場してきた装甲輸送車の方に向かって歩いて行く。
すると討伐を終えた他のトーイチ生も装甲輸送車に向かいながら、戦いの緊張感から解放された安堵感からか話をしていた。
「さっきのマジでビビったわ。北からの弾道ミサイルが落ちてきたかと思ったよ」
「バーカ、弾道ミサイルだったら公園どころか新宿区全体が消し飛んでもまだ足りねぇよ」
そんな発言を耳にして剛と希美は顔を見合わせて苦笑していると、そこに桂達6人も合流してきて桂が口を開く。
「さっきのは何だったの?爆弾でも落ちてきたのかと思ったよ」
お前もか、と似たような感想を漏らす桂に剛は肩を竦める。
そんな様子の剛を見て、希美は薄らと笑みを浮かべる。
「私達も帰りましょう。そろそろお昼ですから奈緒がお腹空いたって騒ぎそうですね」
第149話 『Get Wild』 TM NETWORK




