第147話 Higher Ground
翌日――
「対妖魔警報の場合は、従来通りトーイチ3年Aクラスからの出動に戻しますね」
剛達4人は御魂に呼ばれて教官室に来ていた。そこで御魂から言われた言葉に、奈緒はふーんと言った表情をしているが、剛、希美、翔の3人は唖然とする。
「それだと以前のように混戦になって、私達の特技発動に制約が出るのですが……」
困惑した状態で、希美は率直な意見を御魂に伝えるが、御魂はニコニコ顔を崩さずに希美に答える。
「ええ、ですから対妖魔警報の場合、です。対妖魔特別警報が発令された場合は、皆さんに先行して貰います」
成程、と剛は思う。確かに対妖魔警報の場合、剛や希美が得意とする大規模遠距離攻撃を使用する機会は少なく、トーイチ生に先行する必要性はあまり高くない。
トーイチの上級生からの強い要望により、剛達は特別警報の時以外は本来の順番通りに出動する事を認めざるを得なかった。
≪対妖魔警報発令。対妖魔警報発令。妖魔出現場所は新宿区戸山。校内に居る特技科の生徒は特装具を着用、特装器所持の上、地下駐車場に集合せよ。繰り返します!対妖魔警報発令……≫
翌週月曜日――放課後にトーイチ生と模擬戦を行っている最中に、アナウンスが響き渡る。
剛達は直ちに模擬戦を中止してトーイチ生と共にロッカールームに駆け込み、特装具を装着すると特装器を手にして地下駐車場に向かうと、次々と特技科生徒が駆け込んできて約250人が集結した。
以前剛がトーフに通っていた人生では、直前に2対50と言う無謀な地稽古を行っていた影響で300人程が集まっていたが、それには及ばないもののトーイチ生の危機感が人数に現れていた。
先日御魂から言われた通り、トーイチ3年Aクラス、Bクラス、Cクラスと順に装甲輸送車が地下駐車場を後にし、最初の装甲輸送車が出動してから遅れる事約3分で剛達が乗る装甲輸送車がトーイチ地下駐車場から西新宿の路上に繰り出していった。
現場近くの路上に停車した装甲輸送車から剛達が飛び降りると、箱根山方面から既に彼方此方から戦闘音が響いていた。
800体程いたはずの妖魔は既に半数近くが討伐されているようで、中には10人程の集団でサイクロプスやケルベロスと言ったランクB妖魔を討伐した者も何組か存在していた。
(久々の対妖魔戦で士気が上がっているのか……予想以上の戦果だな)
剛と希美、翔と奈緒、桂と同乗した5人に分かれ、夫々が妖魔の群れに向かい討伐を始めるのであった。
翌日以降の放課後の格技室は活気に溢れていた。
これまで手を拱いていたランクB妖魔のサイクロプスやケルベロスを集団でとは言え自分達で――特に剛や希美の手を借りずに――討伐したと言う事実が彼らの士気を高めており、格技室で行われる模擬戦もより一層の熱が込められていた。
当然ながら剛達4人への模擬戦の依頼は息を吐く間も無い程に次々とやってきており、技を競い合いながらトーイチ生も剛達も腕を磨き続けるのであった。
12月も3週目に入り、冬休み迄10日を切った日の昼休み、4人は学食で昼食を取りながら、冬休み期間の模擬戦について予定を擦り合わせていた。
「今年は25日が金曜日か……土日を休みにして30日まで3日、年明け4日から6日まで3日ってところかな。」
剛がスマートフォンでカレンダーを表示して、冬休み期間の曜日などを確認していた。
「26日の土曜日は模擬戦を行っても良くないかしら?トーイチの方もその日なら案外多く出てきそうですし」
希美が剛のスマートフォンを覗き込みながら提案してきた。その次の週の土曜日は1月2日で学食が開いていないため殆ど生徒は集まらないだろうが、冬休み初日となる12月26日であればまだ休み気分に浸りきる前なので、格技室での訓練を行う生徒が多くいてもおかしく無かった。
「別に俺はそれでもいいぜ」
翔が希美の言葉に同意すると、奈緒は期待を込めた顔をして口を開く。
「じゃあ1日は初詣~~♪」
現世においてブレない奈緒の発言に、剛と希美はクスっと笑って顔を見合わせる。
「分かりました。じゃあ元旦はまた初詣に行って、私の家でお昼ご飯にしましょう」
そこで剛はふと悩む。前回トーフに入学した転生において、12月24日は帰宅しようとしたタイミングで青山霊園に妖魔が出現し、対妖魔警報が発令された。このため帰宅が大幅に遅れて、余りゆっくりと過ごす事ができなかった記憶がある。
その事は希美も記憶に留めており、剛からの誘いがある事は分かっているのだが24日で良いのか悩ましく思っていた。
「希美、今年だけど……25日で良いか、一回先に母さんに確認してから決めて良いかな?」
これまでは12月24日のクリスマスイブの日と言うのが通例だったが、今年は12月25日のクリスマス当日が金曜日なので予定をずらすのもアリだと剛は考えていた。
ただ、先にずらす事を了承して貰わない事には単なる希美が来た日、にしかならないため、剛としても調整した上で決める必要があった。
「ええ、分かりました。無理なら24日でも構いません」
希美としては神野家の事情までは口を挟めないため、剛に任せる他なかった。
25日に希美を迎える話は、父親の豊も母親の雫も異存は無く、恵も「希美ちゃんが落ち着いて過ごせるなら」と希美に対しては甘い態度を見せ、すんなりと決定していた。
このため、24日のクリスマスイブは午前中で授業が終わった後、昼食後午後3時頃まで模擬戦を行う事で話が決まっていた。
4時限目の授業が終わって学食で昼食を取り終わった直後の事であった。
≪対妖魔特別警報発令!!対妖魔特別警報発令!!妖魔出現場所は港区南青山!推定妖魔出現数は2,000から2,500体!!3年生は特装具を装着、特装器所持の上、地下駐車場に集合。2年生は直ちに地下駐車場に集合せよ。繰り返します。対妖魔特別警報発令!!……≫
「「?!」」
剛と希美は思わず顔を見合わせる。嘗て剛と希美の二人で過ごした前世の記憶では、青山霊園での特務実習で出現した妖魔は1,000体程だった。当然特別警報では無く警報が発令されており、明らかに規模が異なっているのである。
だが、それは既に前例があり、小金井公園の対妖魔特別警報の時は前世では推定出現数は2,000体から3,000体だったのに対し、現世では3,000体から4,000体と3割以上増加していた。
それに対して今回の青山霊園では倍以上の規模まで増加している――何が原因かは不明であるが、剛と希美と言う現世の因子が関係している事は間違いなさそうである。
そして前世でも苦慮したのが青山霊園と言うその場所であった。
霊園――即ち墓地であるため墓石が林立しており、墓石そのものに歴史的価値を持つ物が幾つも存在している事から、隕石群や火口炎のように有無を言わさず焼け野原にするような範囲殲滅特技は使用できないと思わざるを得ない。
だが、焼け野原にするような特技でなければ――そして剛も希美もそう言う特技は既に習得していた。
装甲輸送車が青山霊園北側の駐車場に到着すると搭乗していた10人はすぐさまハッチから飛び降り、剛と希美が東側、翔と希美が西側に向かい、桂を中心とした6人は南北に続く道沿いに展開して妖魔の討伐を開始する。
走り始めて1分も経たずに剛と希美は50体から100体程の妖魔の集団を幾つも目視する事ができ、特装器に法力を込めるとこの場所ならではの特技を発動する。
〈土剣山!〉
〈細氷!〉
二人の特技により霊園の墓石に被害を与える事無く、妖魔の集団を消し去って行くのであった――
第147話 『Higher Ground』 Stevie Wonder




