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仮想の現実は無法地帯  作者: 雪斎拓馬
仮想の現実は無法地帯 上
19/55

第二話 「悪魔は日常に潜む」 10 *END

    10        ――END


 蔵里英司は夜の街を歩いている。目標は家だ。ただし自分の家ではなく、対馬里奈という大学生が住む家だ。

 あいつの情報が確かならば、自分の勤める学校と彼女の家は近いという。もはや正気ではいられなくなった英司は車を出すこともできずに、裏道を歩く。ヨルという男に仮想空間で殺されてから一日の夜。もう彼は無法地帯へのログインを止めると決意していた。自分は対馬里奈を拉致し、共に暮らしてやろう、と考えたからだ。

 彼女を見た時に、言葉では表せない感情が彼の中から込み上げた。彼は一目惚れをしたと感じた。彼は次第に里奈に執着するようになり、ストーカーとしての本領を発揮し出した。その結果が、これである。彼は現実世界で彼女の家を襲おうとしている。

 その時、夜空に乾いた炸裂音が響いた。しかし、彼はこの音を聞き慣れていた。その為に、何だかわかったものの、何故ここで響くのかがわからなかった。

 銃声だ。

 自分の腹部が熱くなっていくことにようやく気付いた彼は人形のようにくずおれた。銃で撃たれた。現実世界で。ここで死んだら、本当に死んでしまう。だが何故ここに銃がある。最近の警察は何の脅しも説得もなく、人を撃つのだろうか。

「現実世界に手を出すな。それが唯一の『法律』だ」

 まるで読み上げたかのような言葉が、うつ伏せになっている英司の上から降る。聞き覚えのある女の声だ。何を言おう、対馬里奈の声だった。

「現実世界で罪を犯すと、運営側で処罰される。と言ってもね、流石の運営側も人手不足でね。近くにいる人間が処刑することになっているの」

 淡々と里奈は抵抗できない英司へ告げる。英司はまるで死への階段を上っていく気分になった。きっと殺される。私は彼女に殺される。

「君、私が君をストークしていたと気付いていたのか?」

 素直に疑問を彼女へ投げかけた。

「情報屋を舐めないでくれる? 私がヨルのコートを抱いて変態を装ったのも、私はストーカー、もとい猟奇殺人鬼に気付いている、と伝えたかったからなのよ。まあ、彼は気付かなかったようだけれど」

 里奈は握り慣れている銃の口を英司の頭に合わせる。

「よかったわね、死ぬ原因も、殺される相手も私で。対馬里奈で」

 彼女はとうとう引き金に指をかけた。

「この化け物め――」英司は苦笑し、言った。

「何を言っているの? 私は化け物じゃないわ。私はただの――――」

 銃声が轟いた。英司の頭が破裂する。四分の一が欠け、血と脳が溢れ出る。彼女はそれを見ても何とも思わずに銃をホルスターへ納めた。

「あら、聞こえなかったかしら。まあいずれ死ぬのだから関係はないか」

 彼女はその事件現場を去った。


 木原奏は朝、信じられないニュースを見た。

『ええ、被害者は蔵里英司、中学教員。蔵里氏は何者かに銃で撃たれて死亡したとのことです。銃声を聞いた近隣住民が通報し、遺体が発見されたようです』

 自分のタブーが現実世界で殺された。きっと、法律を破ったのだろう。彼の死はきっとユーザーへの良い忠告となっただろう。

 彼女は吹っ切れていた。自分らしさを存分に出していこうと決意していた。ヨルの言葉が心に響いたようだ。彼自身は支離滅裂なことを言っていた為に後で恥ずかしがったが、かのんは首に手をやる彼を見て笑っていた。

 ニュースは違う事件へ変わっていた。


    *


 英司が無法地帯で殺された十分後。周囲から人間はいなくなっていた。ヨルも、かのんも、それを傍観していた橘も。ただ一人を除いて。

〈橘の旦那の、『正義』の考えが惜しい、と僕は君に言ったよね。そういえば僕はその答えを伝えていなかった〉

 死体が着る服、ポケットの中の小さな無線機から音が発せらる。

〈皆は勘違いをしているようだ。『正義』の反対は悪じゃなくて「無私」だよ〉

 無線機の声の主は笑っているようだった。

〈そう考えれば、自分の性欲の為に命を落としたのだから、君は立派な正義を持った人間だったようだ。だから僕は君に失望しない〉

 死体へ喋りかける声の主は、事件を傍観していた。

〈だけど残念だな。僕が提示した任務を君は全うできなかった〉

 突如、虚空から出現したように、一人の男が屍と化した英司の前に立っていた。無論、屍である英司にはそれを知りようがない。

「僕は君が次にどうするか、そしてどうなるか知っているよ。中々面白かったよ、猟奇殺人鬼。もう二度と会わないけれど」

 聖護院(しょうごいん)悠聖(ゆうせい)は小学生がするように、手を拳銃の形にして人差し指を英司の頭に向け、発砲する真似をした。直後英司の頭が破裂し、四分の一が欠け、血と脳が溢れ出た。それを見ても何とも思わず、彼は自分の手をズボンのポケットに突っ込んだ。

「ははっ、未来の真似――なんてね」


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