37、瞬間
いよいよ、最終節。
東京エリーザ VS 浅草エンジェルスの直接対決で雌雄を決することとなった!
江戸川区スタジアムに到着すると長老が待っていた。
「おはようございます。今年こそですね!」
「おう、兄ちゃん!今日は勝って優勝を決めような!」
「そうっすね!」
今日はこのおじいちゃんの隣で観戦することに決めていた。
なぜだか分からないがその方がパワーを送れるような気がした…
開場の時間になり階段を上がっていると
「兄ちゃん、先に行ってていいぞ。」
「どうしたんですか?」
「ちょっと、腰を痛めちまってよ…
ゆっくりじゃねえと歩けないんだ。」
「俺の肩ににつかまってくださいよ!」
「そうかい!へへっ。すまねえな…」
以前だったら、階段を上がっている年寄りを見ると
トロトロしてるんじゃねえよとか思っていた…
今は駅の階段とかで、そういうことを全く思わないようになっていた。
スタンドに到着すると選手がアップを始めていた。
昨年みたいにガチガチに緊張している様子ではない
八神を中心に大はしゃぎをしている。
さすが八神
常勝チームに居ただけのことはある。
昨年のエンジェルスとは大違いだ!
今度こそ優勝を見せてくれ!心底そう願った!!
「長老、選手たちは緊張もしてないようですね。」
「そうだな!昨年とはえらい違いだ。はっはー。」
試合開始のホイッスルが鳴った!
多彩な攻撃をどんどん仕掛けてくるエリーザに対し
エンジェルスは八神・北原を中心に粘り強いディフェンスを見せている。
攻められてはいるが選手たちは落ち着いている。
前半は個人技で何度も何度もエンジェルスゴールに攻め込んだエリーザが得点できなかった…
防戦一方だった浅草エンジェルスだったが後半3分に山が動く。
戸田葵とのワンツーから空いてるスペースに武藤ちさが飛び出した!
一人二人とDFをかわしたシュートを放つと
ゴール!!
「やったー!!」
「よっしゃー!!」
スタジアムを埋め尽くした浅草サポーターの大歓声が鳴り響いた!!
「やったぜ!兄ちゃん~!!」
「やりましたね!長老。」
俺は長老とハイタッチをして大はしゃぎだ!!
「兄ちゃん、ちさがこっちを見ながらガッツポーズしてるぞ。」
ちさの方を見ると両手で渾身のガッツポーズをしていた!
俺と長老は二人で渾身の力を込めて返した!
ふと、長老の顔を見ると涙が流れていた・・・
「長老、勝ってから泣きましょうよ!」
「バカヤロー!これは涙じゃねえダイヤモンドだ!」
「・・・」
(まあ、16年もこのチームを応援してきたんだからムリもねえか…)
昨年の悔しさを跳ね返した選手たちは本当にたくましくなっていた。
エリーザの怒涛の攻めにも全く動じない!
そして、歓喜の瞬間が訪れた!!
「ピーピーピー!」
試合は1対で浅草エンジェルスの勝利!
初めて女王の座に輝いた瞬間だった。
選手もサポーターも大喜びだ!
中には泣き出している選手もいた・・・
「あいつら、俺が死ぬまでに優勝してくれたよ…」
長老も大泣きしていた…
優勝セレモニーまで見届けた俺はスタンドでしばらく放心状態だった。
(これが優勝か・・・本当にいいもんだな)
観客もほぼ帰宅し客席の清掃が始まった
俺は優勝の余韻が名残惜しかったがスタンドを後にした。
外に出るとスタジアムの出口付近にたくさんの人だかりができていた。
武藤ちさの周りにも人が集まり何やら声をかけているようだった。
「おう、兄ちゃん!まだ居たのかい。」
「はい。そろそろ帰ろうかと…」
「今、ちさに話しかけてるのがちさの両親だよ。
今日は最高の親孝行をしたな。」
「ご両親も本当に嬉しそうですね。
それにしても、武藤さんの周りは凄い人だかりですね…」
「今日は友達や近所の人も来てるからな。
みんなに支えられながらここまで頑張ってきたんだよ。」
「そ…そうですね。」
(そうだよな。俺なんか所詮、2シーズン応援してるだけだもんな…)
せっかく優勝したというのに俺は少し寂しい気分になった・・・
家族や友人に囲まれ最高の恩返しをした武藤ちさがうらやましかった。
俺はそんなことを一回もしたことはない。
高校1年でオヤジが死んでからは学校を辞め家を飛び出し
人を奴隷のようにしか思っていなかった…
「長老、じゃあまた来年お会いしましょう!」
「なんだ、もう帰るのか?ちさに声くらいかけてやりなよ。」
「い、いや…俺はいいっすよ。」
「そうか・・・」
「それよりも長老、死なないでくださいよ!
俺の大切なダチなんだから。」
「この野郎。はっはー。じゃあ、またな!」
(また、来年の春か・・・)
そんなことを思いながら河川敷へ通じる小道を歩いていた。
すると、
「待って!!」
振り返るとそこには息を切らした武藤ちさがいた・・・




