仕事納めの日、六本木決心する
今年も最後までばたばたした。本当はもっと早めに仕事にケリをつけて早々に休みに入りたかったところだったが、心配になってしまい結局最終勤務日まで働いてしまった。
会社に戻って事務仕事を片付けていると同僚の木村に声をかけられた。
「六本木ー、今日で仕事納めだな。このあと一杯いくか?」
「そりゃいいな、もうちょっとで終わるから少し待っててくれ」
◇
「んじゃ乾杯、今年もお疲れ」
ビールのグラスをカチンと合わせる。店員さんを呼んで適当につまみを注文した。
「ここ最近は所長からの風あたりが妙に強かったから大変だっただろ」
「まあな、ちょっと思い出したくないわ。おかげさんで飛ばされずにはすみそうだよ」
苦笑しながら話す。すっかり休みモード入っているため特に仕事の話はせず話題はもっぱら正月はどうするのかとかそういう話だ。
「子供もいると正月はお互いの実家まわりで慌しくてあんまり休んだ気はしないよ、独身がうらやましい」
木村は以前勤めていた長野県で出会った女性と結婚してすでに二人の子供がいた。
木村の実家は新潟だからそんなに遠くはないらしいが、結婚すると色々大変そうだ。
奥さんには何回かあったことがあったが結構美人で、ミスなんとかに選ばれたこともあったらしい。
本人は独身な俺を時たまうらやましがったりするが、家庭は円満でこっちの方がうらやましいくらいだ。
「お前あんな美人の奥さんとかわいい子供いて贅沢なこと言うなよ。独り身ってのは想像以上に寂しいもんだぜ」
「まあそりゃそうだが、たまには昔の気分に戻りたくなるんだよ」
そんなものだろうか。結局ないものねだりなのかもしれない。
「それよりお前あの子とはどうだ、少しは進展したか?」
からかうような調子で話す木村。一ノ瀬さんのことを言ってるんだろう。隠すような間柄ではないので、包み隠さず状況を話す。
正直誰かに相談したいという気持ちもあった。
「順調そうじゃないか、早く付き合っちまえよ。結婚も悪くないぞ」
「気が早いよ。それにまだ自信ないしなあ」
「なーに言ってんのかね、このモテ男が。高校生じゃあるまいし、さっさとしないと取られるぞ」
「モテないから心配なんだろうよ」
「お前本当に鈍感なのな……仕事してる時の感性はどこに行ったよ」
失礼なことを言う。これでも人との距離感を読んだり、向こうにどう思われているか正しく判断する能力には自信があるんだぞ。
とは言えやっぱり第三者の意見というのは参考になるものだ。経験豊富な大人に助言を求めるのは近道かもしれない。
「彼女は俺のことどう思ってんのかなあ?」
間髪入れず言葉が返ってくる。
「間違いなく惚れてるね」
そう自信満々に断言する木村。まさか裏でも取れているのだろうか。そういえば木村と一ノ瀬さんとは知らない仲ではないはず。俺の知らないところでそんな話にでもなっているのだろうか。
少し気になったので一ノ瀬さんから俺の話をされたりするのか、尋ねてみる。
「いんや、ただの勘だ。彼女とはたまに話すし、お前の話にもなるが当たり障りのない話ばかりだよ」
期待はしていなかったが、少し落胆してしまった。
木村の勘だけでは心もとない。もう少し確実性を高める根拠が欲しいと思った。
「俺の読みだと、彼女はお前から告白されるのを待ってると思うぞ」
「そうなのか?なぜそう思う」
「六本木は顔に出ないからな、あちらさんも同じように自信が持てないんだろう。彼女あの見た目で案外奥手そうだしな」
自分にとって都合のいい話というのはついつい信じたくなってしまうものだ。藁にもすがるといったところだろうか。
「お前のことだ、次の約束は何かとりつけているんだろう?」
ドキっとしてしまった。木村は理論的では全くないが、妙に勘がいいときがある。あながち一ノ瀬さんに対する予想も間違っていないと思った。
「良く分かるな、実は初詣に一緒に行こうということにはなっているな。お互い実家がそこそこ近いんだ」
「そうか、分かった。お前そこで告白しろ。一年の計は元旦にありだ」
元旦に行くわけではないのだが。しかし大胆な作戦を立ててくる。やはりぬぐい切れない不安があった。
「勝算はある。それを説明してやろう。一つ、彼女はお前のことを異性としてみているかは分からんが、人間としては間違いなく好んでいるだろう」
確かに、冷静に考えてみるとそれは間違いないだろう。
「二つ目、これは結構計算だが、彼女そろそろ30だろう。口では興味ないそぶりをしていてもそろそろ将来のことを考えるときだ。1年の初めならなおさらだな」
やはり既婚者の意見は参考になる。彼女と結婚、想像したことがないといえば嘘になるが、具体的には何も考えたことがなかった。そうだな、タイミングってものがあるな。
「そして三つ、お前が押したら大抵いけるはずだ。自信を持て六本木。お前の勝負強さは知っているぞ」
なんだか、妙に自信が湧き出てきたぞ。不思議なほど行けるイメージしか沸いてこない。
「ありがとう木村、自信が出てきた。早速夜景の綺麗なレストランを予約しておこう」
「ばか、それは減点だ。構えられてしまうだろう。そんな堅苦しいところじゃなくて、昼飯でも食べながら警戒心がないところで行くんだよ。こうかはばつぐんだぞ!」
そういうものなのか。また一つ勉強になった。
決めた。次会った時俺は一ノ瀬さんに告白するぞ!




