衝突
「ちょっと六本木さん、円城寺さんなんとかしてくれませんか?」
後輩である三本松が機嫌の悪さを隠しもせずに俺にそうこぼしてきた。
「ちょっと状況が分からないんだけど、どういうことだ」
「先輩の頼みなんで気は進まないですけど例のプロジェクト進めてたんですよ」
営業所の誰もが消極的な中唯一彼女だけは前向きに動いてくれていた。
「それは俺も知ってる。協力してくれて助かってるよ」
「それで円城寺さんが俺もアポイントに同席させろってしつこくて……」
そんなことになっていたとは知らなかった。これは釘を刺しておかないといけないな。すぐに円城寺に電話した。
「円城寺か忙しいところすまない。三本松の件だけどサポートはこっちでするよ。手間掛けさせて悪いしな。気持ちだけ受け取っておくよ。気遣いありがとう」
やんわりと断りの気持ちを伝えたのだが、すぐさま反論があった。
「いえいえ、手間だなんてとんでもない。支店長からも私が責任を持って全営業所の成功を支援するようにときつく言われていますので。助力は惜しみませんよ」
そう言われてしまうと非常に断りづらい。
一応善意の上での提案だろうしここは三本松に我慢してもらうしかないか。
「ということで、ちょっと我慢して連れて言ってやってくれ。俺もこの前一緒に来てもらったが変なことは言い出さないと思うぞ。そんな心配しないでいいよ」
「もう先輩も頼りにならないなー、何言いくるめられてるんですか。しっかりしてくださいよ」
俺も板挟みで辛い。それを分かってるのか彼女もそれ以上は何も言ってこなかった。
◇
「もう最悪でしたよ……」
円城寺と三本松の同行日の翌日、俺はどうなったのか気になり彼女に話しかけたところ開口一番このように言われた。若干の心配が的中してしまったか。
「何か問題でもあったのか」
「企画の方は無事成立しましたよ、企画はね……」
少し言いよどんでからさらに話が続いた。
「話の持って行き方が強引だし一方的だしで、院長引いてましたもん。あれ絶対に持ってますよ……ああ、あんな勘違い野郎連れてくんじゃなかった」
その後も彼女から様々な文句が飛び出した。ほとんどが円城寺の人間性に対するものだったが。よっぽど嫌いなんだろう。
◇
その後うちの営業所では支店のプロジェクトに対しては俺と三本松で2企画成立させることができた。
ちょこちょこ途中でミーティングも挟んだが、どこの営業所も似たりよったりの状況であり、かなり無理している様子が見て取れた。
そして各営業所の所長と支店長も入った。報告会が実施された。
プレゼンテーションを行うのは円城寺。結果だけ聞かばかなりいい内容に聞こえる。
現場は大分苦労したが、一般的には上に対するウケはいいだろう。
それに対して支店長は賛辞を贈る。
「いいじゃないですか円城寺さん、非常に成果が期待できる内容ですね」
「ありがとうございます。これもプロジェクトメンバーの皆さんが積極的に営業所をけん引いただいた結果かと考えております」
謙遜しているがさっきのプレゼンでは端々に露骨に”俺がやってやった”感が出ていた。
「リーダーとして責任を果たした円城寺さんの貢献も大きいと思いますよ。まとめ役ご苦労様でした」
会社で出世するために必要なのはこういったしたたかさであるのは間違いないが、負担をかけさせらせる方はたまったもんじゃない。
支店長からの賞賛に気をよくしたのか、円城寺の演説は続いた。
「いかがでしょうか、所長の皆様。来年度以降もこのプロジェクト継続しさらに規模を拡大して行うというのは、当然今日参加されたプロジェクトメンバーの皆様には引き続きご協力をいただく形になりますが」
営業所長の面々を見渡すと、渋々といった雰囲気で同意する様子だった。
うちの谷脇所長だけは、渋面で無言を貫いていた。
俺はいてもたってもいられず挙手をして発言の許可を求めた。
「どうしましたか六本木さん、何か意見でしょうか」
「このプロジェクトの継続と拡大に関しては、成果への影響度を検証が必要かと思います。どうか慎重なご判断を」
すぐ様円城寺がかみついてきた。
「六本木さん、お言葉を返すようですが成果への関連性についてはすでにこのプロジェクト実施前に私がパイロット版として実施した企画で、高確率に成果に結びつくという結果が出ています。今更検証は必要ないでしょう」
俺も言い返す。
「そりゃお前がやった企画はそうだったんだろうよ。実際に展開してみたら人、金、時間、どれもかかりすぎる。他の対策と比べて効率的かどうかは再度検証が必要だろう」
興奮して様子で円城寺は若干声を荒げた。
「会社としての信頼度を上げるためにはこの上ない企画かと思います。コストパフォーマンスの問題じゃないんですよ」
議論は平行線かと思ったところで意外なところから声があがった。谷脇所長だ。
「本当に効果的な対策なら、勝手に現場でやるだろうよ。営業所ごとの判断でいいだろ。何も強制することはない」
それを聞いた円城寺は沈黙してしまった。
「私はいいと思いますけどねえ。全社に先駆けた先進的な取り組みだと思いますよ。まあ谷脇さんのいうことも一理ありますので、それぞれの判断に任せましょうか。積極的な取り組みを期待してますよ」
支店長は若干納得していないような雰囲気だったが、その言葉をもって会議はお開きとなった。
◇
「六本木、漢みせるじゃねえか」
会議が終わったのち所長にそう話しかけられた。助け舟出してくれてありがとうございますと返答したが、少し真剣な面持ちでさらに言葉を投げられた。
「よくやった、と言いたいところだがな。お前もうちょっと立ち回り考えろよ」
「分かってます。ただちょっと我慢できなくて」
「気持ちは分かるがな。俺は評価するが、もっと上の人事評価者がどう思うかは知らんぞ。お前はもっと冷静な奴だと思ってたから意外だった」
たまった鬱憤は少しは晴らせたものの、今後を考えると寒気がしたのであった。
やってしまった……




