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仮想の現実は無法地帯  作者: 雪斎拓馬
仮想の現実は無法地帯 上
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第四話 「残酷なる猫は夢見る」 3


    3


 見られていると初めて感じたのは学校の中である。

 蔵里英司がかのんを襲う日の昼食前、夜神は背後から視線を感じた。当時は疲れていた為、その所為にしていたが、彼はそれから何度も視線を感じていた。しかし振り返っても何もない。

 学校外でも、仮想世界の中でも、まるで監視されているかの如く、視線を強く感じた。誰かいるのかと叫んでも反応はない。まさか運営ではないのかと彼は少し不安に思ったが、自分はまだ現実世界で罪を犯していないと撤回した。運営でなければ、譲のような、俺の命を狙う者だろうか。それとも、仮想世界でも追いかけ回すような異常なストーカーだろうか。俺をストーキングするそんな物好きなどいないか。

 良一は根本的に馬鹿なため、視線を感じた様子は見られなかった。それほど俺は疲れているのか、と彼は溜息を何度もついた。これが錯覚ならばそれ以下も以上もないのだが。視線は彼を苦しませた。

 最近の出来事から、まさかゴーストの誰かが俺を見張っているのではないか、とも考えたが、可能性としてはないわけでもなく、しかし馬鹿馬鹿しく、どっち付かずで更に血行を悪くした。

 一層のこと、スーシェのようにストレスを爆発できればいいのだが。

 結局、自分を見ていた者が誰だったのか、わからないまま現在へ至る。


 彼の知らないところでも事件は進む。

 それは自然なことであり、りんごから木が落ちた時、地球の裏側にいる人間がその一瞬を知らないのと同じようなものだ。知らない間に、自分の知らない場所で何かが起こる。彼の知らないところで、彼の知っている事件が、知らぬまま進む。

 彼も馬鹿ではない、それくらいは理解しているだろう。しかし、無知だった。自分が無知で無力な存在だと思い知った。

 いつしか前に座る女性に叱られた時の言葉を思い出した。

 ――知らないは罪だ、それを言い訳にするな!

 ヨルは高速で走行する車の中、橘から頂戴したゴーストの事件一覧を見た。自身ではかなり大きく見積もっていたつもりだったが、その組織の規模を一目、自分は無知であると、自分に失望した。

 自分がまだこの世界に亡命する前から存在していた組織。それまで起こした事件は表沙汰になるものもあれば、どこを探しても見つからないような裏のものまであった。その内に馴染み深い項目も多くある。

 例えば、自分を超能力者へと変えた、リバティーゲートとの戦争。あれもゴーストが原因だった。拍車をかけたのは戦争をしている側だったが、きっかけはどうやらゴーストのようだ。

 他にも、霊猫を超能力者にしたリバティーゲート内抗争も、元を辿ればゴースト。

 信じられない、いや信じたくない。彼はそう思った。まるで自分が関わってきた全ての不幸が、一つの敵組織に収着するが如き展開に、彼は吐き気を覚えた。

 自分の不幸は奴らに作られたもので、自分が経験した全てが奴らの思惑通り。思い込みも激しいところ、疑心暗鬼と言ったところか、しかし彼は信じたくなかった。揺れる車の中、実体のないスクリーンを凝視する。

「ゲートをくぐるぞ、アフガンゲートだ!」

 女性らしさのない口調で言うリナの声で、彼は我に返った。彼女の前にはヒビヤが転送したのだろう、マップデータが映し出されていた。急に現実に戻った為か、ヨルは今自分が見ている世界が、現実と虚構の入り混じった幻想的空間に感じた。非物理的なデータはSF映画を想起させる。

 ヨルは情報班であるヒビヤ達に資料を送った。

 ゲートをくぐると、視界が一瞬だけ暗転し、光を取り戻すとやがて緑と連なった高い山々が映り込んだ。

「ヨル、大丈夫?」

 霊猫が彼を心配して言った。彼としては寧ろ君が大丈夫かと言いたげに笑い、曖昧に返答した。いつもわざとクールを装う彼であるが、今やそれを失ってしまった。笑顔はぎこちない。思い悩んでいることが露骨に顔に出た。

「無理しないでいいよ、まだ悩んでいるのでしょう?」

 その通りだった。霊猫に自分の過去を打ち明けてからずっとこの調子である。未だ自分の中で踏ん切りがついていない。

「……ああ、すまない。まだ答えが出てないんだ」

 俺はまだ、恋人が死んだという事実をどう認識するべきなのか、わからないのだ。



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