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仮想の現実は無法地帯  作者: 雪斎拓馬
仮想の現実は無法地帯 上
22/55

第三話 「過去の遺志は受け継がれず」 3 *PAST 1


    3    ――PAST 1


 俺の話をしよう。

 と言ってもタブーの話ではない。俺が無法地帯、所謂自由の国へ亡命した後の話だ。堕落していた俺が現在へ至るまでの経緯を語るとしよう。

 一つ言っておくが、俺は現実世界も無法地帯も嫌いだ。自由の国で俺は自由を失くした。超能力が使えて便利そうね、と言われれば俺は黙っちゃいない。超能力は立派な枷である。俺は不幸――確か霊猫は対価と言っていた――あって無法地帯への切符を手に入れたのだが、その先の不幸が超能力と死だ。俺は一度ここで死んだ。全身を焼かれ、地獄まで叫び続けた。その結果超能力という枷をかけられた。

 正確には枷、という表現は疑心暗鬼し過ぎているのかもしれない。俺は疑うことをモットーとしている為か、超能力を自分にとって必要のないものだと思い込んでいる。感覚的な問題だ。俺はリナと出会うまでの地獄を、現実世界への帰還が許されなかった三日間を過ごしたのだが、俺は誰かと話したような気がしてならないのだ。つまり、簡単に説明すれば、この能力は借り物で、誰かと交渉した結果である気がしてならない。誰だかわからぬそいつの思い通りに動かなければ俺がどうなるかわからない。

 令嬢舞歌が死んだ。

 これが俺のタブーだ。この話はまた後でしよう。俺、つまり鈴科夜神が通過した不幸であり、自由への対価はこれである。

 俺も死んだ。とは言え無法地帯で、だ。当時トワイライトゲートへと旅をしていた俺は偶然にもリバティーゲートとの戦争に巻き込まれて死んだ。全身を焼かれ、超能力者となった。

 その後俺はリナと出会った。


 時は昨年の冬に遡る。丁度冬休みになろうという頃だ。夏に高校を辞めていたから本来では冬休み、と表現するのが適切だろう。ただ、その話は令嬢舞歌と深く関わるので後にしよう。

 俺はヨルと偽りの自分を演じて、無法地帯へ亡命した。俺が最初に降り立った街はシェイクゲートと呼ばれる日本のような極普通の街だった。人口も少なくはなく、普通の都会。ビルが連なる見慣れた場所。

 目的などあるはずもなかった。俺は昔から自由を求める旅人だったのだから、自由さえ手に入れば満足だった。予想以上の自由度に俺は心底感動した。何をしても罰を受けない。言葉通り、言葉以上に自由な世界。当時の俺はまだ「超能力者」の存在を知っていなかった。その為、物理限界は越えられないだろうと思っていつつ、法律のない世界の虜になった。

 街は単純に動く。そう、動きたいように動いているのがこの世界だ。自分の欲が百パーセント出せる。俺も自分が思うままに行動していた。旅だ、俺はこの世界を旅していた。元々戦争などの軍事に興味があった俺は、自分が持っているエセ知識だけで装備を揃えて裏道を進んだ。決して笑顔にはならずに。

 笑顔になった瞬間はなかった。確かに俺は自由なる世界に感動した。だが決して泣いたり笑ったりはしていない。俺はいつもつまらなそうな表情をしていたのだろう。

 人は殺さなかった。元々喧嘩は強い方だった。回数が少ないのもあるが。街で喧嘩を売られると即座に撃ち倒した。ただ人は殺さない。そもそも人間以外の動物がいないこの世界で言うのもあれだが、俺は人を殺さなかった。

 ただ、旅とはいえシェイクゲートは暫くの間出ないと決めていた。俺は、シェイクゲートの軍隊へ入った。軍、と呼ばれる大規模な組織だ。名前はなかった。「あれ」と言えばわかる。皆は「西軍」と略していたか。シェイクの由来は、中国語で言う西、シャーと英語で言うウェストを混ぜたものだという説がある。

 軍隊に入って銃を握り直した。人とのたわい無い会話が苦手な俺は遠くから強い兵の真似をしていた。しかし当然見取り稽古で力がつくはずもなかった。俺の命中精度と言えば十メートル離れれば、人間と同じサイズの標的に十発中十発外すほど酷かった。今となってはその原因が、反動に耐える腕の力がなかったことと、集中力があまりにもなかった為と理解しているが、当時の俺は無知だった。軍資金の存在しないこの世界では、銃はどうやらストレス解消道具になるらしい。

 まだ人は殺さなかった。軍と言ってもこの世界を武器や兵器で好き放題暴れまくる集団だった。要するに現実世界である、エアガンを使うサバイバルゲームを実銃でしているようなサークルだ。俺は軍の中のゲームに参加していた。だが、隠れることだけを優先し、一度も人に対して銃口を向けて引き金を引いたことはなかった。

 見栄を張って勢力争いをする場所が軍である為、軍間戦争がよく起こっていた。シェイクゲートは日本のような街なので、毎回他の街で戦争は繰り広げられる。自分の街で戦争勃発となったら、住民は呆れるだろう。俺は傍観に徹していたわけではないが、それを隠れて眺めていた。その時の俺と言えば、撃たれるのも御免、撃つのも御免だった。

 しかし、そろそろ春になろうとした頃。本来なら三学期の前半は軍にて仮想地帯での生活を送っていたが、コミュニケーションが上手く続かなかった俺は、一ヶ月もしない内に軍を辞退していた。退役である。そもそも何がしたくて軍に入隊した訳でもないので、未練も何もない。

 その結果がこれだ。俺はトワイライトゲートへ訪れた。

 それから俺が死ぬまではまだ遠いが、それまでここで何をしていたかと言うと、悪人の成敗だった。喧嘩をしている輩を端から潰していった。俺は臆病な野郎だから、当時は遠距離から攻撃をしまくった。だが俺はそれでも人を殺さなかった。何にこだわっていたのかはわからない。エアガンのような、殺傷性が皆無な銃でひたすら狙撃をしていた。

 ある時俺の存在に気付いた奴がいた。俺を囲むと、銃を突き付けてきた。その時こそが、俺が初めて人を実銃で撃った瞬間だった。喧嘩は強い方だ。あまり緊張もせずに楽々と撃ち倒した。急所をわざと外して痛がらせた。それでも人は殺さない。

 俺の通り名ができることもなく、三学期の半ばをトワイライトゲートで過ごしていた。成敗していたとはいえ、特別何をすることもなく。

 トワイライトゲートの砂色の風景にはもう慣れていた。当時の俺は、そんな現実世界とは違う街を好んでいたため、この街は非常に癒される場所であったと言える。しかし、それも慣れてしまった。

 人には適応力がある。他にも記憶力や理解力、応用力がある。俺は仮想世界に入り自由を満喫するような「非日常」にすっかり慣れていた。人は非日常に慣れてしまう。それ故に、事件を起こす人間もいる。

 俺がその一人だろう。非日常に憧れて調子に乗った罰を受けた。

 三学期後半のある日、前振りも脈絡もなくリバティーゲートとの戦争が起こった。それが俺を暗闇の奥底へ突き落した、仮想世界での最初の悲劇である。

 そして、二度目の悲劇がこれから展開されることになる。




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