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仮想の現実は無法地帯  作者: 雪斎拓馬
仮想の現実は無法地帯 上
33/55

第四話 「残酷なる猫は夢見る」 1


  その姿は宛ら、影を纏った英雄のようであった。


    1


 街には死角がある。

 それを知る者は少なく、あるいは死角に入った者を探すことは困難である。人に限った話ではない。物事、つまり非物理的なものでも死角に入ることは可能だ。

 皆が忘れているのだ、あの数々の事件を。この世界を崩しかねない、あの大事件を。一度は耳に入り、その後何の違和感もなく消えていく。

 しかしここに一人、皆の記憶から消えた世界を揺るがす大事件を追い続けている男がいる。

 男はデスクの上に並んだ書類を一瞥し、溜息をつく。これと何かしらの関係があるはずだ。あの大事件から三年、思えばまだまだ事件はあったが、彼が最も印象付けられたのはそれだった。

 書類を書くことは正直好きではない。彼は情報屋という役職上、書類を書かなければいけないこともあり、苦手ではなかった。その為か、興味を持った大事件については珍しく望んで書類に情報を書き入れることもあった。

 彼はこの世界の初めを知らない。しかし始まりを知っている。六年という歴史を持つこの世界はかつてオリジンゲートから始まった。まだ犯罪者の少なかった頃だ。恐らく現実世界での犯罪者はいただろうが、仮想世界の中で戦争などまずなかった。

 戦争経験のある彼はその世界をどう思っただろうか。戦争、と一括りにしても、第二次大戦後の内戦、紛争だったり、大規模な世界大戦とは対して小規模なものだが。

 この世界において「物作り」は自由だ。可能な物は何でも作れる。銃を作っても兵器を作っても、煙草でも麻薬でも好きな物を作って利用していた。製品はログアウトと同時にデータへ保存され、メニューにていつでも取り出すことができる。物質具現化のように、そこへ製品が現れるのだ。

 三年前。あの大事件は特殊だった。

 確かに銃などを作れる人間がいること自体凄いのかもしれないが、モデルガンやエアガンなどのおもちゃが現実世界にはある。作り方を知っていてもおかしくない人間もいる。しかし、麻薬は材料があればともかく「核爆弾」の作り方を知っている者などまずいない。それに、材料がない。

 表では簡単に核爆弾による攻撃とされたが、どう考えてもありえないのだ。ウランと中性子の衝突により起こる分裂と衝突の無限。仕組みはわかっていても、実際に作れるはずもない。そもそも材料がない時点で不可能なのだ。

 彼はその謎を知っている。

 謎は無数の疑念や疑心暗鬼、偏見などから別の解釈へ変わることがある。彼はその大事件の内容と真実、あり方の考えを変えた。

 現在から約三年前、クリアゲートという、オリジンゲートの西の街が核爆弾によって焼き払われた。農場、牧場を連想させる、ヨーロッパの田舎のような街が全て、何一つ残らないと言っても過言ではない程に、焼き尽くされた。

 当時は街に名前がなかった。各街のことを「  ゲート」と呼び始めた時、その街は事件が取り上げられ、核を意味するニュークリアからつけられた。

 何の為に起こったかすらわからない不可解な大事件。一体どれほどの人数が死んだだろうか。トワイライトゲートがまだなかった時代だ。この世界はここ一、二年で急発展した。三年前まではオリジンゲートとその周りしかなかったが、運営が力を入れだしたのかやがて街が作られ、とうとう東西南北で表すことができなくなってしまった多数の街に、プレイヤー達が名前を付け始めた。

 彼はまるでゲームマスターかのように、この世界の始まりから現在までを見守ってきた。実戦経験がありながらやや傍観主義の彼は、自分が何者か、まさかゲームマスターだったという落ちにはならないだろうな、と思うこともあり、自分がこの世界の虜にされている自覚はあった。

 その中に調査が含まれる。彼は今まで数々の大事件を調べていた。彼は大事件には()()()がいる、と仮定した。誰かが組織をつくり、指示しているに違いない。

 彼は机の上の書類を一枚取った。

 いや、違うかもしれぬ、と彼は心の中で呟く。情報が少なすぎる、しかしこれで長きに渡る私の調査もこれで決着だ。

 彼は情報屋の女に情報を売っていた。超能力者ランク第一位と第三位が衝突したあの日だ、敵の動きを確認した彼は腹をくくって告げたのだ。私の持つ情報を一つにまとめるならば、これにしかならないだろう。

 まだ新しい書類には簡潔にこう記されていた。


〝ゴーストリーダー 熱海正一〟


 情報屋という逸材は侮れない。

 その名をどこから特定したのかわからないのだ。




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