22、妹
開幕戦の帰り際に長老から八神の家庭環境の話を聞いた俺は
妹の由貴のことをふと思い出した。
(あいつも今月で二十歳か…)
この由貴の存在がいなければ俺は確実に殺人を犯していたに違いない。
俺は高校1年のときに父親が死んだ。
そして、俺の母親も八神の父親同様に
オヤジが死んで1年の経たないうちに男を連れ込むようになった。
俺は母親の素行もさることながらノコノコと人の家に踏み込んできたこの男が大嫌いだった!
この男と自分の母親を本当にぶっ殺してやろうと思っていた。
しかし、由貴がいる・・・
二人をぶっ殺したところで一番ツライ目に遭うのはこの子なんだ…
という思いが何回も何回も俺の殺人鬼を防いでくれた。
そして、俺は家を飛び出した。
妹をほったらかしにして飛び出したことだけが気掛かりだったから
由貴とだけは連絡を取るようにしている。
(時間はまだ16時か…
ホストクラブの営業時間まではまだ時間がある。
久しぶりにあいつと飯でも食いに行くか。)
そう思い由貴に電話をした。
「はいはーい。」
「あ、俺だよ!ヒマか?飯でも食いに行かねーか?」
「いいよ。」
「じゃあ、おまえん家の近くまで今から行くから。」
待ち合わせ場所に着くと妹が待っていた。
「よっ!」
「兄ちゃんがご飯誘うとか珍しいー!どうしたの?」
「いやいや、時間が余ってさ…何食いたい?」
「焼肉!」
「おう!じゃあ、うまい焼肉屋に連れてってやるよ!」
「やったー!」
店の常連客からよくオゴってもらう焼肉屋に連れて行くことにした。
「ここの肉は美味しいぞー!なんでも好きなもの食え!」
「うん。じゃあ、特選カルビとタン塩と・・・」
兄妹二人で焼肉を腹一杯食った。
「いやー、食ったな。俺、今から仕事なのに。ははは。」
「えー、仕事なの?」
「おう。あっ!おまえ、今月誕生日だっただろ。なんか好きなものでも買え!」
俺は金の入った封筒をそっと差し出した。
「ありがとー!なんか、今日の兄ちゃん変だよ!異常に優しいし…」
「変じゃねーよ。おまえも20歳だろ?俺も少しは兄貴らしいことしてやらねーとな…」
「うーん。」
「オヤジが死んでから、おまえをほったらかしにして家を出て行ったりして
ゴメンな・・・本当に悪いことをしたよ。」
「えー、兄ちゃんらしくない!どうしたの?なんか顔つきも優しくなってるし。
あっ!彼女でしょ?優しい彼女が出来たんだ?」
「そんなんじゃねーよ!ちょっと、反省してな・・・
なんか困ったことがあったらいつでも言えよ!金のことでもいいから!」
「反省なんかしなくていいよ。
あっねえ!私が20年間、生きてきて一番嬉しかったことってなんだったと思う?」
「一番嬉しかったこと?高校のとき彼氏が出来たとかだろ?」
「そんなんじゃないよ!」
「あれ?あのときのおまえはメチャクチャ嬉しそうだったぞ!」
「中学2年のとき、兄ちゃんが私に言ってくれた言葉だよ!」
「俺、何か言ったか?」
「私さ、うちはお金がないから中学卒業したら働けってお母さんに言われてて…
でも、兄ちゃんが電話掛けてきて言ったじゃん。」
「あ~・・・」
「俺が金を出してやるから高校に行けって!」
「言ったな。」
「あのときの言葉、どれだけ嬉しかったことか…
また、友達と一緒に学校に行けるとか遊んだりできるって!」
「そっか。俺も少しは役に立ったんだな!」
「今でも感謝してるよ。本当に楽しい青春だったから!!」
「まあ、でもそのお陰で俺も頑張れたってのはあるな。」
「そうなの?」
「俺も言った手前、授業料払えないじゃカッコつかないから死にもの狂いで頑張ったよ。
何回、店のNO.1になったことか!はは。」
「へえー、そうだったんだ。ははは。」
「でも、そんな話は初めて聞いたな。」
「だって、兄ちゃんとご飯食べたりしてもすぐ帰ってたでしょ!
電話もすぐ切るし・・・」
「悪い悪い。」
「お母さんも心配してるよ・・・」
「あー、いいよ。あいつの話は!!」
「もう。」
「じゃあ、そろそろ行くか!俺も仕事だし。」
「そうだね。また何か美味しいもの食べに連れてってね!」
「分かった!じゃあ、またな。」
「バイバイキーン!」
妹から思いがけない言葉が聞けた・・・
後ろめたい気持ちがあっただけに嬉しかった。
(地獄に行ったときの免罪符はこれだけだろうな)
そんなことを考えながら店へと向かった。




