第3章 第三十話:娘はライバル(美鈴視点)
私の名前は『内海 美鈴』。広島県在住の43歳の主婦だ。自慢ではないが私の外見は優れていると思う。周りからは30代前半にしか見えないと言われている。
大人の魅力あふれるダークアッシュの緩くウェーブのかかったミディアムヘアと、身長は161㎝で体重は秘密(女性の体重を聞こうとするなんてデリカシーにかけますわ!)。
スリーサイズは「B:85 W:60 H:86」と出るところは出て、へこむところはへこんだ理想的なボディの持ち主である。
今、私は埼玉県に来ている。
最近始めた御朱印集めの旅の真っ最中である。
娘の美波と、今年のGWに美波がお世話になったことがきっかけで知り合ったさとしさんと3人で神社巡りをしている。
先ほども川口市にある『鎮守氷川神社』で御朱印をもらってきたばかりである。
そして今は来た道を戻って西川口駅へ向かっている最中だ。
時間としては約20分の距離。
時間もあることだし、少しこれまでのことを整理してみようかしら。
ーーー
夫の久波とは大学生時代からの付き合いだ。
その頃から夫には浮気癖があり、よくケンカしたものである。
ただ、当時の私はそんないい加減な夫のことを心の底から愛していると勘違いしており、いつも私が折れて許してしまっていた。
月日は流れ、私が24歳の頃、夫と結婚し、25歳で娘の『美波』を出産した。
その頃から夫は家に帰ってこない日が徐々に増え、美波が小学校に上がるころにはほとんど家に帰ってこなくなり、愛人宅に泊まるようになっていたのだ。
そして夫が帰ってこなくなる日が増えるにしたがって私の心も夫から離れていった。
小学生の低学年の頃には、まだ娘が「パパに会いたい」と言っていたが、それも徐々に言わなくなり、中学生になるころには夫のことを「あの人」と呼び、父親として認めなくなっていた。
ちなみに美波には子供の頃から好きな男の子がいた。
それはお隣に住んでいる幼馴染の男の子『浦木 理也』君だ。
しかし、その恋も唐突に終わりを一方的に告げられてしまったようだった。
異性として好きだと思っていたのは美波だけで、理也君にとって美波は単なる仲の良い幼馴染でしかなかったのだ。
美波は理也君に恋人ができた事、そして大学はその恋人と同じ大学に行って同棲することを聞かされたのであった。
こうして、告白することもなく、恋に破れ傷ついた美波は傷心旅行と称して、生口島の平山郁夫美術館へと日帰り旅行を敢行した。
そしてそこで10年ぶりに再会したのが今一緒に御朱印集めの仲間として旅行している『折口 さとし』さんであった。
美波がねん挫した脚を応急処置をして歩けるようにしただけでなく、自宅まで連れて来てくれたのであった。
その日はお礼もかねて一泊してもらうことになった。
美波は10年前にも平山郁夫美術館で迷子になっていたところをさとしさんに助けてもらっていた。
その時のことは必死に美波を探す私にとっても、美波を連れて来てくれたさとしさんが神様の様に見えたのでよく覚えている。
その人と10年後にまた同じ場所で再会して、助けてもらえたことに、美波は強い運命的なものを感じているようであった。かくいう私だってそうである。
泊ってもらった日の夕食後に、さとしの日程を聞くと、明日は広島市の御朱印を集めて回るとの事であったため、美波を連れて行ってもらうことを提案したのであった。
こうしてさとしさんとの関係が始まった。
さとしさんは決して、イケメンであったり、凄くお金持ちであったりするわけではない。
しかし、さとしさんは常に私たち親子のことを気にかけてくれるとても優しい心を持っていた。
そして、そんな彼に私や美波が心惹かれるまでに時間はそれほど必要としなかった。
それを決定づけたのは、夏休みに行った京都での御朱印集めの旅行であった。
京都で3日間一緒にいた私たちは心底彼のことを好きになってしまったのだ。
彼への想いは、昔夫に感じたような熱く燃えて心をすり減らすような恋ではなく、とても心を温かくしてくれる心穏やかな恋であった。
それとなく私は気持ちをアピールするのだが、どうにもさとしさんは鈍感で気づいてもらえていないようだ。
そして、それは美波も同じであった。
美波とは、時々さとしさんへのアピール合戦でぶつかったりもするが、それはそれで何気に楽しく感じている。
私は一番には私を選んでほしいと思っているが、最近はこのあいまいな3人の関係性も決して悪くないのではないかと少し思い始めている。
昔は父親に会えず寂しそうな顔をしていた美波が、今は前を歩くさとしさんの腕に自分の腕を絡め楽しそうに笑顔で歩いている。
そんな光景を見ると心の底からよかったと思えるのである。
しかし、同時に『美波ばっかりずるい』と女の私が顔を出し嫉妬したりもする。
女心とは複雑なのである。
そんなことを美鈴が考えていると、前方に駅が見えてきた。
美鈴は早歩きして、前を歩くさとしに追いつくと、美波がいるのとは反対側の腕に自分の腕を絡めさとしに笑顔を向けたのであった。
それを見て不満そうな顔をする美波に美鈴は「独り占めなんてさせないわよ」と言って笑いかけるのであった。
第3章第30話をお読みいただきありがとうございます。
今回の話では美鈴の視点でのお話を書かせていただきました。
美鈴が親としての顔、そして、女としての顔、その両方を持ち合わせた女性であることがわかってもらえたらと思います。ちなみに、第1章の第二話の出だしを読んでもらうと、やっぱり親子だわー、と思ってもらえるかも(笑)
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