後輩ちゃんのクリスマスイブ(前編)
「さんちゃん、ちょっと待ってよ! ごめんない! お会計これで、お釣り後で取りに来ます!」
突然店を出て走っていく彼女を私は慌てて追いかけた。
◇
私は二宮沙織、製薬会社で営業をしている。今日はクリスマスイブ。ただお互い一緒に過ごす異性もいないということで友達の三本松涼香と一緒に夕食を食べていた。
お互い所属している会社は違う。それどころかライバルメーカーという位置づけであって、会社同士の関係は最悪だった。
ただ営業先がバッティングしているわけでもないし、同い年の彼女とは仲が良かった。
土地勘のないところに赴任していることもあって、私の数少ない友人だった。
私は彼女のことをさんちゃんと呼び、彼女は私のことはニノ、と呼ぶ。そんな気の置けない仲だった。
「さんちゃん冬休みはどこかいくんだっけ?」
「カナダ行ってくるよー。オーロラ見られるまでは粘るつもり。ニノはどうするの?」
「私は実家に帰るくらいかなー、お正月は家族で駅伝観戦が恒例なのよ」
さんちゃんは海外旅行が好きで近いところ遠いところ問わず年に何回かは出かけている。私も誘われたりするんだけど、どうにも国外は苦手であまり乗り気にならなかった。それに彼女のチョイスはどこか変わっているのだ。私はどうせ行くならハワイとかヨーロッパとかに行きたい。
そんな話をしていたら窓から映る光景に見知った顔があった。
「あれ、六本木さんだわ。こんなところで何してるのかしら」
六本木さんはさんちゃんの会社の先輩で私とも接点がある。
昔は一方的に敵視していたが、最近はそんなに苦手ではなかった。
ちょうどこの駅前のレストランは駅の改札あたりがよく見えるのだ。
様子を見るに待ち合わせしているような雰囲気だ。
彼女に教えてあげると、目の色を変えて、食い入るようにしてその姿を凝視していた。
本人から直接聞いたわけではないのではっきりとしたことは言えないが、どうやら彼女はあの先輩に対して異性として好意を抱いているようなのだ。
蓼食う虫も好き好きというくらいだ。人の好みに口を出すつもりはないが、はっきり言ってあの男にはさんちゃんはもったいない。
小柄で可愛らしくまるでアイドルのような容姿の彼女にとっては男なんていくらでも選び放題だろう。
「なんか待ち合わせしてるっぽいね。あ、誰か来た。なんかどこかで見たことあるような……」
確か私や六本木さんが行ってる病院で何回か見かけたことがある。美人のお姉さんって感じの人だ。
ふとさんちゃんの反応を見てみると、表情を強張らせわなわなと震えていた。
「ニノ、ごめん私行く。お金また今度渡すから今回はお願い」
そう言って彼女は突然席から立ち上がり、あっという間にお店を出て行ってしまった。
まさか修羅場ってやつ?
◇
なんとか走って追いかけたら、それほどかからずに追いつくことができた。
100mくらい離れたところに六本木さんの姿も見える。さんちゃんは電柱の影に隠れていた。
息を整えながら彼女に声を掛けた。
「ようやく追いついた」
「ニノ。ついてこなくて良かったのに、さっきはごめん」
どうやら修羅場にはならなかったようだ。そりゃ考えてみたら別に浮気とか二股ってわけじゃないもんね……
「あの二人付き合ってたのねー、意外だったわ」
そう言うと彼女は表情を曇らせながらつぶやいた。
「……付き合ってない、と思う」
「そうなの?」
「一応そう言ってた、友達だって。先輩は私には隠し事はしない」
別にわざわざ隠すようなことでもないし、その通りなんだろう。でもただの友達の男女がクリスマスイブ一緒に過ごすかな?さんちゃんの言うことは間違ってはいないだろうが、何か二人の間に最近進展があったのかもしれないと思った。
「これからどうするの?」
「どうしたらいいか分からない。体が勝手に動いちゃった」
「……あの二人が気になるなら、ちょっと尾行してみる?」
我ながら趣味が悪い提案だと思った。ただ彼女にはいい提案だったようで静かにうなづいた。
ちょっと探偵気分で楽しいかも?デザート食べそびれたからその分は取り返さないとね!




