素敵なクリスマスイブ
建物の中に入ると幸いにも他の客の姿はなかった。
今時珍しいフロントがあるタイプだ。受付にいる男性に声をかける
「食事を予約しているものですが」
顔のいたるところにピアスがついた見るからに怪しい男に声をかけたところ勢いよく返事が返ってきた。
「一ノ瀬様すか?準備はできていますよ。部屋代だけ先におねシャス」
部屋代はしっかり取るのか……いくらか尋ねると金額の回答があった。
「ご休憩は30ゴールドすね」
ゴールドってなんだよ!円じゃないのかよ。なんだこのホテルは。
申し訳ないが円しか持ち合わせがないことを伝えたところ、円だと3000円になるらしい。先にそう言え。
「いやー、僕、昨夜はお楽しみでしたね、って言うのだけが楽しみでこの仕事やってんすよ。雰囲気って大切じゃないすか。食事は後で部屋持って行きますんで、飲み物でも選んで待っとってください」
◇
部屋は結構広くちょうど二人で食事をとれる程度の大きさのテーブルがあった。
「いやー、ラブホテルって初めて来ましたけど普通のホテルとあんまり変わらないんですね。テレビめちゃくちゃでかい!」
感動しているのか、珍しそうにきょろきょろと部屋を見渡す彼女。
「勢いで入っちゃったけど、本当に良かったの?」
頬を少し赤らめる一ノ瀬さん。こういう姿もかわいいんだよなあ。
「と、友達同士でもホテル代わりに使ったりするって聞きましたよ」
慌てて弁解する彼女。普段の生活圏から離れているので知り合いに見られる可能性も少ないことには少し安心した。
お互いテーブルに腰を下ろすと、メニューリストが置かれていた。
パラパラと眺める。
「えーと、今日は食事は任せてあるんだっけ?」
食事を予約してあるといっていたくらいだから決まっているのだろうが。念のため確認しておく。メニュー表はなかなか本格的なラインナップだった。
……ラブホテルだということを忘れそうになるくらいには。
「フルコースでお願いしてますよ!」
こんなところで出てくるフルコースに対し、期待1割不安9割くらいで不安が勝ったがもう後戻りは出来ないので覚悟を決める。
「そっかあ、なんか料理に比べて飲み物は適当だなあ。全部本日のおススメとしか書いてない」
あれこれ考えていると部屋の電話が鳴った。取ると先ほどの男性の声だった。
「食事準備できたんでもってってもいいっすかー?あ、酒のみます?適当に料理に合うやつもってきましょか」
こいつマジで適当に持ってきそうだなと思ったが、もう考えることは放棄した。任せると伝えて電話を切る。
「料理来るってさ、なんか適当に料理に合うお酒持ってきてくれるらしい」
「ソムリエが選ぶワインは料理とのマリアージュが至高、と食べ○グには書いてありましたよ」
絶対嘘だ。悪質過ぎるだろ。
ほどなくして部屋のインターフォンが押され、扉を開けると料理が運び込まれてきた。まるでテレビの中でしか見たことがないが、高級ホテルのルームサービスのようだった。
「前菜っすー。あ、食器全部おいちゃいますね」
手際よくナイフやフォークが並べられる。発言はチャラいが所作は洗練されていてシャンパンをサーブする姿などソムリエと勘違いされてもいたしかたないかもしれない。
「シャンパンはこれっすー。この黄色いやつうめーすよね、残りはオーナーとこの後のみますわー」
ラベルを見せてくれるが、なんか見覚えがあるような……結構いいやつだったような記憶がある。
「あ、これ私すきなやつですー」
一ノ瀬さんが反応してくれた。どうやら有名な銘柄らしい。
「お客さん目が高いっすねー。まあ自分オーナーに言われたやつ持ってきてるだけなんで、良く分からないんですけどね!」
自信満々に答えるな。少し見直した自分を叱ってやりたい。
「んじゃごゆっくりー、また終わったら次持って来るんで呼んでくださいー」
そう言って部屋を退出する。料理には驚かされた。普通にしっかりしている。
「食べ○グ4点台は伊達じゃなかったですねー、すごい!」
そういってスマホで写真をとる彼女。気持ちは分かる。
疑ってすまなかった、ここは立派なレストランだよ。




