円城寺くんと一緒
「六本木さん、今日はよろしくお願いします」
今日は、円城寺との同行日だった。朝一でうちの営業所に出張でやってきた彼はそつなく周囲に挨拶していた。コミュニケーション力が高いのか元からそこにいるかのように溶け込んでいた。
……前言撤回、谷脇所長だけは「面倒くせえこと押し付けやがってこいつ」とでも言いたげな表情で時折忌々しげな目線を向けていた。
「一応今日の流れを打ち合わせさせてください」
事前に俺の方で送った資料を元に円城寺とともに今日の面会のシナリオを確認していく。
現状への理解についてもお互い認識のズレなく出来ており問題はなさそうだ。
「それじゃあそろそろ出発しようか」
「了解です。よろしくお願いいたします」
◇
営業所を出発してまもなく病院に到着した。
アポイントまでは少し時間があったが、向こうの都合も急に変わることもあるので一応早めに確認しておこうと思い、車を降りて病院内へ向かう。
歩いていたら見知った顔に話しかけられた。田中だ。
ずいぶん久しぶりな気がする。30話振りくらいか。
「あれ、六本木さんまさか担当交代ですか? 送別会は盛大にやりますよ!」
「今日は同行してるだけだ。残念だな」
医薬品メーカーの営業は基本的に単独で行動することが多いため、二人いると大体担当が替わるために引継ぎでいると思われやすい
俺は上司も連れて歩くことはないし、ましてや円城寺は若い。そう思われても仕方がないところだった。
そういったこともあって、顔を合わせるたびに同じ様なことを言われてしまった。
そういえばその中に一ノ瀬さんもいたが体調でも悪かったのだろうか顔色も悪くこちらに話かけてくることはなかった。
そうこうしているうちに院長室付近まで到着し、秘書さんに予定を確認してもらう。時間通り面会してもらえるそうで俺と円城寺はしばらく応接室で待つことになった。
待っている間円城寺が話しかけてくる。
「随分メーカー同士仲がいいんですね」
「まあこんな所だからな、情報交換も重要だろ」
「僕はその考えには反対ですね、情報は貴重ですよ。他社から得るものよりも自分の財産が漏れるほうが怖い。割に合いませんよ」
「考え方は人それぞれだからな、それも正しいと思う」
このあたりの考え方は本当に人によって様々であって会社で一貫した方針は特にない。
とは言えうちの会社では円城寺の捉え方の方が主流派を占めるのは間違いなかった。
相手を選んで話していても、伝聞を制限することは不可能だ。
ただ俺は別に誰に知られてもいいと思っている。昨今は病院も営業活動が制限されるところが増えてきており、歓迎される時代ではなくなってきている。
いい情報は共有して全体のレベルが向上した方が結果的にはいいことだろう。
しばらくすると応接室に院長がやってきた。
俺と円城寺は予定通り企画趣旨を説明する。
院長は少し考える素振りを見せたが、最終的には賛同してもらえることが出来た。
「すんなり話がまとまりましたね」
「院長は結構何持ちかけてもウェルカムな人だからなあ」
「イメージと違いましたね。ここシェア的には苦戦してるんでもう少し抵抗感示されるのかと思いましたよ」
シェアのことは言ってくれるな。一応気にしてるんだからさ。
とは言え事実は事実として受け止める他ない。
「僕だったらもっとうまくやれますよ」
ぼそっと呟いた一言が印象的だった。




