決着
「先生、相談があります」
思いついたら即実行だ。かなり不確定要素は多いものの何とか出来るとは思った。
俺の提案内容に対し循環器内科部長は、条件付ではあるものの準備が整ったらまた言ってくれという反応で、前向きな返事をもらうことが出来た。
時間が限られているのでそれからはもう必死だ。実際ははそれまでと仕事量は変わっていなかっただろう。
ただゴールが見えているだけに気持ちにはかなり余裕があった。
毎晩クタクタで家に帰って泥のように眠ったが、朝になると活力は充分で、やる気には満ち溢れていた。
◇
クリスマスを直前に控えた週末のある日、溜めに溜めた事務処理のために会社に出社すると、所長に声をかけられた。
「六本木、もう今年も終わるぞ!どうだ進捗は」
鼻息も荒く話す。俺はそれに対して淡々と答えた。
「なんとか年度内にはいける見込は立ちました。もうひとふん張りしたらゆっくり正月を迎えられそうですよ」
いい絵が描けたみたいじゃないか、聞かせてみろというのでこれまでの状況と今後の見通しを端的に説明した。
「やっぱりな、全然現実的だったじゃねえか」
満足そうな表情を浮かべる所長。実に憎たらしい。
今回の作戦の流れはこうだ。
まず目標にしたのは採用されているジェネリック医薬品を3品目から1品目に整理してもらうことだ。
今までシェアで上を行く競合品のことしか頭になかったが、ジェネリックは半額以下なので金額はそうでなくても量は結構でている。
ただ整理された2品目が自動的に残ったジェネリックに変更されるかというとそうでもなく、削除後はいちいち処方の度に削除品ということで変更指示を出さないといけない。
基本的に何に置き換えるかは使うドクター次第なので誘導することはできない。うちの方に変えてもらえるかは運任せになる。
……普通だったら。
今回は削除する2製品と、残す1製品に小細工をさせてもらった。
飲み薬はメーカーの言い分としては色々効果が違うといいたいところだろうけど、使う側にとって見たら、”どうやって体から消えていくか”ということは結構重要視されている、と思っている。
うちの製品は胆汁で排泄される、要するに便の中に混じって抜けていくわけだ。一方競合品は腎臓から、尿として排泄される。ジェネリックも基本的にはこの二種類のどちらかだ。
今回は同じ胆汁排泄の2種類のジェネリックを削除してもらった。
薬剤部に協力してもらって降圧剤の処方数が多い診療科は教えてもらった。
さすがに全科は無理だったが主要な内科系診療科には全て説明会もしたし、ジェネリックを削除するに当たっての根回しも充分行えた。
年明けの薬事委員会ではまずジェネリックの削除は通る。そして削除後のケアも充分準備してある、年始早々のアポイントはかなりの量取ってある。
◇
「あんた、やってくれたわね」
二宮だ。こいつ前の一件以来完全に敬語使わなくなったな。そのかわり睨まれなくはなったけど。
そうそう、競合品の降圧剤はこの子の会社の製品だった。
「なんのことだろ」
「とぼけないでよ、魂胆はわかってるんだから」
人の口に戸は立てられないものでいつかはバレるとは思ったが思ったよりは早かったようだ。
ただもう取り返しがつかないところまでは進んでるので多少抵抗されても焼け石に水ではあるはずだが。
「まあ別に文句言うつもりはないわ、むしろお礼言いたいくらい。別に売り上げ落ちる訳じゃないしね。せいぜいおこぼれもらっとくわ」
この機に乗じて売上を伸ばそうとはなかなか強かなだ。若い子にしちゃセンスいいよな。
「降圧剤なんて正直ほぼ終わってる品目だから会社もシェアとかとやかくいってこないし、私は総売上が増えてハッピーってわけ」
うちとは考え方が違うということか。今回はそれに助けられたな。流石に同じ温度感でやられたらここまでスムーズには事は運ばなかっただろう。
……個人的にはこの領域だけはあんたに勝ってたからちょっと悔しいんだけどね。
よく聞こえなかったが二宮は最後何か呟いてたように聞こえた。
何はともあれ一件落着、もうすぐクリスマスだ。心残りなく楽しめそうだ。
◇
一方その頃上司陣。
「所長今回の六本木には厳しく当たりすぎたんじゃないか。あんまりやりすぎるといつか訴えられますよ」
「馬鹿言ってんじゃねえ、相手は選んでるつもりだ。つーか鈴木お前甘すぎんだよ。出来るやつにはちゃんとやらせとけよ。手ぇ抜いてんの見落としてんじゃねえ」
「充分やってる方だと思ってましたよ。たしかに甘かったかもしれませんね」
「まあとにかく今回の賭けは俺の勝ちだな!奢れよ!鈴木」
豪快な笑い声が響いた。




