第3章 第四十一話:ハニートラップと『ふわふわパンケーキ』
翌朝目を覚ましたさとしは天井を見ていつもと違う天井に違和感を覚える。
(あれこの天井って……)
さとしは自分の部屋と違うこの天井に見覚えがあった。
「なんで俺は客間で寝ているんだ?昨日美鈴さんたちと飲んでいて……いつ寝たのかが思い出せない……」
さとしは一度顔を洗って頭をすっきりさせようと思い体を起こそうとするが、うまく起きることが出来なかった。
さとしの両腕は両サイドで眠る人たちを抱きしめる形になっていたのだった。
(ここは客間だし、二人が寝ててもおかしくないよね。……って、なんで俺がそこで一緒に寝てるんだよ!とりあえず腕を抜いてすぐに布団から出ないと……)
さとしは腕を動かそうと手に力を入れたとたん、両方の手の平に柔らかい感触を感じたのだった。
それに合わせて二人が目を覚まし、小さく「う、うーん……」と声を漏らした。
(こ、これは俗にいう『ハニートラップ』とかいうやつでは?理性は手を放せと言っているのになぜか手を離すことを体が拒否している!)
さとしが欲望にあらがえず、もう一度だけ手の平に力を入れてしまった。
すると先程のことで起きてしまっていた美波が「あん」とわざとらしく声を出してから、
「さとしさんのエッチ……」
と顔を真っ赤にしながらつぶやいたのだった。
「こ、これはその、不可抗力というか、何というか。……ごめんなさい」
さとしが謝ると美波は笑顔をさとしに向けた。
「……いいですよ。それにさとしさんが私をそういう対象としてみてくれたってことですからね。でも触ったんだからちゃんと責任は取ってね」
そう言って美波はさとしにウィンクした。
今度は美鈴もさとしの耳元でささやいた。
「ちゃんと私も起きてましたから責任取ってくださいね」
美鈴からも美波と同じようなこと言われ、背筋が一瞬ぶるると震えたのだった。
ーーー
三人は起きあがると、顔などを洗ってからダイニングへと移動した。
「今日は朝ごはんの希望はありますか?」
「うーん、特に思いつかないです。ごめんなさい」
「私も思いつかないわ」
「それなら今日はパンケーキにしませんか?」
さとしの提案に「それがいいです!」と二人とも同意したのであった。
ホットプレートをテーブルに出すと電源を入れてプレートを温め始めた。
さとしは手際よくボウルで卵と牛乳をしっかり混ぜ合わせたあとに、粉を入れて15回から20回程度かき回した。
「さとしさん、まだ少しダマが残ってますけどいいんですか?」
「うん。これぐらいの方が焼いた時にふっくらするんだよ」
美波はふわふわパンケーキを想像しつばを飲み込んだ。
さとしは温まってきたプレートに油をひいてからキッチンペーパーで、全体に薄くのばしていった。
一度フライパンが温まったタイミングでホットプレートの電源を切り、濡れた布巾を2秒ほど押し当てて、ジュ―という音を響かせた。
「さとしさん、それって何か意味があるんですか?」
「こうすることによってプレートの温度を均一にしてあげると、焼いた時、全体に奇麗な焼き色が付くんだよ」
さとしの話を聞き感心する美波と美鈴であった。
その後、プレートの温度を低温にし、お玉一杯分の生地を30cmほど高い位置からプレートに向かって一気にトントンと落とした。
「お母さん、見て見て。凄い綺麗な円形になってるよ」
「ホントね。さとしさんは料理もできるのね」
さとしは恥ずかしそうに鼻の頭をかきながら、
「いえいえ、俺なんて簡単なものしか作れないですよ。美鈴さんの作ってくれた美味しいご飯に比べたら全然です」
そんな話をしていると、パンケーキの表面に小さな泡のようなプツプツがいくつか出てきた。
「全体の表面にたくさんプツプツが出て、それが2〜3個パチンと割れた瞬間がまさにひっくり返すのに最も適したタイミングなんですよ」
さとしは全体にブツブツができたのを確認し、ひっくり返した。
「あと2~3分程度でできますから」
そう言うとさとしは竹串を用意して、2分ほど焼いたパンケーキに竹串を刺してすぐに抜いた。
「生っぽい生地もついてこないしそろそろよさそうですね」
さとしは美波と美鈴にパンケーキを載せた皿を渡した。
「お替りも焼いておきますから沢山食べてくださいね。あとトッピングはメープルシロップとバニラアイスを用意しましたから使ってくださいね」
美波はバターを塗った後にたっぷりとメープルシロップをかけてから、切り分けて口へと運んだ。
「メープルの甘さとバターの香りがたまらないです!それに生地もふわふわでお店のパンケーキみたいですよ!もうこうなったら、さとしさんと私の二人でパンケーキ屋さんやりましょう!」
美波のこの発言に美鈴が文句を言った。
「美波は最近すぐにお母さんのことを仲間外れにしようとするのね。私は三人で一緒にやるのでもいいと思うわよ」
さとしが困ったように答えた。
「もう、二人ともからかわないでくださいよ。僕はちゃんと本業があるからパンケーキ屋さんはやりません。それよりアイスも使ってください。すごくおいしいですから」
美鈴がメープルシロップをかけたパンケーキの上にバニラアイスをのせ、少し溶けかけた状態で口に運んだ。
「メープルシロップだけでも美味しかったけど、今度はバニラアイスの冷たさと甘さが加わってまさにデザートって感じになったわ!これならいくらでも食べられそうだわ」
二人は瞬く間に1枚目を平らげた。
「お替り食べますよね?」
「「いただきます」」
相変わらず息ぴったりに返事を返す親子であった。
美波たちが広島へと帰る時間が刻一刻と近づいてきていた。
第3章第41話をお読みいただきありがとうございます。
まず最初に、第40話で二人が企てていた「秘密の作戦」については次回の投稿に持ち越しとさせていただきました。
おそらく、次回の投稿では明らかになるのではないかと思います……きっと、たぶん、maybe、etc
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次回投稿予定:9月15日(火)




