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仮想の現実は無法地帯  作者: 雪斎拓馬
仮想の現実は無法地帯 上
20/55

第三話 「過去の遺志は受け継がれず」 1


 「私達で『便利屋』を開かないかい?

      自分達の為に、人の役に立つことをしよう」


    1


 便利屋の平穏は脈絡もなく崩壊した。

 右眼から延々と止まらぬ血を流すリナは崩れ、皮肉にも眼前の男を片目で睨む。しかし彼女の表情と言えば恐怖に固まった情けない顔でも、怒りに満ちた歪んだ顔でもなく、何かがおかしく面白いのか笑っている狂気的なものだ。口角を上げて高笑いするかのように、笑う。

「悪役の顔だな、情報屋の女」

 眼前の敵の男は発砲から時間を置いても尚煙を上らせる拳銃を、再び彼女へ向ける。男は銃を握ると必ず引き金に指をかける。常識では誤砲の危険性がある為、引き金から指を離すのだが、彼は誤砲など全く恐れていない。その為彼は常に反応できるよう、予め指をかけておく。

 彼はリナの返事も待たずに発砲する。狭い便利屋の部屋へ耳を劈く程の銃声が響く。命中した彼女の頭部は壁へ衝突する。壁に崩れている女性を撃つことに彼は何の躊躇いもなかった。

 だが、彼女は血を流さない。依然右眼からは大量の血を出すが、着弾した額からは掠り傷しか見えない。

「そうか、おまえは……」

 リナは笑う。その度に力が抜けていくが、気にせずに笑う。痛みと違和感で口が回らず、何かを喋るのは困難だったが口から男へ言い放った。

「私は彼を信じる」

「ああそう、俺を信じてくれないのは少々残念だな」

 もう一度男は彼女の額へ発砲した。銃声が部屋へ轟くと、別の音が僅かに聞こえた。銃弾が肉体を割く音。だが撃たれたリナのものではなく、撃った男のものだ。男が右眼に違和感を覚え、手を当てると血が手の平中に付着していた。リナが銃弾を()()()()()のだ。

「これで、お相子だね――(ゆずる)

 リナは軽蔑するように男へ笑う。しかし彼女は気付いていた。男にお相子も何もないということを。

「恩人の眼を貫かれたというのに、それに気付かない男を信じてどうする」

「ふざけるな」リナは痛みを無視して手を前へ突き出した。

 直後、男の体が宙に浮かび、見えない手があるのか、彼の首を縛っていた。彼女は男に触れていない。まるで念力だ。

「得意、だな、その、攻撃は」

 首を縛られている彼の言葉はかすれ、途切れ途切れに彼女へ届く。だが彼は平然、もとい余裕の表情を浮かべている。彼は元々よく笑うタイプの人間だが、何故だかリナのような『異形』を見ると綺麗に笑顔が抜けるらしい。

「そのさ、早く教えてくれないかな、情報屋の女」

 信じられないことに彼女の念力じみた拘束攻撃は簡単に解かれ、男が華麗に着地する。銃をホルスターへ納めると、今度は足に巻いたホルスターからナイフを取り出す。

 リナはもう一度縛り上げようと左手を前へ突き出す。それを見極めた男は彼女の手へナイフを投げる。ガラスが割れるような音が部屋を細かく振動させる。ナイフは彼女の手を貫通し、奥の壁へ強く突き刺さった。まるで杭を打たれたかのようだった。

 痛みにリナが歯を食い縛る。

「俺は知っている。おまえがその『異形』をある程度の時間しか使えないこと、そしてそれが俺達のような完全ではないこと」

 気が付けばとうに男の右眼は再生していた。流れた血の痕だけが残り、傷は何一つ見当たらない。

「さあ、教えて貰おうか、情報屋」

「なんのことか、な」

 リナは鋭い眼つきで男を睨む。万事休す、と言わんばかりだが、どこか痛みを必死に堪えていた。

「わかっているのだろう? 霊猫の居場所はどこだ」

 彼女の沈黙を受け、男はリナの胸倉を左手で掴むと、自分の方へ彼女の体を寄せ、全力で顔面を殴った。ガラスが割れたような音が再び部屋を振動させる。壁に衝突し、その反動で跳ね返る彼女の手には貫通したナイフ。反動で前へ移動する彼女の手を、ナイフは無慈悲に切り裂く。

「それよりこう言った方がいいかな。()()()()()()




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