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天使のフットボール  作者: リリー
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18/39

18、再会

年の瀬も押し迫ったある日、浅草エンジェルスは今年最後のトレーニングをしていた。

そして選手の間でもあの噂が飛び交っていた。

「ねえ、亜由。八神綾香が移籍してくるとか聞いたんだけどホントかなぁ?」

「なんか本当らしいよ。葵、あんたビビってるんでしょ?八神は怖そうだもんね」

「怖くなんかないよ!あってか、ちさ。八神綾香と友達だったよね?何か聞いてないの?」

「いや…何も。はは…」

(う~ん、あやは本当に移籍して来るんだろうか・・・)


昼過ぎになり

「よーし!練習終了」

エンジェルス・西田監督の声と共に選手達が後片付けを始めた。


ちさがゴール裏に転がっているボールを拾いに行ったときだった・・・

「おーい!ちさ!ちさ、ちさー!」

フェンス越しに八神綾香が叫んでいた。

「あや!!」

「私、エンジェルスに移籍するから!よろしくー」

「やっぱ、あやの移籍は本当だったんだね。」

「うん。また一緒にサッカーやろう!」

「おう!また、あやとサッカーができるとはね。あはは!」

二人の間にわだかまりなどなかった。


話をしている二人にチームメイトもざわつき始めた。

「ちさと話してるのって・・・」

「あれ、噂の八神綾香じゃない?」

「マジで?やっぱ、うちのチームに?」

「監督、八神さん来てますよ!」

西田監督も気づいたようだ。

「武藤!八神を連れてこっちに来い!」


ちさは八神を監督のところへ連れて来た。

「ちょうどいい、全員揃ってるから紹介する。

来シーズンから八神がエンジェルスに加入することになった。

じゃあ、八神!一言挨拶でもするか?」

西田監督に紹介された八神が挨拶を始めた。

「この度、浅草エンジェルスに加入することになった八神綾香です。

皆さんと一緒にこの浅草エンジェルスで優勝するために来ました。

宜しくお願いします。」


チームメイトは笑顔と拍手で八神を受け入れたが

一人だけ浮かない顔をしている北原…

「監督、八神さんのポジションは決まっているんですか?」

「う~ん、ま、練習を見てこれから決める。」

「北原さん。ヨロシクね!」

八神はニコッと笑顔を見せながら北原に言葉をかけた。

「はい…ヨロシク」

北原は八神のことが気に入らないのか少しふて腐れたような表情をしていた。


「よーし!解散。じゃあ、また来年!」

西田監督の言葉でトレーニングは終了した。




「ちさ、ご飯食べに行こうよ!」

「いいよ。あやとご飯とか何年ぶりだろ?あはは。」

「えー、そんなの覚えてないよ!」

「あっそうだ!ねー、亜由と葵も行こうよ。」


「私達、今から走り込みするから~ゴメンね」

「ちょっと亜由!なんで私まで!?」

「あんなに仲良くしてるんだから二人で行かせてあげればいいじゃん!」

「も~!」


ちさと八神はグラウンドを後にするとしばらく歩いた。

「この辺も変わってないね~5年ぶりくらいかな…」

「え!?そんなに帰ってなかったんだ。」

「うん。ねぇ、ちさ!なに食べようか?」

「ん~もんじゃ焼き!」

「え!?あんた、まだそんなの食べてるの?」

「うん。ほら、着いたよ!」


昔ながらの古びたもんじゃ焼き屋がそこにはあった。

「あっ!ここ、鶴屋じゃん。この店まだあったの?」

「そうだよ!今でも練習後たまにみんなで食べに来るんだよ。」

「ちょっと!マジでもんじゃなんか食べるの?ガキじゃないんだからさ…」


「おばちゃん、こんにちは~」

「あらー、ちさちゃん。いらっしゃい!」

「友達連れて来たよ。」

「おや、あやちゃんじゃないかい?」

「えーっ!おばちゃん私のこと覚えてるの?」

「もちろん、覚えてるよ。子供の頃、いつも!ちさちゃんと来てたじゃないの。」

「うそー!本当に覚えてるの?」

「うん!東京エリーザで頑張ってるでしょ!

おじちゃんもおばちゃんも応援してるんだよ。

あんたー!あやちゃん来たよ!」


店の奥からご主人が顔を覗かせた。

「んっ!八神のあやちゃんじゃねぇか!

優勝おめでとさん!」

「おじちゃんも覚えてくれてたんだ…」

「おじちゃん!あやはエンジェルスに移籍したんだよ。」

「なんだと?ちさちゃん、そりゃ本当かい?」

「もう仲間だよ!」

「そりゃ、めでてぇーな!お祝いだ!なんでも好きなもん食いな!どんどん食え!」


「あやちゃん、うちだけじゃないよ!

あんたが大好きだったパン屋さんも文房具屋さんも本屋さんも

この辺のご近所さん達はずっと応援してるんだよ。」


「みんな、ずっと覚えててくれてたの?」

「そうだよ。おととし、千葉で代表の試合があったでしょ。

あやちゃんが日本代表に選ばれたってんで

みんなであの試合を見に行ったんだよ。」


「私、自分のことだけで精一杯で…

みんなが応援してくれてるなんて思ってもいなかった…」

「自分のことだけでいいんだよ。エリーザは厳しいって聞くから大変だったろう?」

「うん…毎日、必死で、いつレギュラーから外されっるかって

そんなことばかり考えてた。」

「これからは一人で背負いこまなくていいんだよ。

何かあったら、いつでもここに来な。

おじちゃんもおばちゃんもいるし

ご近所さん達もみんな、あやちゃんの味方だよ!」


「お…おばちゃん。私、絶対に優勝してみんなを喜ばせてあげるから

う、う、う…」

八神の目からは涙がこぼれていた

「久しぶりに会ったのに泣くやつがあるかい。

泣いたらせっかくのキレイな顔が台無しだよ!ねえ、ちさちゃん。」


「あはは。あや、ありがとう!本当に心強いよ。」

「ちさ…うわぁぁぁぁぁぁーん!」

「あらあら、この子は。ちさちゃん、泣かせちゃダメでしょ!」

「えー、おばちゃんもでしょ。ははは。」



エリート集団の中で激しいレギュラー争いを必死に闘い

常に緊張の糸が張りつめていた八神。

自分を応援してくれる人の優しさに触れ

その呪縛からやようやく解放されたようだ。


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