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仮想の現実は無法地帯  作者: 雪斎拓馬
仮想の現実は無法地帯 上
26/55

第三話 「過去の遺志は受け継がれず」 7 *PAST 3


    7    ――PAST 3


 目が覚めても仮想世界だった。

 俺は自分が焼き尽くされて死んだのを鮮明に覚えていた。意識が吹っ飛ぶそれまでの記憶がある。だが、俺は死んだ後覚醒しても現実世界に戻ることがなかった。目が覚めても仮想世界だ。

 街が元通りに戻っている。つまり俺が死んだ日の翌日あるいは数日後だと言える。しかしどうだろう、俺は現実世界で過ごした記憶が全くない。俺なら確実にこの世界を辞めていた。確実にログインしなくなっていたはずだ。

 何が起きたのか全くわからなかった。

 未だ戦争は続いていた。人間の怒りと悲しみによって引き金が引かれ、戦争はより過激になる。強弓がトワイライトゲートを思う存分破壊しない限り戦争は終わらないのだ。何せ、トワイライトの悪人共が降参するなど以ての外だからだ。逆に悪党はこの戦争を一つのストレスの行き場として捉えているのか、好んでリバティーゲートの人間を殺し続けている。

 実を言うと戦争二日目にしてトワイライトの悪党はリバティーゲートへと侵略していた。

 俺に何があったかはわからないが、戦争はどうやら続いているようだ。

 少し気になることがあった。俺が死んでから目覚める前までだ。俺は誰かと話していたような気がしてならなかった。

 今考えれば、その()()が俺に超能力を与えたのだと思う。新星である霊猫も、死んでから俺達に拾われる前までは現実世界へ戻れなかったらしい。そして、大きな鐘の音が鳴ってから覚醒するまでに誰かと話したような気がすると言っていた。

 超能力者は少ない。いまや人気オンラインゲームに匹敵するものとなってしまったこの無法地帯、その中で超能力者は十数名あるいは十名。自惚れるが、そいつらは選ばれたのかもしれない。その「誰か」に。

 無論、当時の俺はそこまで頭が回るわけもなかった。

 俺は直感的に超能力を知った。最初はこれが何かもわからなかったが、日本語に照らし合わせるなら超能力と呼ばれる『異能』を手にしていた。

 気付けば今まで使ったことのなかった場所の力を使い、以上に速く走っていた。百メートル五秒あたり。跳躍をしても、今まで使ったことのなかった力によって三メートルは軽く跳んでいた。

 例えば四肢、つまり腕脚で四本しかないそれを、昆虫や蜘蛛のように増やした時、さらにその増えた脚の使い方を知っている時のようなものだ。今までなかった脚を使っているような気分。あるいは翼が生え、飛んでいるような気分。

 やがて超能力によって成せることがわかった。エネルギーだ。漫画や異能系ライトノベルのような話だが、俺はエネルギーを操作できる。

 それは走る時に超能力によって逆のエネルギーを想像すると、体は前へ進んでいるが肉体そのものは後ろに跳んで行ったことから証明できる。他に上へ投げた石を手の平で押し返すような感じで、つまり跳ね返りの力を更に強めてやると、石はまるで銃弾のように飛んで行った。

 俺は『動力操作』という超能力を手に入れたのだ。

 実感はなかった。不安も期待もなかった。もしこの無法地帯に閉じ込められたのならば、俺はここでのうのうと暮らそうとも考えていた。俺は臆病だから、自分の身に危険がありそうなら俺はこの超能力を使って生き延びようと考えていた。

 俺は死ぬのが怖くて街をひたすら逃げ回った。シェイクゲートはリバティーゲートの反対側だ。俺は元いたシェイクゲートへ一目散に逃げた。

 その内俺は二人の敵を殺していた。俺は一度として銃を握っていないが。俺に向かって撃たれた敵の銃弾は、俺に触れると跳ね返り、自分自身へと返っていった。宛ら反射。あの時、戦った女性の銃弾が頭を貫かったのはその為だ。

 怖かった。俺は人を殺したのだ。幸い殺した人間は二人とも男だったが、もし女性だったら、と怯えた。もう御免だから急いで走った。

 しかしシェイクゲート付近は激戦区だった。路上では弾丸が飛び交う。現実世界ではまずあり得ない状況だった。やはり敵を逃がすわけもないか。俺は逃げ回った。とうとう行く当てもなく、ひたすら隠れてやりすごした。

「君、時間あるかな」

 建物の中で突然背後から声がした。俺ははっと驚き思わず銃を取りこぼした。

「そう慌てるな。私は君達の敵ではない。トワイライトの人間だ」

 そこには大学生程の女性が立っていた。

 その女性の第一印象は〝薄気味悪い奴〟だった。鋭い眼つき、不気味な笑顔、黒い長髪、何か企んでいそうな表情。ホラーとかそういうわけではなく、単純に、あるいは生理的に俺はその女性が怖かった。

「く……来るな!」

 俺は叫んだ。初対面の女性へ大声で。もしかしたら外の敵に聞こえたのかもしれないが、そんな懸念も無視して叫んだ。

「言っているだろう? 私は君の敵ではない」

「違う! 俺に近づいたら、おまえが死ぬかもしれないんだ!」

 俺は自分でも何を言っているのか一瞬わからなかった。頭が狂っていたのだ。年上の女性におまえ口調で叫んでやったが、よくよく考えてみれば俺は自分の能力を制御しきれていたわけではないので、近づけばもしかしたら殺してしまうかもしれないと考えたのだろう。

 俺の警告を無視して女性は逆に近寄ってきた。

「そう怖がらないでくれ。私にも心はある」

 違う、そうじゃないんだ、と俺は心の中で言い訳をする。

 女性は俺の横に座って、後ろにあるガラスのない窓から外の道を見下ろして言った。

「君は今何をしたいと思っているのかな」

「……何を急に」

「ああ、自己紹介が忘れていたね。これだから私には仲間が……、いや私からなろうとした仲間が、できたいのだな。私はリナだ。現実世界での本名もリナだが、苗字はなるべく使わないようにしている」

 そうでないと、違う名前で呼ばれても気付かないからな、と彼女は続けた。一体、何なのだこいつはと俺は素直に思っていた。

「君の名前は何かな」

 唐突に質問をされた。俺は今まで通りの名前を教えた。

「ヨルだ。本名から抜き取った」

 見知らぬ人間といるのが馬鹿馬鹿しくなって、呆れて、怖くなって、気まずくなったから、俺は建物を出ようと立った。

「ちょっと待ってくれ、ヨル」

「何だよ……俺はおまえを知らない。おまえは見知らぬ人間に話しかけるのが怖くないのか?」

「愚問だな。さっき言ったように私も人間だ。だけど、君は仲間だと思っている。少なくとも同じトワイライトの人間同士だ」

 謎だった。このリナという女性は何がしたくて俺に話しかけたのだろうか。リナは不気味に微笑んでいた。

「おまえはこの街の悪党か? 悪いが俺はただの旅人だ」

「…………」

 彼女は沈黙し、目を細めて、より一層不気味に微笑んだ。

「君は行く当てがあるのかい? その様子だとこの戦争から逃げたいようだが、どうしてここにログインするのかな」

 こいつ、嫌なところをついてくる。俺はまさか自分が超能力者であるとも言えず、それにログアウトができなかったとも言えず、黙ることにした。彼女の質問への回答はあるのだが、言えるわけもなかった。

「だんまり」

 彼女はふふと笑った。

「行く当てはないようだね。私は今仲間を探している。どう、力を貸してくれないか」

 リナは初対面の俺に仲間の勧誘をした。外で銃声が雨音のように鳴り響いている。俺は深く考え込んだ結果、「嫌だ」と断った。

「どうしてかな。理由を聞かせてくれるかしら」

「おまえと俺は初対面だし、まだおまえが何をしようとしているのか聞いていない。子供の頃に教わらなかったか? 怪しい大人に付いて行く()()()()

「付いて行くべからずなんて言葉は教わらなかったわ」

 噛んだ。ともかく俺は丁重に断った。

「そう、ならデータのアドレスくらいは交換してくれるかな。ここにきて半年くらいはやっているけれど、この戦争が始まる少し前くらいまで傍観主義でね、仲間がいないのよ。友人になってくれると助かるな」

 どうやらこいつの中では友人より仲間の方が大切らしい。狂った価値観だ。俺はまだ一人も登録していないデータのフレンドにリナを登録した。

 だが、俺はすぐにこいつとも縁を切るつもりだった。女性とフレンド登録をしたとか言って喜ぶ大馬鹿者ではないと、自分自身思っている。何も嬉しくない。勘違いも甚だしいところだ、俺は女が()()()だ。

 俺はリナと別れると、建物からすぐに離れ、シェイクゲートへどうにか亡命できないか考えた。試行錯誤をしていたが、超能力を使って力任せに突っ込んで行く他なかった。だが、俺は自ら銃弾の雨に突っ込んで行くこともできず、しゃがみこんでいた。

 そして大きな鐘の音が街に響いた。無法地帯の終わりだ。

 これで俺が現実世界にて目を覚まさなかったら、と俺は考えた。

 名もわからない世界だ。閉じ込められても保証は効かぬ。

 俺は視界が暗転する感覚を心身に刻み込んだ。



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