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仮想の現実は無法地帯  作者: 雪斎拓馬
仮想の現実は無法地帯 上
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第三話 「過去の遺志は受け継がれず」 6


    6


 ヨルは必死になって考えた。考える時間はなかったが、それを承知の上で脳を回転させた。

 何故俺が狙われる? 俺の第一位を奪うため?

 人を拉致しても成し遂げなければならない目標など本当に存在するのか。彼はよく橘に「自惚れるな」と言われる。自分が最強の座を利用して脅しをしているのも否めず、超能力に全てを委ねていた。俺は臆病だ。そう自覚している。何か都合の悪い展開になれば超能力で捻じ伏せればいい。

 そうやって何かに頼っていたから罰が当たったのだ。こうして行き詰っている。ゴールの見えない迷路は壁を破壊しても脱出できない。俺は何故狙われる。リナを攻撃する必要があったのか。何故霊猫を攫った。何がしたい、俺には何も見えぬ。単に俺の第一位の座が欲しかった? それだけで組織を立てて俺達便利屋を襲撃したのか? 何もわからない。おまえらの目的が理解できない。

 他に別の目的があって、俺への挑発もその一環だと言うのか?

 譲が俺の第一位の座を欲しているのなら、そして譲がゴーストのリーダーなら、組織を作る必要などなかった。奴はアーキアと交戦し勝利したという。霊猫の情報が渡っているなら当然俺との交戦もそれに含まれているだろう。ならば俺が交戦を承諾する人間だと知っているはずだ。

 いや違う、俺が馬鹿だった――とヨルは撤回した。そうだ、ならば俺と戦う為にあの時と同じ状況、霊猫が追いかけられている状況に近づけようとしているのだろう。

 彼の考えは、譲が座を奪おうとしていることを前提にしたものと変わっていった。

 他に目的はないのだろうか、と考えるも何も浮かばなかった。彼はゴーストの行動理由を考えるのと同時、頭の隅には常に霊猫のことが浮かび上がっていた。霊猫は無事だろうか、何か暴力を振るわれていないだろうか。

 もう御免だ。女が死ぬのはもう嫌だ。リナを助けられなかった俺は罪深き悪人だ。裏切り者だ。リナに向かう自分の忠誠心を俺は自ら裏切ったのだ。そんな俺を彼女は「信じる」と言った。だから俺は大罪に見合う報いをしなければならない。

 なんとしても霊猫を助けなければならない。

 正体不明の組織のリーダーが譲ならば、今日の内に決着がつくと彼は考えていた。状況的に蔵里英司はゴーストと何らかの関わりがあったと考えられる。でなければやはり本名など知りえないのだ。『幻想』使いの第五位が人の記憶を詮索できるようになっていれば、そいつと関わっていない限り、人の本名など知りようがない。

 蔵里英司が利用されたと仮定するなら、何のメリットがある。譲に何らかの情報を渡したのか? 英司は猟奇殺人鬼だった。殺人鬼としての標的としてリナを追いかけていたのかもしれないが、それで十分譲に渡せる程の情報を持っていることになる。

 では何を渡した、どんな情報だ。行動パターンか? それとも単なる情報か?

 用心棒や偵察人として英司を送り込んだのだろう。譲はそこまでして何がしたかった。考えすぎだろうか、と彼は思う。だが、英司がゴーストと関わりがある可能性は俺としては高い。何故なら、英司をつけていた、つまり英司をよく見ていた橘のとっつぁんとは逆に俺は状況的証拠を元に考えることができる。どう考えても英司はゴーストと関わっている。

 でも何故だろう、譲は何故リナを直々に倒した。あいつ自身が行かなくともよかっただろう。確かにリナは『イレギュラー』だが異常に強いわけではない。そして譲が霊猫を攫った。どちらかを部下に任せればよかったのではないか。

 ヨルは必死に考えた。だが迷路はクリアできない。考えれば考えるほど深みにはまっていくのだ。

 ゴーストとは一体何なのだ。それがわからない限り、鍵のかかった部屋に閉じ込められたが如く、答えを導き出すことができない。誰がリーダーだ。何が目的だ。どこに存在している。勢力はどれ程だ。

 謎でしかない。考えることができないほど暗闇だった。

 ヨルはふとデータを開いた。何か記事になってはいないだろうか。仮想スクリーンで現れたそれに大きく表示された記事に彼は驚き、顔をしかめた。

「なんだ……これは。あいつは何が目的なんだ!」

 一人上空で怒鳴った。何が目的だ、何をしたいのだ。

 データには『第一位への挑戦状』という題名の記事が映し出されている。リアルタイムの動画が張り付けられている。そこには大勢の人間を背景に、譲が映っている。

〈まだ来ないかな、そろそろだと俺は思うのだけど。ひょっとすると逃げたのかもしれない、俺の不戦勝かな? あの第一位は大切な少女を攫われても臆病なのかな? おまえが見ているかは知らないけれど、この動画は同時に証拠だ〉

 何だ、これは。攫う? これは無法地帯の住人が全員視聴可能の記事だぞ。

〈おまえがここで俺の挑発に乗らず逃げたのなら、おまえが臆病で最低な人間だと世に知り渡って、同時に俺が第一位になったことを証明する〉

 何を言っているのだ、こいつは。ヨルは徐々に怒りを覚えた。

〈ほらみんな、あいつの名前を呼んでやってよ。卑怯者の()()を、盛大な罵声と共に叫んでやるんだ〉

 俺の名前を躊躇わず公開した? マナー違反にも程があるぞ。

 スクリーンの中継動画から彼の名前を馬鹿にしながら連呼する声が聞こえる。蔑んだ口調の奴がいれば、ただ面白がって叫ぶ奴もいた。奇妙なことに「流石にやり過ぎだ」と言う者は一人くらいしかいなかった。

〈そうだ! あいつは愚か者だ! そろそろくるはずだが、まさか五時まで待とうとか思うなよ、第一位〉

 譲は手を広げて流暢に語る。ヨルを罵倒する。

〈おまえが逃げれば人質がどうなっても知らないぞ――なんてね、これを見ているかどうか知らない奴を脅しても無駄か〉

 嘲笑する譲。

〈みんな心配しないでくれ! これを見ていた第一位がここで暴れたとしても、この上条(かみじょう)(ゆずる)がみんなを守るから、楽に傍観してくれ!〉

 ヨルはデータを閉じた。これ以上頭を狂わせる中継を見てられなかったからだ。

 とうとう彼はシェイクゲートの大きな壁を飛び越えた。それを境に街はロンドンのような大都会へと変貌した。ミハイルゲートだ。彼はあまり人混みを好まない為初めての訪れである。

 高いビルや教会のような建物の屋根を跳んで渡っていく。現実世界では絶対にできないそれもまた、超能力である。

 街の中心に広場がある。噴水があり、開けている。地面にはヨーロッパでよく見られるタイルが敷き詰められている。どうやらモデルはロンドンのようだ。

 噴水の前に人だかりができていた。その中心に譲が立っている。間違いない、ここが中継で映されていた場所だ。ヨルは今まで常に超能力を発動していたが、不思議と疲れていなかった。寧ろ、温まっていた。

 彼は円にできる人だかりの端より後方に着地する。その衝撃に数人が振り返ったが彼は気にせず言い放った。

退()()

 その威圧感に群衆の壁が一斉に開いた。その先に譲が現れる。

「待ちくたびれたぞ、第一位」

 譲は嘲りの笑みを浮かべ、ヨルは悪英雄のような邪悪な怒気を放って睨んだ。



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