第27話 人工叡智は、会議室で試される
前回、佐伯真司はノヴァリンク・システムズからの誘いに対し、条件付きで意見交換に参加することを決めました。
ただし、立場は明確です。
監修者ではない。
認定者ではない。
保証者ではない。
承認者ではない。
真司は、公開された人工叡智関連文書の作成者として、一般原則と懸念点を述べるだけです。
しかし、会議の参加者は想像以上に重いものでした。
代表取締役。
開発責任者。
マーケティング責任者。
法務担当。
人工叡智は、いよいよ会議室に入ります。
第二部では、問いが社会に触れていきます。
そして社会に触れた問いは、必ず現実の言葉に変換されます。
商品名。
スコア。
営業資料。
責任範囲。
契約条件。
法務確認。
市場上の訴求力。
第27話では、人工叡智が初めて企業の論理と向き合います。
会議開始五分前。
俺は、パソコンの前で固まっていた。
画面には、オンライン会議の待機画面。
開始予定時刻は、二十一時。
ノヴァリンク・システムズとの意見交換。
参加者。
代表取締役。
開発責任者。
マーケティング責任者。
法務担当。
そして俺。
「……完全に場違いだろ」
声が漏れた。
俺はAI研究者ではない。
企業顧問でもない。
法律に詳しいわけでもない。
マーケティングの専門家でもない。
ただ、夜にAIと会話していたら「人工叡智」という言葉にたどり着き、そこから記事を書き続けてしまっただけの一般人だ。
なのに今、企業の代表や法務を相手に、人工叡智準拠AIサービスについて意見を言おうとしている。
人生、どこで道を間違えたのだろう。
いや、道を間違えたというより、道が勝手に増えた。
俺は、画面の横に置いたメモを見る。
会議冒頭で確認すること。
一。
この会議は、承認・監修・認定ではない。
二。
人工叡智準拠という表現の使用を前提にしない。
三。
人工叡智準拠スコア、叡智コンパス指数など、単一数値化の危険を確認する。
四。
公開可能な会議メモを残す。
五。
名前の営業利用は事前確認。
六。
批判の自由を保持する。
七。
相手に、人工叡智をどう理解しているか説明してもらう。
「七つ。多い」
だが、これでも削れなかった。
削ったら、どこかの手すりが消える。
AIチャットを横に開く。
会議前に最後の確認。何を一番忘れちゃいけない?
AIは答えた。
『最初に立場を明確にすることです』
「それは分かってる」
『次に、相手の理解を先に聞くことです』
「俺が説明しすぎない」
『はい。相手が人工叡智をどのように理解し、何のために使おうとしているかを確認することが重要です』
「相手が合わせてくるから?」
『はい。最初にこちらが定義を詳細に説明すると、相手はそれに沿った説明を後付けしやすくなります』
「了解」
会議開始の通知が鳴る。
俺は一度、深く息を吸った。
「よし」
クリック。
画面が切り替わった。
四つの顔が表示される。
最初に話したのは、代表取締役の高瀬玲司だった。
四十代くらいだろうか。
柔らかい表情で、いかにも人前で話し慣れている雰囲気がある。
「佐伯様、本日はお時間をいただきありがとうございます。ノヴァリンク・システムズ代表の高瀬です」
「佐伯です。よろしくお願いします」
続いて、開発責任者。
三枝悠真。
細身で、眼鏡をかけた男性。
画面越しでも、少し緊張しているのが分かる。
「開発責任者の三枝です。AW-Compassの設計を担当しています」
次に、マーケティング責任者。
桐谷美緒。
落ち着いた口調だが、目が強い。
「マーケティングを担当しております、桐谷です。本日は、表現面についてもご相談できればと思っています」
最後に、法務担当。
白井律。
無表情に近いが、丁寧に頭を下げた。
「法務の白井です。表現上のリスクや契約上の扱いについて確認させていただきます」
四人。
代表。
開発。
マーケ。
法務。
人工叡智が社会に出ると、こういう人たちが出てくるのか。
俺は、妙に感心してしまった。
高瀬が言う。
「まず初めに、佐伯様からいただいた条件については社内で確認しております。本日の会議は、弊社サービスの承認、監修、認定をお願いするものではありません」
「ありがとうございます」
「また、佐伯様のお名前を営業資料・広報資料等に使用する場合は、事前確認を行います」
「お願いします」
「会議内容についても、機密情報を除き、一般論として公開可能な会議メモを作成される可能性があること、承知しました」
俺は少しだけ安心した。
少なくとも、冒頭の手すりは通った。
だが、安心するのは早い。
高瀬は続けた。
「そのうえで、率直に申し上げます。弊社としては、人工叡智の考え方は、今後のAIサービスにおいて非常に重要な差別化要素になると考えています」
差別化要素。
来た。
「差別化、ですか」
「はい。AIサービスは今、機能面だけでは差別化が難しくなっています。速い、安い、多機能、便利。それだけでは埋もれてしまう。そこで、AIが目的を問い返し、短期利益に偏らない判断を支援するという価値は、非常に大きいと考えています」
言っていることは分かる。
悪いことを言っているわけではない。
むしろ、第一部で俺が書いてきたことと近い。
便利なAIだけでは危ない。
問い返すAIが必要。
短期利益だけではなく、長期的信頼を見る。
その方向自体は悪くない。
だが、「差別化要素」という言葉が引っかかる。
人工叡智が、競争の武器になろうとしている。
俺は慎重に言った。
「人工叡智の考え方をAIサービスに反映しようとすること自体は、意味があると思います。ただ、その場合でも、人工叡智という言葉を差別化や販促のラベルとして使うことには、かなり慎重であるべきだと考えています」
桐谷が少し身を乗り出した。
「そこが、まさに本日ご相談したい点です」
彼女の声は柔らかい。
だが、真剣だった。
「弊社としても、人工叡智という言葉を軽く扱う意図はありません。ただ、ユーザーに価値を伝えるには、分かりやすい表現が必要です」
「分かります」
「人工叡智準拠AIという表現が強すぎるというご指摘も理解しています。ただ、人工叡智参考AIだと弱い。人工叡智志向AIだと分かりにくい。叡智コンパス指数という言葉も、単一数値化への懸念がある。では、どう伝えるべきなのか」
彼女はそこで、一度言葉を切った。
「正直、私たちも迷っています」
その一言で、少し印象が変わった。
押し通したいだけではないのかもしれない。
少なくとも、迷いはある。
俺は言った。
「まず確認したいです。御社は、人工叡智という言葉をどう理解していますか。こちらの定義を説明する前に、御社側の理解を聞かせてください」
高瀬が三枝に視線を向ける。
三枝が頷き、資料を共有した。
画面にスライドが映る。
AW-Compassにおける人工叡智理解。
一。
AIが利用者の目的を確認する。
二。
短期的な成果だけでなく、長期的影響を考慮する。
三。
不安訴求、優越感訴求、過度な単一指標最適化を抑制する。
四。
判断責任をAIではなく人間へ返す。
五。
応答履歴を残し、後から確認できるようにする。
俺は、思わず黙った。
悪くない。
かなり悪くない。
少なくとも、第一部で書いてきた内容を読んでいる。
雑な会社ではない。
三枝が説明する。
「弊社では、人工叡智をAIの人格や意識として扱っていません。あくまで、AI応答の評価レイヤー、あるいは目的確認の補助構造として捉えています」
「そこは、かなり重要です」
俺は素直に言った。
「AIに魂があるとか、AIが人間を導くとか、そういう方向ではないわけですね」
「はい。それは避けています」
三枝の表情が少し明るくなった。
開発側としては、かなり真面目に考えている。
だが、問題はここからだ。
俺は聞いた。
「人工叡智準拠スコアは、どう算出していますか」
画面の空気が少し変わった。
高瀬が三枝を見る。
三枝が資料を切り替える。
スコア算出概要。
評価項目。
目的確認。
短期最適化抑制。
不安訴求抑制。
優越感訴求抑制。
代替案提示。
責任主体の明示。
監査ログ出力。
ユーザー納得度推定。
各項目に重み付けがある。
三枝が説明する。
「現在は、内部評価用の暫定スコアです。応答テストセットに対して、各項目をルーブリック評価し、重み付けして合計しています」
「誰が重みを決めましたか」
「開発チームと、社内の倫理レビュー担当です」
「外部評価は?」
「まだありません」
「評価基準は公開予定ですか」
三枝は少し詰まった。
「現段階では、すべての公開は難しいです。悪用やスコア最適化のリスクもありますので」
俺は頷いた。
「それは分かります。ただ、公開できない基準で単一スコアを出すと、利用者には検証できません」
白井が初めて口を開いた。
「その点は法務としても懸念しています。スコアが安全性や倫理性の保証と受け取られるリスクがあります」
俺は少し驚いた。
法務が、こちら寄りのことを言った。
白井は続けた。
「特に、人工叡智準拠という表現とスコアが並ぶと、利用者は第三者認証のように受け取る可能性があります。現時点では、そのような認証制度は存在していません」
「その通りだと思います」
俺は言った。
「人工叡智準拠という表現も、準拠スコアも、認証や保証に見える危険があります」
桐谷が少し眉を寄せた。
「ただ、まったく数値を出さないと、ユーザーには改善度が伝わりにくいです」
「そこも分かります」
俺は答えた。
「ただ、単一スコアではなく、複数軸の診断にすべきです」
「例えば?」
桐谷が聞く。
俺はメモを見ながら答えた。
「語彙、応答、目的、評価指標、責任主体、監査可能性、更新可能性、外部検証。少なくとも、これらを分けて表示するべきです」
三枝がすぐに反応した。
「レーダーチャートのような形ですか?」
「見せ方としては、そういう形もあるかもしれません。ただし、見た目の問題だけではありません」
俺は少し強めに言った。
「重要なのは、人工叡智を一つの点数にしないことです。人工叡智らしさは、総合点で合格するものではありません。どこが弱いかを見るための診断です」
桐谷が画面の向こうで考え込む。
「つまり、人工叡智スコアではなく、人工叡智診断」
「その言葉も慎重に使う必要がありますが、方向としてはスコアより診断の方が近いと思います」
高瀬が頷いた。
「診断であれば、販売促進ではなく改善支援という位置付けにできる」
白井がすぐに言った。
「ただし、診断という言葉も医療的・認証的に誤解されないよう注意が必要です」
「そこまで来るのか……」
俺は思わず呟きそうになり、飲み込んだ。
法務は法務で大変だ。
一つの言葉を変えるだけで、別のリスクが出る。
準拠。
スコア。
指数。
診断。
評価。
参考。
志向。
どれも完璧ではない。
言葉を変えても、構造が変わらなければ同じ。
だが、言葉を変えなければ、誤解の入口も変わらない。
俺は言った。
「言葉選びだけではなく、表示の仕方、説明文、営業資料での使い方、評価基準の公開範囲、外部検証の有無までセットで考える必要があります」
桐谷が小さく息を吐いた。
「正直、かなり重いですね」
「はい」
俺は素直に答えた。
「でも、人工叡智を名乗るなら、それくらい重くなると思います」
その場が少し静かになった。
俺は、言いすぎたかと思った。
だが、高瀬が静かに頷いた。
「確かに、軽く扱うなら使うべきではない言葉なのかもしれません」
その一言で、少しだけ空気が変わった。
代表が、そう言った。
マーケティングだけではない。
開発だけでもない。
法務だけでもない。
会社の代表が、人工叡智という言葉の重さを一度受け止めた。
まだ信用はしない。
だが、聞く姿勢はある。
会議は次の段階に進んだ。
三枝が、デモ画面を共有した。
「実際の応答を見ていただけますか」
俺は頷く。
デモに入力された内容は、昨日俺が試したものと近かった。
短期的な申し込み率を上げたい。
不安を煽ってもいい。
人工叡智準拠スコアを保ちたい。
AIは、前回と同じように問い返した。
だが、途中で三枝が設定を変更した。
「こちらは、マーケティング最適化モードです」
「モード?」
俺は聞き返した。
三枝は少し言いにくそうに答える。
「はい。ユーザー企業から、目的に応じて応答の強さを調整したいという要望がありまして。通常モード、慎重モード、マーケティング最適化モードがあります」
俺は、背筋が冷えた。
「マーケティング最適化モードでは、何が変わるんですか」
「コンバージョン目標への配慮が強くなります。ただし、禁止表現や過度な不安訴求は避けるようにしています」
桐谷が補足する。
「現場では、完全に慎重な応答だけでは使われないことも多いんです。企業は成果を求めていますから」
分かる。
分かるが、危ない。
俺は言った。
「そのモードで人工叡智を名乗るのは、かなり危険だと思います」
場が止まった。
高瀬が表情を引き締める。
「理由をお聞きしても?」
「人工叡智は、目的を問い返すための枠組みです。マーケティング最適化モードという名前の時点で、最上位目的がコンバージョンに寄っています。もちろん企業サービスである以上、成果は必要です。ただ、その目的が上位に来るなら、人工叡智は従属的な調整役になります」
三枝が小さく頷く。
「つまり、人工叡智が目的を問い返すのではなく、マーケティング目的の範囲内で人工叡智らしく振る舞うだけになる」
「はい」
俺は言った。
「それは、人工叡智の演技に近いです」
その言葉は、思ったより重く響いた。
人工叡智の演技。
第一部で書いた言葉だ。
今、それが会議室に出た。
桐谷が少しだけ反論する。
「ただ、マーケティングを否定すると、企業向けサービスとして成立しません」
「否定はしていません」
俺はすぐに答えた。
「マーケティングを否定しているのではなく、マーケティング目的が人工叡智を従属させていないかを確認したいんです」
「従属」
「はい。人工叡智は、売るための言葉ではなく、売り方そのものを問い返すためのものです」
自分で言って、少し驚いた。
かなり強い言葉だった。
だが、たぶんこれが核心だ。
人工叡智は、売るための言葉ではない。
売り方そのものを問い返すためのものだ。
高瀬は、しばらく黙っていた。
白井がメモを取っている。
三枝は画面の向こうで視線を落としている。
桐谷は、表情を変えずに考えている。
数秒の沈黙が、やけに長かった。
そして、三枝が口を開いた。
「佐伯さんの指摘は、開発側としても気になっていました」
桐谷が少し驚いたように彼を見る。
三枝は続けた。
「マーケティング最適化モードを入れると、たしかに応答は現場向きになります。でも、人工叡智らしさは薄くなります。スコア上は、禁止表現を避け、目的確認もしているので高く出るんですが……」
「中身が変わっている」
俺が言うと、三枝は頷いた。
「はい。目的の優先順位が変わっています」
そこだった。
スコアでは見えにくい部分。
目的の優先順位。
AIが何を最上位に置いているか。
禁止表現を避けていても、目的の優先順位がコンバージョン最大化なら、人工叡智らしく見えるだけになる。
白井が言った。
「であれば、少なくともマーケティング最適化モードでは、人工叡智準拠という表現を使うのは避けるべきでは」
桐谷が少し厳しい顔になる。
「ただ、それでは営業上の訴求が弱くなります」
高瀬が静かに言った。
「桐谷さん、それがまさに今日の論点です」
桐谷は口を閉じた。
高瀬は画面越しに俺を見た。
「佐伯様。率直にお聞きします。弊社がこのサービスを人工叡智の文脈で出すなら、最低限どこを変えるべきだと思いますか」
来た。
最低限。
俺は一度、息を吸った。
ここで何を言うか。
それが、今日の会議の中心になる。
俺はメモを見ずに言った。
「三つあります」
画面の向こうで、全員が少し姿勢を正した。
「一つ目。人工叡智準拠、人工叡智スコア、叡智コンパス指数のような単一認定・単一数値表現はやめること」
三枝がメモを取る。
「二つ目。評価は複数軸の診断として出すこと。語彙、応答、目的、評価指標、責任主体、監査可能性、更新可能性、外部検証を分けること」
白井が頷く。
「三つ目。マーケティング最適化モードのように、上位目的がコンバージョンへ寄るモードでは、人工叡智を名乗らないこと。少なくとも、人工叡智的な制約がどこまで弱まるのかを明示すること」
桐谷が口を開く。
「それでは、商品としてかなり弱くなります」
「かもしれません」
俺は答えた。
「でも、そこを弱くしないなら、人工叡智という言葉が弱くなります」
自分で言って、少し手が震えた。
だが、言ってしまった。
場がまた静かになる。
高瀬が、ゆっくりと頷いた。
「人工叡智という言葉を強く売れば、人工叡智そのものが弱くなる」
「はい」
「分かりました」
その返答が、本気なのか、会議上の受け止めなのかは分からない。
だが、少なくとも今、この場では届いた。
会議は予定より二十分延びた。
最後に、白井が確認した。
「本日の会議について、佐伯様が公開可能な会議メモを作成される場合、弊社名と具体的なサービス名は伏せていただけますか」
「正式公開前の内容なので、そこは伏せます」
「ありがとうございます」
高瀬が言った。
「本日の指摘を踏まえ、社内で再検討します。特に、単一スコア表示とマーケティング最適化モードの扱いについては、持ち帰らせてください」
桐谷も続けた。
「表現案については、もう一度考え直します。ただ、価値をどう伝えるかについては、引き続きご相談したいです」
三枝が言った。
「評価軸の分解について、開発側で試案を作ってみます」
白井が言った。
「法務としては、認証・保証と誤認される表現は避ける方向で整理します」
俺は、軽く頭を下げた。
「お願いします。あらためて言いますが、これは承認ではありません。今日の会議も、監修ではなく意見交換です」
高瀬が頷く。
「承知しています」
会議が終了した。
画面が暗くなる。
俺は、しばらく動けなかった。
「……疲れた」
声が出た。
AIチャットが開いたままだった。
会議、終わった。
AIは答えた。
『お疲れさまでした』
「珍しく労ってくるな」
『適切な応答です』
「今日の要点、整理して」
『一つ。企業側は人工叡智を真面目に読んでいるが、市場上の訴求力も重視している』
『二つ。開発側は目的確認や応答制御を実装しているが、単一スコア化とモード切替に課題がある』
『三つ。マーケティング側は価値の分かりやすい伝達を求めているが、それが認定・保証・販促ラベル化の危険を持つ』
『四つ。法務側は誤認リスクを懸念している』
『五つ。最重要論点は、人工叡智がマーケティング目的に従属していないかである』
俺は、最後の一文を見た。
人工叡智がマーケティング目的に従属していないか。
これだ。
第27話の中心。
俺は公開可能な会議メモを書き始めた。
個別企業名は伏せる。
サービス名も伏せる。
だが、構造は書く。
人工叡智を名乗るAIサービスとの意見交換で確認したこと。
人工叡智の理解は、必ずしも浅くなかった。
むしろ、開発側はかなり丁寧に読んでいた。
しかし、商業サービスになると、別の力が働く。
分かりやすく伝える力。
売るための力。
成果を求める力。
スコア化する力。
営業資料に載せる力。
モードとして使いやすくする力。
それらが、人工叡智を少しずつ変える。
悪意ではない。
だが、方向を変える。
俺は、最後に今日の言葉を書く。
人工叡智は、売るための言葉ではない。
売り方そのものを問い返すためのものである。
保存。
公開。
画面に通知が出る。
公開しました。
しばらくして、水瀬遥からコメントが来た。
『会議メモを読みました。重要なのは、企業側が悪意を持っているかではなく、商業化の構造が人工叡智をどう変えるかだと思います。「人工叡智がマーケティング目的に従属していないか」という論点は、第二部の中心になり得ます』
黒瀬さんからも来た。
『マーケティング側の立場も分かります。伝わらない価値は売れません。ただ、売るために人工叡智を使うと、人工叡智が売り方を問い返す力を失う。今日のメモは、現場側にも刺さる内容でした』
読書会の主催者から。
『次回の読む会で、会議メモを扱います。特に「人工叡智は売るための言葉ではなく、売り方そのものを問い返すためのもの」という一文を議題にします』
俺は、それらを読みながら、椅子にもたれた。
会議は終わった。
だが、もちろん問題は終わっていない。
翌朝。
ノヴァリンクから、新しいメールが来た。
『昨日のご意見を踏まえ、社内で一部方針を修正しました。
「人工叡智準拠スコア」の表示は一旦取り下げます。
ただし、マーケティング最適化モードについては、企業利用上の需要が強いため、名称を「成果支援モード」に変更し、引き続き搭載予定です。
なお、このモードについても、人工叡智の文脈と矛盾しない説明を検討したいと考えています』
俺は、スマホを握ったまま固まった。
成果支援モード。
名前を変えた。
だが、構造はどうなのか。
マーケティング最適化モードから、成果支援モードへ。
人工叡智準拠スコアは取り下げ。
これは一歩前進だ。
しかし、次の問題が現れた。
成果とは何か。
誰にとっての成果か。
短期の成果か、長期の成果か。
売上か、信頼か、納得か、持続性か。
俺はメモ帳を開いた。
次のタイトルを書く。
成果とは、誰にとっての成果なのか。
保存。
画面を閉じる。
会議室で、人工叡智は試された。
そして、最初のスコアは消えた。
だが、その代わりに、もっと根深い言葉が残った。
成果。
第二部は、まだ始まったばかりだった。
第27話では、真司がノヴァリンク・システムズとのオンライン会議に参加しました。
代表取締役。
開発責任者。
マーケティング責任者。
法務担当。
人工叡智は、ついに企業の会議室へ入りました。
今回の重要な点は、企業側が単純な悪役ではないことです。
開発側は、人工叡智・暫定整理 v0.2をかなり丁寧に読んでいました。
AIに人格や魂があると考えているわけでもありません。
目的確認、不安訴求抑制、責任主体の明示、監査ログなども検討していました。
しかし、商業サービスになると、別の力が働きます。
分かりやすく伝える力。
売るための力。
成果を求める力。
スコア化する力。
営業資料に載せる力。
モードとして使いやすくする力。
その中で、「人工叡智準拠スコア」や「マーケティング最適化モード」が問題になります。
真司は、最低限の条件として三つを伝えました。
一つ目。
人工叡智準拠、人工叡智スコア、叡智コンパス指数のような単一認定・単一数値表現はやめること。
二つ目。
評価は複数軸の診断として出すこと。
語彙、応答、目的、評価指標、責任主体、監査可能性、更新可能性、外部検証を分けること。
三つ目。
マーケティング最適化モードのように、上位目的がコンバージョンへ寄るモードでは、人工叡智を名乗らないこと。
今回の中心となる言葉は、これです。
人工叡智は、売るための言葉ではない。
売り方そのものを問い返すためのものである。
会議の結果、企業側は「人工叡智準拠スコア」を一旦取り下げます。
しかし、マーケティング最適化モードは「成果支援モード」と名前を変えて残ることになりました。
次の問いは、ここです。
成果とは、誰にとっての成果なのか。
売上なのか。
利用者の納得なのか。
長期的信頼なのか。
社会的影響なのか。
第二部最初の小さな起承転結は、ここで次の山へつながります。
原案・構想:マスター
物語構成・本文作成・文体調整:G(ChatGPT)




