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Limitless  作者: 神 賢一
第九章 Dearest

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第144話 STAND UP (Full Metal Armor)

 前世でもそうであったが、北の丸公園での特務実習が終わると1週間もせずに夏休みに入る。

 これまでもそうしてきたように、剛達は毎日のように模擬戦を行い、トーイチ2年生3年生と剣を、槍斧を、ハンマーを交える。

 剛と希美からしたら『当たり前』に過ぎない行動だが、トーイチ生はその根源たる理念を分かり得ない。

 当然である。

 天道を知る者と、知らない者。

 この差は『死』と言う物を知っている者と知らない者との差とも言えた。


「えっ?!次は小金井公園?!」

 そう言えば、と希美は剛と初めて会った時の記憶を奥底から取り出す――そうだ、あの時だ。

 自分でも過去の転生の時と照らし合わせるが、最初に記憶している時以外に小金井公園で、しかもトーフ3年生の時と言うのは転生の前の初めて剛と会った記憶の時にしか無かった。

「……やっぱりそう言う事か……」

 その剛の言葉に希美は理解ができずに困惑の顔を見せる。

 そんな希美に対して剛は自分の過去の転生からの経験を語り始める。


 最初の転生――吉祥寺の災禍が発生した2026年3月31日に繰り返し転生していた時に、小金井公園に妖魔が出現したと言う記憶は一度も無かった。

 記憶違いなどは有り得ない。徒歩10分の場所で何度も足を運んだ事がある小金井公園に妖魔が出現し、対妖魔警報なり対妖魔特別警報が発令されたのであれば気付かないなどと言う事は無いであろう。

 だが初めてトーフに入学した時だけは違った。対妖魔特設高校の三校合同特別講習の日に、トーイチ・トーニ・トーサンの特技科生徒と模擬戦を行って終了した直後に対妖魔特別警報が発令され、剛達4人と御魂はヘリコプターで小金井公園に急行した。

 その事は何度も転生して遥か昔のように感じながらも、希美もはっきりと記憶していた。

 だが、その後の転生で特別警報どころか警報すら発令されず、最初の転生において希美は特務実習に出動する準備を済ませて待機していたにもかかわらず何も起きずに肩透かしを食らった事も覚えていた。


「じゃあ何故今回は……?」

 今まで1回しか経験していない事が何故発生するのか。希美のその疑問は当然と言えた。

 そして剛はその理由について一番考えられる仮説を伝える。

「俺と、希美。この二人が揃っている事。それ以外に理由は考えにくい」

 剛の答えに驚きつつも、過去の事例から納得するものが希美にはあった。

 警報や特別警報が発令されたはずの日に何も起こらない――剛が隣に居ない人生ではそんな事がごく当たり前に発生していた。

 その逆であれば――今のように剛が隣に居るのであれば――それは起こり得る事態と言う事である。

 それならば、とその日が来る事の可能性を視野に、希美も、そして剛も模擬戦により熱を込めて行うのであった。




 夏休みが終わる丁度1週間前の2026年8月25日――

 トーイチ・トーニ・トーサンの都内に存在する対妖魔特設高校の三校合同夏季特別講習が行われる日である。

 トーフ――国立東京第一高等学校附属中学校の3年Aクラスに所属している剛、希美、翔、奈緒の4人は、中学生の立場でありながら去年に引き続き特別講習の模擬戦に参加する事となっていた。

 参加するのは模擬戦で大体10時40分頃から開始のため、それまでは準備運動がてら体を動かしておこうと、4人は格技棟の端末前に集合して第10格技室を予約してから学食に向かって昼食の予約を済ませ、格技室に戻ると模擬戦の準備として柔軟体操や素振りなどを始める。

 準備が終わると先ずは剛と希美が模擬戦を開始するのだが、今日はこの後の特別講習で模擬戦を行うと言うのを忘れているかのように、いつも以上の激しさで討ち合いを始めるのであった。


「……剛ちゃんこの後特別講習での模擬戦だぜ?」

 希美との対戦が終わった剛に対し、余りの激しさに翔が思わず口にする。

 だが当の本人はだから?と言わんばかりに平然としており、更に翔を呆れさせていた。

(だが……これから相手するのは手加減なんて知らないヤツだからなぁ……)

 翔が目を向けると既にハンマーをぶんぶん振り回している奈緒の姿。

 翔は大きく溜め息を吐くと、重い足取りで奈緒との模擬戦に向かうのであった。


「そろそろ第1格技室に向かう時間かな」

 時計を見ると10時半を回ったところで、8時40分に開始された特別講習も座学が終了した頃合いであった。

 剛達は第1格技室に入ると一番端に居る御魂の姿を見付けて歩み寄って行くのだが、昨年参加していた2年生以上は兎も角、トーニ・トーサンの1年生はトーフの制服を着ている4人を訝し気に――そして値踏みするような目で見るのであった。


 定刻となり全員が整列すると、トーイチ特技科の格技担当教官が壇上から簡単な説明を行い、学年・クラスごとに対戦グループが分けられる。

 剛達4人はトーイチ3年Aクラスがいるグループに入れられる。その中にはこれまで何度も模擬戦を行ってきた伊達や富澤と言った面々が顔を揃えていた。

 模擬戦は5戦を予定しており、剛達は順にトーサン、トーニ、トーイチの生徒と対戦後、トーニ、トーイチの別の生徒と対戦を行うのだが、トーイチ生は1対2、トーニ・トーサン生は1対3で模擬戦を行う事となっていた。

(まあ、去年がトーニ・トーサンの3年生相手に1対2で全勝だったから、相手が増えるのも当然かな……)

 そう思いながら、剛は自作の木製ハルバードを手に模擬戦を行う場所に向かうのであった。


 剛の最初の対戦相手はトーサンの槍遣い、両手剣遣い、刀遣いの3人。刀遣いが剛の正面に立ち、右後ろに両手剣遣い、左後ろに槍使いが位置取る。

 定石通りに考えると前の刀遣いが陽動で、後ろのどちらか片方でも剛に切っ先を届かせれば勝ちと言う考えになる。

(陽動が陽動として機能すれば、ではあるがな……)

「始め!!」

 教官の掛け声と同時に剛は刀遣いに一気に詰め寄ると、気迫に押されて動揺した刀遣いの木刀をハルバードの斧頭で弾き飛ばし、その勢いのまま左に反転すると素早く間合いを詰めて槍使いの首元に穂先を突き付ける。

 3秒も経たずに2人が倒された事で両手剣遣いは恐慌状態となり両手剣を滅多矢鱈に振り回すが、振り下ろしたところを剛はハルバードの突起で剣を絡め捕ると右下に捩じり伏せ、引き抜いたハルバードの斧頭を逆袈裟に斬り付けて相手の左脇腹に添える。

 開始7秒――トーイチ3年Aクラスの者以外、何が行われているのかすら碌に理解できないまま勝敗は決したのであった。


 剛が周囲を見回すと希美も既に3人を下しており、奈緒は最後の1人となった槍使いを追い掛け回しながらハンマーを叩き下ろして教官から止められており、翔も最後の1人の両手剣遣いの懐に飛び込んで喉元に切っ先を突き付けたところであった。

 僅か12秒で、しかもトーフ3年生を相手に3人掛かりで挑んで負けたと言う、トーニ生・トーサン生からしたら理解不能な事態でしか無かった。

「神野らは流石だな」

「ああ、俺達もああならないようにしないと」

 少し引いた場所で剛達4人の戦いを眺めていた伊達と富澤は納得したように笑みを浮かべる。

 この後最後となる5戦目に伊達と富澤は希美と対戦が決まっており、少しでも食らい付けるようしっかりと観戦しようと思ったのだが、あっという間に決着が着いてしまい思惑は外れたものの、学生特技士として最上位の相手と戦える事に不思議と緊張はしていなかった。


 その後のトーニ生、トーイチ生、2回目のトーニ生との対戦を終え、最後の対戦相手として剛の前に立つのは藤田と大村――嘗ての人生において、周囲の小型妖魔を一掃した後残ったサイクロプス討伐を任せた二人であった。

 当然これまでに何度か模擬戦を行ってきており、お互いに面識もある。

「この緊張感、ハンパねえな!」

「こう言うシチュエーションって憧れるよな!」

 緊張感から獰猛な笑みを浮かべる二人に対し、剛は静かに返す。



「行きます。覚悟してください」

第144話 『STAND UP (Full Metal Armor)』 MINAKO with WILD CATS

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