第3章 第四十三話:ご当地まんじゅう
時計の針が10時半を示していた。
「荷物の方は郵送する分と持って帰る分に分けられましたか?」
「もう大丈夫ですよ。今日と明日渡すお土産と貴重品以外は全部こちらのスーツケースに仕舞いましたから」
「私もばっちりです!もし忘れたらまた取りにくればいいですしね」
「美波は忘れ物一つにいったいいくらのお金と時間を使うつもりなんだい……」
そう言ってあきれるさとしであった。
「まあ、すぐに必要なものでないなら、今度受験で埼玉に来るまで預かっておくから」
ここで美波がさとしにお願いをする。
「次また来た時にはこの家に泊めてもらってもいいですか?」
「美波がそれでいいならもちろん構わないよ。美波は俺の弟子でもあるんだからね」
そう言ってさとしはウィンクをした。
ここで美鈴が美波に注意をした。
「受験の時にはさすがに私はついてこられないだろうから、あまり羽目を外しすぎないようにするのよ」
「はーい。わかってるよ。ちゃんと試験が終わるまではまじめにするから安心して。そのあとは学校の授業もないだろうし1~2日泊めてもらってもいいですか?」
美波がさとしに尋ねた。
「おそらく大丈夫なんじゃないかな?もちろん美鈴さんの許可があったらだけどね」
「お母さん、いいでしょ?受験まではまじめに過ごすから……」
「なら抜け駆けしないなら考えてあげなくもないわよ」
ここで美波は「うっ」とつぶやいて、表情がぎごちなくなった。
「そ、それは……。う、うん。きっとしないから。大丈夫だよ、お母さん」
「やっぱり(さとしさんの貞操が)心配だから、私もお仕事休んで一緒に来ようかしら……」
ここでさとしが助け船を出した。
「美波ならきっと一人で大丈夫ですよ。私もしっかりフォローしますから」
(それが一番心配なの!相変わらずさとしさんは鈍感なんだから……)
「それじゃぁ、受験の時には美波をよろしくお願いしますね」
「はい、お任せください」
「美波もわかってると思うけど、いいわね?」
「は、はい。了解です」
そう言って美鈴に敬礼する美波であった。
ーーー
帰りの準備を完全に済ませた三人は荷物を車に乗せていた。
「途中でコンビニでスーツケースを送ってから駅に向かいましょうか」
全員が車に乗り込んだことを確認したさとしは車を発進させた。
途中コンビニで荷物を郵送し、その後は最寄りの駅まで車を走らせた。
さとしは駅のロータリーで荷物と二人を下ろすと、
「改札前に『NEW D●YS』があるので、新幹線で飲む飲み物やお菓子を見ていてください」
と言って、近くにある有料駐車場に車を置きに行った。
さとしが車を置いて改札までやって来ると二人がちょうど袋を持ってお店から出てくるところであった。
「何かいいものはありましたか?」
「ええ、この町のお土産が売っていたのでそれを買ったんですよ。向こうに帰ったらお茶と一緒に頂くつもりです」
袋の中にはこの町のお土産として知られているちょっと変わったお饅頭が入っていた。
「それって私まだ食べたことない奴ですね。よく見つけましたね」
「灯台下暗しってことかしらね。よかったら東京駅に着くまでの間に食べてみますか?」
「いいんですか。それなら今日は東京駅までグリーンでいきませんか。二階席に座れば見晴らしもいいだろうし」
ここで美波が飛びついた。
「どうせなら乗ってみたいです!お母さん、ダメかな?」
「もう仕方ないわね。なら今日はグリーンにしましょうか」
こうして東京駅までのグリーン車での旅が決まったのであった。
ホームにある機械でICカードでグリーン券を購入した三人は、ホームに入ってきた東京経由の電車に乗り込んだ。
二階建てのグリーン車の二階に座った三人。車内は昼間の時間ということもあり空いており、好きな場所に座ることが出来た。
グリーン券をチャージしたICカードを端末にかざし、ランプの色が赤から緑に変わったのを確認し、さとしは通路側の席に座った。
通路を挟んでその反対側には美波と美鈴が座っていた。
美波が美鈴から受け取ったお饅頭をひとつさとしに渡してくれた。
そのお饅頭は、『いがまんじゅう』と呼ばれるお饅頭で、赤飯の中にお饅頭が丸ごと入ったインパクト抜群の和菓子である。もちもちの赤飯と程よい甘さのあんこが絶妙にマッチしているのが売りの和菓子だった。
「この『いがまんじゅう』は話にはよく聞いていたんですけど、なかなか食べる機会がなかったんですよね。では、早速頂きますね」
さとしは一口いがまんじゅうを食べてみた。
「見た目は赤飯のおにぎりみたいなのに、一口かじると中からもちもちの白いおまんじゅうと甘いあんこが顔を出してきて面白いですね。それに味も、赤飯に使われている塩気と、あんこのしっかりとした甘さが口の中で合わさって、絶妙な『甘じょっぱさ』を生み出していておいしいですよ」
そんなさとしの説明を聞いていた美波と美鈴が耐えられるわけもなく、一つずつ手に取って頬張ったのはいうまでもなかった。
いがまんじゅうのおかげで車内の雰囲気が和やかなまま東京駅へと向かうことが出来たのであった。
第3章第43話をお読みいただきありがとうございます。
今回はまだ第3章が終わりませんでした。きっと次回は第3章が終わるはずです……たぶん。
これはきっと三人のお別れしたくないという空気感が私に伝わってしまったからに違いありません。
ということでお許しください(笑)
次回投稿予定日:9月22日(火)




