波乱のクリスマスイブ
「仕事終わり次第○×駅に集合でお願いします!」
今日はクリスマスイブ、世間は浮かれに浮かれきった様相を呈しているが、そんな日でも仕事はやってくる。夜は一ノ瀬さんとイルミネーションを見に行く予定にしていたが、忙しかったのであまり詳細を打ち合わせしていなかった。恋人でもないしこんなものだろうとは思っていたが、さすがにそろそろ連絡しようと思っていたところで彼女からこのようなメールがあった。
「了解、7時くらいにはつけると思うけど」
そう返信すると、彼女から時間はそれで問題ないと返ってきた。○×駅の周りにそんなところあったかな、とも思ったがどうやら穴場を見つけたということなので特に下調べはせず楽しみにしておこう。
◇
一応の集合時間に駅前に到着するとほどなく一ノ瀬さんも駅の改札を降りてきた。元気そうに手を振る彼女。彼女の姿を見ると年末の疲れも忘れたような気持ちになる。
「お待たせしました!」
元気にそう話す彼女。少し歩くんですけど、と断る彼女に大丈夫だよと答えて二人で目的の場所に向かって歩き始めた。
「確かこのあたりだったはずなんですけど……」
彼女も初めて訪れる場所なのか、少し探しながらになってしまったが、少しすると一際煌びやかにライトアップされた通りを見つけることが出来た。
「ここですよ!ここ!穴場らしいですよー」
はしゃぐ彼女。確かに通りに面したビル全てに装飾が施されており、通りに面した街路樹もライトアップされている。これは確かにすごい。
綺麗なことは綺麗だ。うん……
ただこれ、ラブホ街だよね!?
「きれいですねー」
全く気づいていない様子の彼女。知らない方が幸せなことってあるよね。そのことには触れずに会話を合わせるが非常に恥ずかしい。意識しすぎだろうか。
「この通りの突き当たりにあるビルの最上階から見る夜景が格別らしいですよ!」
こちらの心配をよそに、どんどんと突き進む彼女。
そのビルって一体……嫌な予感しかしない。
「ここです!」
自信満々に指差す彼女。そこにはこれまでの建物と比べても圧倒的にLEDによる電飾が施されていた。明るすぎてよく見えないが、しっかり看板にはSTAY、RESTと書かれている。
間違いであって欲しかったが、れっきとしたラブホテルであった。
「予約してありますんで!」
マジか……もうこれ誤魔化しきれないよな。恐る恐る尋ねてみる。
「予約まで……一ノ瀬さん一応聞くけどここ何の店?」
一瞬きょとんとした表情を見せる彼女。だがすぐ気を取り直したようではっきりと答えた
「え、レストランですよね?」
んなわけあるかいっ!心の中で激しく突っ込みを入れた。
「いやいや、これレストランじゃないでしょ」
気づいてくれ。
「もうー、六本木さん、疲れてるんじゃないですか?どうみてもレストランじゃないですか。私しっかり食べ○グから予約しましたんで間違いないですよ!」
うん、君は間違っていない。間違っているのはこんなところを食べ○グに登録したやつだ。
大罪人と言ってもいいだろう。
ここは彼女に真実を教えるため俺は心を鬼にしないといけないだろう。
例え今日という日が気まずい一日で終わったとしても、だ。
俺は意を決し彼女に真実を告げる
「一ノ瀬さん君は間違っていないと思う。でもそれは多分誰かの悪戯だと思う。だってここはいわゆるラブホテルってやつだと思うよ」
「え?」
みるみるうちに赤面する彼女。よかった一応ラブホテルという言葉の意味は知っていたようだ。
もし知らなかったら、俺はその意味を解説するために更なる苦しみを味合わなければいけなかっただろう。想像するだけでぞっとする。
「……でもディナーの予約は出来たんです」
なんでもありだな。さすがイルミネーションラブホ街のラスボス。これは手ごわい
「良く考えてみると予約の時に、お泊りか休憩か聞かれた気がします……意味がわからなったんですが休憩は3時間だって言うからてっきり食事時間かと思ってしまいました」
意気消沈した様子の彼女。このままでいいのか六本木和也。せっかく色々調べて準備をしてくれた彼女の気持ちを無駄にしてはいけないだろう。
「えーと……せっかく来たし食事も予約してもらったみたいだし。一応覗いてみる?もちろんやましい気持ちはないから」
自分で言っていてセクハラ紛いな発言だとは分かっている。通報されても構わない。
少しでも彼女に喜んでもらえる可能性があるなら俺は喜んで犯罪者にでもなろう。
「いいんですか!?あ……でも」
何かその後に言葉がかすかに聞こえたような気がしたが、ほとんど聞き取れなかった。
俺は突然難聴になる主人公なんかではけっしてないので本当に聞こえなかった。
幸いなことに拒絶されるようなことはなかったが、さすがに恥ずかしいのか先を歩くようには促された。
なお、やましい気持ちはしっかりある事はここに記しておこう。




