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一ノ瀬さんの夢。俺の夢?

 今日は一ノ瀬さんと一緒に少し遅めの昼食を取っていた。

 昼は営業先にいることも多く食事をとる時間は遅くなりがちだ。

 そばをすすりながら、最近の悩み事をちょっと愚痴ってしまった。


「サラリーマンって大変ですよねえ……うちも結構似たようなことありますよ。振り回されるから大変」


「どこも同じようなもんか、それが嫌なら早くやらせる側になりなよってことかな」


 理不尽から脱出したいならさっさと出世するしかない。とはいえ最低でも部門のトップにでもならないと結局はどこまでいっても指示を受ける側に回らないといけないのが結論だろう。


「今のポジションである程度成果出さないと希望の部署にも異動できないですしね、結局は頑張るしかないんですよね」


 与えられた仕事を精一杯やりきった人間にしか将来の選択肢は与えられない。

 仕事内容に対する適性なんてものは二の次、三の次だ。


「一ノ瀬さんは今の会社で将来やりたいことって何かある?」


「うーん……実はCSR部門に興味があるんですよね、ほらうちの会社って発展途上国の子供の支援してるじゃないですか」


 確か一ノ瀬さんの会社は、初等教育が受けられない地域に学校を作るという取り組みを世界中でしていた記憶があった。


「そういえばそうだったね、今はどこの会社もCSRは力入れてるからなあ」


 CSRは企業の社会的責任とも訳される。

 何をやるかは会社によって様々だが、株主なんかにも重要視されていることもあって積極的に取り組んでいる会社がほとんどだ。


「ところでその部門って日本にあるの?」


「それが国内にもあるにはあるんですが、学校づくり関連は本社に行くしかなさそうなんです……」


「一ノ瀬さんは英語はいける?」


「実はお恥ずかしいことにそこまで得意でなくて、時間みつけて勉強してるんですけど、難しいですね」


 きちんと目標を定めてそのために努力する姿に感心してしまった。彼女の人間性は本当に尊敬できる。


「努力してるんだね、偉いなあ」


 褒められて恥ずかしかったのか、いやいやと首を振る彼女。


 応援したい気持ちはある。


 ただもし彼女の夢が叶ったとして俺はどうするんだろう。

 付き合ってもいないうちからそんな妄想をしてもしょうがないのだが、少し考えてしまう自分がいた。


「六本木さんはどうですか、何かやりたい仕事とかあります? 六本木さんだったら選り取りみどりですよね」


 ぼうっとしていたところで質問されたので、考えなしについ返答してしまった。


「特にはないかなあ?」


 言ってから後悔した。もうちょっと向上心のあるやつだと思ってもらえるような前向きな発言をしたほうがよかったか。

 それに対して彼女は微笑みをたたえながら答えた。


「ふふ、六本木さんらしいですね」



 らしいって言われちゃった!


 らしいってどういう事?


 覇気のない六本木さんらしいですねってことかな?


 おかわいいことっていうことかな? かな?


「六本木さんは営業の神様みたいなところあるから今のままでもいいですけど、人に教えるのが上手だから営業教育関係が向いてそうですよね」


 無意識で言ってしまったのだろうか、すぐに、偉そうなこと言ってしまってごめんなさいと慌てた様子を見せる彼女。

 それにしても褒められてしまったので急に気恥ずかしくなって来てしまった。


「俺なんか全然だよ、目の前の仕事をこなすのにいっぱいいっぱいでさ……」


 彼女の前で見栄を張っても仕方がないとも思ったので、ついつい本音を語ってしまった。

 本当のことを言えばそんなに仕事することも好きではない。基本的には人見知りな方ではあるので営業もそんなに向いていないと思っている。


 家事は結構好きなほうなのでもし望まれるのであれば主夫でもいい。

 それくらいこだわりがない。



 俺の一番の夢は一ノ瀬さんとこれからもずっと一緒にいることだよ。


 流石に口には出せないので心の中でだけそう呟いた。


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