第八話:出発【加筆&修正】(26年6月17日)
ジリリー、ジリリー、ジリリー……。さとしは寝ぼけながらも、おもむろに手を伸ばして充電器につながっているスマートフォンを手に掴み、アラームを止めた。
そして仰向けになり、薄暗い部屋で天井を見上げた。
「知らない天井だ……」
これは中二男子が一度はやってみたくなるアレである。
そんなことをしていると部屋の外から美波の元気な声が聞こえてきた。
「さとしさん起きてる?朝ですよー」
「おはよう、美波。着替え終わったらそっちの方に行くよ」
「わかったー。部屋の向かい側に洗面所があるからそこで顔とか洗っちゃって。タオルも置いておくから」
「わかったよ。ありがとう」
素直にお礼を言うさとしに、美波がからかうようさとしに言った。
「あ、でも、洗濯機の中は覗いちゃだめだからね。中に昨日はいた私とお母さんの下着が入ってるんだからね」
その言葉に一瞬想像しかけるさとしは慌てて否定する。
「そんな、変なことはしないから!」
「あはは。じゃ食堂で待ってるね」
そう言うと足音が遠ざかっていった。
ーーー
洋服を着替え、布団と着ていた浴衣をたたんで端っこに寄せておいた。
その後洗面所で顔を洗ってから、口の中をすすぎ、昨日夕飯を食べた食堂へと向かった。
食堂にはすでに二人とも来ており、朝食を並べてくれていた。
「美鈴さん、おはようございます。あと美波もあらためておはよう」
朝の挨拶をすると二人から同時に元気な声が返ってきた。
「「おはよう、さとしさん」」
(ほんとにこの二人そっくり親子だよな……)
朝食のメニューは広島の定番、がんすトーストがあり、それとは別に目玉焼きと断面がサクラの形をした「花ソーセージ」、それにサラダが一つのお皿に盛りつけられていた。
さとしが初めて見るガンストーストに少し戸惑っていると、美鈴が説明をしてくれた。
「これはね、がんすトーストっていうのよ。広島県では結構ポピュラーなんだけど見たことない?」
「初めて見ました。それに今まで聞いたこともなかったです」
素直に伝えるさとし。
「このガンスっていうのはね、白身魚のすり身に玉ねぎや唐辛子なんかを混ぜて、パン粉をつけて油で揚げた広島県発祥の魚肉フライなのよ。サクサクした食感と、ほんのりピリ辛でジューシーな味わいが特徴なの。おいしいから食べてみて」
勧められたがんすトーストをかじってみるさとし。するとサクッとした歯触りにピリ辛でジューシーな味わいが口の中いっぱいに広がっていった。
「これはおいしいですね。私、結構これ好きかもしれないです」
割とピリ辛好きなさとしはこの味が気に入った。
「それに断面がこんな可愛い桜のような形をしたソーセージも初めて見ましたよ」
それに対して美鈴に負けまいと美波が今度は教えてくれた。
「それはね、広島の老舗メーカー『福留ハム』が昭和から販売している、断面がサクラの形をした『花ソーセージ』って言って、朝食の定番なんだよ」
(この親子、やたらと食べ物とかに詳しいよね。やっぱり親子そろって食いしん坊なんだろうな)
そんなことを考えているとつい口元が緩んでしまう。
それを見た美波が首を少し傾けながら聞いてきた。
「なんでさとしさんは笑ってるんですか?」
「いやぁ、二人ともおいしいものが本当に好きなんだなって思ってね。俺もそうだからうれしくなっちゃって」
「おいしい食べ物は元気に生きるための活力になりますからね!今度の旅行でもたくさんおいしいもの食べて来てくださいね」
おいしく朝食を頂いたさとしは出発の準備を始める。
さとしは出発準備が整ったところで美鈴の元へ挨拶へやってきた。
そこにはすでにかばんを持った美波も来ていた。
「美鈴さん、一晩お世話になりました。後、美波ちゃんをお預かりさせていただきますね」
「大したおもてなしもできなかったけど、明日は無事に戻ってきてくださいね。そして沢山旅のお話しを聞かせてくださるのを楽しみにしてるわね」
美鈴は笑顔でそう言ってくれた。
その笑顔はとても魅力的でつい見とれてしまうさとし。
すると、「痛っ」唐突に右腕に痛みが走った。
ムスッとした顔の美波がさとしの腕をつねったのであった。
「さとしさん、お母さんにデレデレしすぎ!私というものがありながら!」
「いつから俺は美波に物になったんだよ」
「ひどい、私の心をもてあそんだのね。これは責任取って結婚してもらわないと!」
本気なのか冗談なのか解らないようなトーンでさとしを責めた。
「はいはい、そんなことより準備はできているのかい?遅いと置いていくよ」
自信満々に美波が答えた。
「もうばっちりだよ!いつでも出発できるから」
「さとしさんにあまり迷惑かけないのよ。さとしさん、娘をよろしくお願いします。」
「お任せください。ちゃんと無事に連れて帰ってきますから」
美鈴は美波にもちゃんとお願いするように促した。
「さとしさん、不束者ですがよろしくお願いします」
おどけて見せる美波。
「いや、嫁にもらうわけじゃないからね!」
「さとしさんのイジワル!」
微笑みながら文句を言う美波は、さとしの目にとても可愛く映り、年甲斐もなくドキッとしてしまった。
ーーー
内海家の前に一台の車が用意されていた。フロント部分には鳥が翼を広げたようなエンブレムが付いていた。マツダのマークであった。
「MAZDA CX-5なんだけど大丈夫かしら?」
「このサイズなら日頃運転してるものと大して変わらないので大丈夫だと思いますよ」
そう言って鍵を受け取った。MAZDA CX-5は2列シート ・ 5人乗りでマツダのファミリーカーとして人気の高い車種である。後席や荷室が広いのが特徴で旅行にはもってこいの車であった。
車の荷台に二人分の荷物を載せ、車に乗った二人。
美波が助手席の窓を開けて美鈴に対し、「行ってきます」と元気な声を上げた。
「気を付けてね。それじゃあ、娘をよろしくお願いします」
「それではまた明日の夜にお世話になります」
そう言うとエンジンをかけ、ゆっくりとアクセルを踏み込んでいった。バックミラーに映っている美鈴の姿が小さくなっていき、左折したことにより完全に見えなくなった。
美波とさとしの波乱の旅は今まさに始まったばかりであった。
食いしん坊たちの御朱印集め紀行をお読みいただきありがとうございます。
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次の投稿時期は基本的に未定です。この作品はメインの「幼馴染の境界線」の投稿の合間に作成していきますので、ランダムな投稿になると思います。




