38、物語の続き①
なぜ、武藤ちさが?
俺は真剣に夢を見ているのかと思った。
「む、武藤さん。どうしたの…」
「いつも応援してくれて本当にありがとうございます。
お陰で優勝することが出来ました。本当に本当にあなたにお礼が言いたくて…」
「いやいや、俺の方がお礼を言いたいよ!
楽しかったし優勝までしてくれて本当に報われたって感じだし…」
「あの…あの…」
何か必死に伝えようとしている武藤ちさが可愛く見えた。
「あの、最初に試合を見に来てくれたときチームメイトと話してたんですよ。
なんかホストみたいな人が来てるって。
それから私は、いつも試合前にスタンドを見渡してあなたの姿を探すようになりました。
いつしか来ているのが確認できたらリラックスして試合に臨めるようになってた…」
「えっ!最初に来たときから俺のことを知ってたの?」
「はい。だから15番のユニフォームを着てたのを見たときは本当に嬉しくて…
私はアウェイでの試合になると相手チームのサポーターに圧倒されることが多かったんだけど
15番のユニフォームを着ているあなたを見ると心強くて勇気が湧いていました!」
「ありがとう。そんなに言ってもらえるなんて思ってもいなかった…」
「本当ですよ。いつも出ていた弱気の虫もどこかに吹き飛んじゃいましたし。
だから、だから何とお礼を言っていいのか・・・」
俺は本当に嬉しかった…
人生でここまで人に感謝されたことがあっただろうか
それと同時に話しているときの距離が近すぎることにドキドキしていた
普通の男女だったら抱き合ってしまうくらいの距離だ・・・
でも、普通の男女ではないんだ
この子は選手で俺は単なるサポーターだ
そんなことをしたらダメなんだ…
自分自身に何度も言い聞かせた
が、俺は悪魔だ
そんなのは関係ねえ!
よし!抱きしめちゃえ!!
俺の悪魔の心が動き始めた・・・
「コラッー!!」
(ギクッ)
大声に驚いて振り向くと
そこには長老が仁王立ちをしていた・・・
「何やってんだ!!」
「いや、あの…長老」
「まったく、お前たちは・・・
ちさ、代表目指してるんだろ?
人に見られたらどうするんだ?何言われるか分かったもんじゃねえぞ!!」
「お…おじいちゃん」
「え?おじいちゃん?長老がおじいちゃん?」
「おう!浅草の裕次郎こと武藤裕次郎とは俺のことよ」
「え?え?浅草の裕次郎…」
「しかしあれだな…ちさ、お前はこんなのがタイプなのか?はっはー。」
「ちょ…長老!からかわないでくださいよ!」
「バカヤロー!俺はちゃんと分かってるよ。
お前さんを最初に見たときと今では全然、顔つきが違うってことを!優しい顔になってるよ。
初めて見たときはどこのチンピラかと思ったくらいだからよ。はっはー。」
「チ…チンピラ」
「それにお前さんは、いつだったか俺にこう言ってじゃねえか!
どうにかしてこのチームを優勝させてやりたいって・・・」
「そうっすね」
「俺はお前さんがちさを本気で応援してくれてるって分かってるよ」
「長老…」
「俺は色恋沙汰は大好きだ!ただよ、ここじゃ人目に付くだろ!
他でやれ他で!ほら、人が来たぞ!向こうへ走れ!走りやがれー!」
俺と武藤ちさは河川敷の方へ全力で走った・・・
「あの野郎…俺のたった一人の孫を奪いやがって。はっはー。」
「おじいちゃん!ちさを奪われちゃったね」
「なんだ、綾香。見てたのか?」
「うん。あーぁ、私もエロホストをちさにとられちゃったし
せっかく優勝したというのになんかショックだな…」
「バカヤロー!そんなんでどうするんだ。
よし、うちに来い。バアさんは旅行でいねえからよ!」
「いやよ。このエロジジイ!」
「なんだと、この野郎!はっはー。」




