第145話 crossing field
「始め!!」
教官の掛け声で藤田と大村の二人と対峙した剛は、木製ハルバードを下段に構えると体を開きながら右に動き、挟撃されない位置取りに自らを置く。
槍使いの大村と、グレイブと言う薙刀に近い柄物の藤田と言う、長柄武器を使用する二人とはハルバードだとほぼ間合いが同じになり、間合いの差を活かした時間差の攻撃は難しいと考えて同時に討ち合う事が無いようにいつも以上に剛は慎重になる。
長柄武器と言う点では同じであるが、刺突が主体の大村の槍に対して藤田のグレイブは斬撃が主体であり、剛のハルバードはその混合とも言えるのだが、ハルバードのように複数の攻撃手段では無く機能を絞る事で得物の扱いはシンプルになり、それだけに一撃が鋭くなるのを剛は以前からの模擬戦で感じ取っていた。
(一緒に組んでるだけあって、隙が無いな……)
剛は様子見で手数を繰り出すが、お互いの信頼が高いのかフォーメーションを崩す事無く、等距離を保ったまま剛と対峙し続けていた。
(ならば……強硬手段で足並みを乱すだけだ!)
ハルバードの持ち手を両手から柄の末端部分を右手のみに変えると、剛は大村に向かい穂先を繰り出す。
両手で持っていた時と明らかなリーチの違いに大村が驚いて左に跳躍して回避すると、大村が居た場所に素早く剛が駆け寄り再びハルバードの柄を両手に持ち替えて藤田に斬り掛かる。
藤田は剛の斬り付けをグレイブで弾くが、弾かれた方に向き直ろうとしている大村が居た事から――全て剛の計算であったのだが――勢いのまま剛はハルバードの柄を叩き付けて大村の槍を弾き飛ばす。
藤田は背を向ける形の剛に向けてグレイブを振り下ろすが、剛は回転の勢いを殺す事無く藤田に向き直ると一閃を受け流して間合いを詰めて懐に潜り込むとハルバードの穂先を首筋に突き付けるのであった。
「そこまで!!」
槍を弾き飛ばされた衝撃で痺れた手を押さえてしゃがみ込む大村に対し、一瞬で二人とも刈り取られた衝撃で呆然と佇む藤田。
剛はハルバードを引いて両手で構え直すと3歩下がり、対戦相手の二人に礼をした、その時であった――
≪対妖魔特別警報発令!!対妖魔特別警報発令!!妖魔出現場所は小金井市関野町!推定妖魔出現数は3,000から4,000体!!東京第一高校の特技科生徒は特装具を着用、特装器所持の上、地下駐車場に集合せよ!!繰り返す!対妖魔特別警報発令!!対妖魔特別警報発令!!妖魔出現場所は小金井市関野町!――≫
「関野町って小金井公園かっ?!」
ロッカールームに駆けながら翔が声を上げる。頷きながらも剛はこの後に何が起こるか既に想定して、自分達がどう動くかを考えていた。
「地下駐車場に到着したら先ずは御魂先生を探す。あの人なら既に策を講じているはずだ」
剛は特装具を装着して特装器を手にすると、翔と共にロッカールームから出て地下駐車場に向けて駆け出していく。
地下駐車場に着くと剛達4人は御魂の姿を探すと、向こうも剛達を探していたようで、特装に身を包んだ御魂が珍しく真面目な顔で駆け寄って来た。
「神野くん、星野さん、本田くん、鈴木さん、4人は私について来てください」
そう言うや否や、御魂は駆け出して西新宿の地下通路を南へと進んで行く。
剛と希美は顔を合わせて頷くと黙って御魂について駆け出し始め、翔と奈緒もその後を追う。
その状況に御魂はおや?と思う。通常であれば地下駐車場から装甲輸送車に乗り込んで出動するところ、地下駐車場から違う所に移動していると言う事は装甲輸送車での出動では無くなる……どうするのか疑問を持つはずの所、4人は黙って御魂について来ている。
「剛……知ってんだろ……?」
走りながら剛に並びかけて翔が尋ねる。転生――死に戻りを経験している剛だからこそ、御魂が起こした行動がどう言う意味を持つのか知っている筈だと考え、そして実際に剛にはこの先の事が理解できていた。
「ヘリだ。SUADの防災ヘリを御魂先生が手配している」
その答えに翔は唖然とする。一介の学生、それも本来であれば妖魔討伐を行う立場でないトーフ3年生に対して、SUAD東部方面隊全部合わせても10機も存在していないヘリコプター――翔には実数までは分からなかったが――それを手配すると言う事は異常な事態である。
とは言え、御魂と、そして自分達4人以外で3,000体を超える妖魔の大群をどうにかできるとも思えない。
(……思えば遠くに来たもんだ、って曲、あったよな……そんな感じだ……)
待っていた――正しくは御魂が依頼して1階で待たせていた――エレベーターに乗り込むと、御魂が4人に向かい話し始める。
「こういう事態を想定して、以前から上に許可を取っていました。緊急の際はSUADが保有しているヘリコプターで現地に先行して、少しでも妖魔の数を減らしておけるようにと言う措置です」
剛の言った通り……翔は御魂の言葉を聞いて剛を横目で見遣る。
「先生……俺達だけ、ってことっすよね?」
翔の質問、と言うより確認の言葉に、御魂は黙って頷く。
屋上のヘリポートに上がると地上240mを吹き抜ける強風に加え、待機しているヘリコプターのローターから発生する風に煽られる。
風に飛ばされないように足に力を込めながらヘリコプターに近付くと、最初に御魂が乗り込み、希美、奈緒、翔、剛の順に特装器を手にしたまま乗り込む。
御魂は交信用にオーバーイヤーのヘッドセットを着用し、対する4人は事前に渡されていた耳栓をする。いずれにしろ、ヘリのエンジン音やローター音で真面な会話は困難であったが、爆音の影響で地上に降りた後も耳が効かない状態になるのを防ぐためであった。
10人程が乗れそうなヘリに全員が乗り込むとドアが締められ、直ぐにヘリポートから離陸したヘリは西に向かい、5分と経たずに小金井公園に到着するのであった。
ヘリが小金井公園の上空、高度100m程まで降下した所で、剛と希美は頷き合うと特装器を手に席から立ち上がる。
翔と奈緒が何をするのかと眺めていると、二人はヘリのドアを開ける。降下中とは言えまだ高度70m――ビル20階程の高さがあり、間違って落ちたら命は保証できない状況に、翔も、奈緒も、そして搭乗員席に座っていた御魂も驚愕する。
そんな周りの様子も余所に剛が公園内を眺めてハルバードの先で示すと希美が小さく頷き、二人は特装器を掲げて赤の法力を込め始めた。
〈〈隕石群!!〉〉
北の丸公園での特務実習でも行った、二人同時の特技発動。高度50mまでヘリが降下していたが、そこから更に50m上空――地上からの高度100m付近に350程の黒い点が発生すると瞬く間に赤く眩い光と辺りを焼き尽くすような熱を帯び、忽ちの内に音を置き去りに落下した隕石群は小金井公園の広場に屯っている1,000体を超える妖魔を劫火の中に陥れ、その周辺の500体以上の妖魔を衝撃波で吹き飛ばす。
剛と希美の二人は一瞬にして、小金井公園に出現した大量の妖魔の半数近くを殲滅させたのであった。
ヘリが着陸する直前に剛と希美はハッチから飛び降り、すぐさま目に付いた妖魔の群れに特技を叩き込む。
翔達も既に席から立ち上がっており、着陸と同時に飛び降りると御魂が降りて来るのも待たずに剛達とは違う方向に駆け始めた。
「やれやれ……勝手な行動とは困ったもんですねぇ」
眼鏡のブリッジを押し上げながら呟くと、御魂もヘリから飛び降りて公園の西側に向かって駆け出していく。
その途中に小金井公園中央部に当たるこどもの広場からいこいの広場の南側を駆け抜けながら、その状況に流石の御魂も驚愕する。
(半径100m程ですか……あの二人は私でも手に負えないかもしれませんね……)
隕石群の灼熱により未だ鉄も溶けそうな程に滾った地面を横目で見ながら、御魂はその先へと向かうのであった。
第145話 『crossing field』 LiSA




